第15話 宣誓

 坂井として仁泉と付き合い始めてから二週間が経過し、俺は仁泉とデートする予定を翌日に控えていた。これまで仁泉と面と向かって会う予定は色々な理由を付けて断ってきたがそれももう限界。


 ある日は道端の老婆を助けてドタキャン、ある日は母親を病気にしてドタキャン、そしてまたある日は家の鍵を無くしてドタキャンなど、かなり苦しい理由で仁泉との予定をことごとく断ってきたが、ラインの雰囲気から察するに仁泉の坂井に対する気持ちは消え去ってはいない。

 仁泉が坂井の事を嫌いになれば自然と仁泉の方から別れを告げてくるのではないかとも思っていたが的外れだったようだ。


 そして俺は今日も昼休みに真野と一緒に真野が作ってきてくれた弁当を中庭のベンチに座って食べている。


 この状況、誰かに見られたら俺餌付けされてるみたいだよな。まぁ真野の弁当が美味くて最近は昼休みが待ち遠しくなっているのも事実なので餌付けと思われても致し方がない。


「あのさ、明日仁泉とデートなんだわ」


「そうなんですか。これ以上変な関係にだけはならないでくださいね」


「あれ、俺微塵も信用されてなくね?」


「こんな状況を作り出した先輩の事なんて信用すると思います?」


「それはそうだけど……。これ以上ややこしい状況なんてどうやったら作れるんだよ。まぁ気をつけるわ」


 一応否定してはみたものの、真野の言ってる事が正論すぎて反論の余地は無い。なんだかんだ真野にはいつも言いくるめられてるんだよなぁ。まぁ威厳もクソもない先輩だし仕方がないけど。


 とはいえ、こんなクソみたいな先輩でも先輩である事に変わりはない。たまには先輩らしくて男らしい、真野から憧れられるような行動を見せなければならない。


「明日のデートでさ、仁泉の事振るわ」


「え、急にどうしたんですか⁉︎ てっきりまだまだ仁泉先輩に未練タラタラなのかと思ってましたけど」


 仁泉に未練タラタラなのは間違いない。仁泉に対する好意は無くなっていないし、このまま仁泉と坂井として付き合っていても幸せになれるのではないかと思う事もある。

 しかし、それは正解ではないと真野に教えてもらった。答えに気が付いたのならいつまでもこの関係を続けるべきではない。


「真野から俺にはもっといい人がいるって言われて色々と考えてさ。仁泉に対する気持ちがなくなった訳ではないけど、ケジメは付けないとなって」


 そもそも俺が坂井として仁泉と付き合う事自体あり得ない話なのだ。そう割り切れば最善の選択をするのは難しい事ではなかった。

 この状況のまま仁泉とずっと付き合って話をややこしくするよりも、どれだけ別れを切り出しづらい状況でも早めに別れを告げてしまった方がお互いのためになる。


 まぁ別れて得するのは仁泉だけなんだけどね。真野は俺にはもっと良い人がいると言ってくれたがそれはない。そんな事を言うなら真野が俺と付き合えって。 ……うん、冗談だから俺の妄想の中でそんな顔するのやめてくれる? え、俺今から殺されるの?


「それはいいことですね。まぁチキンな先輩のことですから、どうせ言い出せなくて泣いて帰ってくるんじゃないですか?」


「バカいえ、俺をなめるな」


「なめまくってますよ。全身なめ回してます」


 そのなまめかしい言い方やめて。色々考えちゃうから。ちょっと興奮しちゃったんだけど。おはよう息子。


「というか先輩、明日のデートって仁泉先輩との初めてのデートでしょ? 初デートで女の子振るとか鬼ですか」


「それだけは言わないでくれない? 俺も何回も考えたから。でも頑張って振るって決めたんだからもっと先輩の気持ちを察っしてくれでもいいんじゃないでしょうかデリカシーとかないんですか?」


 真野の言う通り初デートで振られる仁泉の気持ちを考えたら心苦しい部分はあるが、俺はもう決心したのだ。

 真野だって俺が仁泉を忘れられるよう協力してくれてたのに、今更鬼とか言われても困るんですけど。


「……すいません。確かに気遣いが足りませんでした。とりあえず私は先輩が仁泉先輩を振らない、いや、振れないに一票です‼︎」


「まぁ見とけって。ちょちょいと振ってきてやるから」


「じゃあ先輩が仁泉先輩を振れなかったらタピオカ奢ってください」


「いいぞ。間違いなく奢ることは無いだろうし。てかタピオカってちょっとブーム過ぎてない?」


「私は好きなんですっ」


 そう言ってプイッと顔を横に向ける真野の表情を見ながら、俺は仁泉を振れると確信していた。


 仁泉を振る。これは決定事項だ。この状況を変えてやる。俺は明日、仁泉に別れを告げる。

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