第46話 コーヒーの匂いと先輩
友達とその友達の家やカフェ、ファミレスなどで勉強をするというのは定番で、自宅で勉強をしているよりもかなり捗るものだ。自宅にはテレビや漫画、ゲームなど色々な誘惑があり勉強の進行を阻害されてしまう。
なので、自宅ではなく史織の家での今日の勉強はとても捗っていた。
……なんてそんな訳ないでしょうが‼︎
こんな状況で勉強が捗る人なんている訳がない‼︎ 捗る方が頭イカレてるわ‼︎
どれだけ勉強に集中しようとしても、私の頭の中は先輩の事でいっぱいだった。
私は今、好きな人の家に来ていていつも好きな人が過ごしている生活空間の中に居る。
テレビの横に置いてある車の模型は先輩の趣味なのだろうか。壁にかかっているドライフラワーはお母さんの趣味なのだろうか。
そんな事ばかりを考えてしまうので勉強に集中出来る訳などなかった。
極め付けは好きな人が同じ家の二階にいるというこの状況。たまに聞こえてくる先輩の足音や物音が私のイメージを掻き立てる。
好きな人の家に行くというイベントが急に発生する事などそうそう起こる事ではない。
先輩が二階にいる……。先輩の部屋、入りたいな……。
「……な」
先輩の部屋、どんな感じなのかな。いい匂いとかするのかな……。
「……ずな」
先輩の趣味ってなんなんだろう。本がいっぱい置いてあったり、ゲームがいっぱい置いてあったりするのかな……。
「水菜っ」
「な、何⁉︎」
「大丈夫? ボーッとしすぎじゃない?」
「ご、ごめん」
先輩の事を考えていたら、勉強が手につかないどころか史織の言葉さえ耳に入らなくなくなってしまっていたようだ。どれだけ先輩の事で頭いっぱいなんだよ私……。
「史桜くんの事考えてた?」
「べ、別に⁉︎ そんな事ないけど⁉︎」
そんな事なくはない。思いっきり図星である。史織には私の頭の中が見えているのだろうか。そう思うほどに的を得た質問だった。
「もう隠さなくていよ。水菜が史桜くんの事好きなのは知ってるから」
「う、ううぅぅ」
自分の好きな人が友達に気づかれるというのは恥ずかしい事である。ましてやそれが好きな人の妹に気づかれたとなれば恥ずかしさは倍増どころの話ではない。
というか私、先輩の妹に一緒にお昼ご飯食べるとかって言って一緒に弁当食べてたのを中断してたって事だよね⁉︎ 穴があったら入りたい……。
「一回休憩しよっか。コーヒーでも入れるね」
「ありがとう」
史織は席を立ち、テキパキとコーヒーを入れ始めた。
「史桜くんの分も入れるから。よかったら部屋まで持っていってあげて」
「私が⁉︎ そんなのいいよ。先輩も落ち着かないだろうし史織がもっていってあげて」
「大丈夫。きっと水菜が持っていってくれたら喜ぶと思うから」
私がコーヒーを持って行って先輩が喜ぶ事はないと思うが、史織からの提案は恐らく私の気持ちを見抜いての事だろう。
私が勉強も手につかず友達の声も耳に入らなくなる程先輩の事を考えていた事を見抜かれ、さらには先輩の部屋に行きたいという気持ちまで見抜かれていたのかもしれない。
もし本当にそれを見抜いて私にコーヒーを持って行けと提案してくれたのだとしたら、史織は私の恋を応援してくれているという事になるのだろうか。
というか、友達がお兄ちゃんの事を好きな状況を史織はどのように感じているのだろうか。嬉しいと思うのか煩わしいと思うのか……。
「史織は先輩にいつもコーヒー入れてるの?」
「一緒に住み始めたのはここ最近だし、史桜くんにコーヒー入れてたのはこっちに帰ってきたときくらいだよ。史桜くんがコーヒーを好きなのは知ってたから、入れる練習はしてたけどね」
先輩はコーヒーが好きなのか。私も将来先輩にコーヒーを入れる事になるのであれば、今のうちに練習を……。
って私どれだけ先輩の事好きなの⁉︎ 聞く話聞く話全てを先輩に結びつけるなんて……。
これだけ好きという思いが強いなら史織に私の気持ちが気づかれてしまうのも無理はない。
「そうなんだ。史織はお兄ちゃんが好きなんだね」
「うん。それなりにはね」
それなりにと回答した史織だったが、史織が先輩に対して抱いている好意はそれなりには見えなかった。先輩といるときの史織は学校にいるときとは違う、とても優しい笑顔を見せているから。
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