第13話 欲深い私
坂井くんと付き会う事になったその日、私はラインで坂井くんとやりとりをしていた。質問を重ねて知った事だが、坂井くんは私と同じ年齢で私とは別の高校に通っているらしい。
初めて好きになった人と付き合えるという喜びを噛み締めてはいるものの、私はそれを心の底から喜ぶ事が出来ないでいた。どうしても榊くんの事が頭をよぎってしまう。考えたくなくても考えてしまう。榊くんと坂井くん、名前似てるし。
私は最低だ。榊くんを振って坂井くんと付き合った事を梨沙に話したらきっと怒られるだろう。それでも、他の人の事が気になったままで榊くんと付き合うのは失礼だと思ったのだから、榊くんを振るという選択肢は間違いでは無かったはずだ。
榊くんを振った罪悪感に苛まれている自分の気持ちを楽にするためには、繰り返し何度も何度もそう考えるしかなかった。
◇◆
坂井くんと付き合う事になった翌日、私は隣の席に座っている榊くんに声をかけようとしていた。榊くんの事を振ってから私と榊くんの間には会話がなくなってしまっている。それは勿論榊くんを振った私が原因なのだが……。
坂井くんと付き合うために榊くんの事は振ってしまったというのに、榊くんとは出来れば仲のいい友達でいたい、他愛の無い世間話や悩み事だってなんでも話せる仲の良い友達でいたい、そう思ってしまっている。自分の欲深さに嫌気がさした。
別れたカップルが気まずさから会話を出来なくなるのはよくある事。今はまさにそんな状況で微妙な空気が流れていた。
しかし、これ以上会話をしない期間が長引くと私たちの関係は悪化の一途を辿ってしまうので声をかけるなら今日の朝一しかない‼︎ よし、声をかけるぞっ。
そう意気込んでいた矢先、その出来事は突然やって来た。
「先生、僕目が悪くて、なんとか我慢してたんですけどやっぱり一番前の席にしてくれませんか?」
朝一で先生が教室に入って来るや否や、榊くんは自分の席を一番前に変更してほしいと先生にお願いしたのだ。
榊くんはメガネをかけているし目が悪いというのは本当なのかもしれない。黒板が見えづらいなら目を隠してるその長い前髪切ったら? と思わなくもないがそれは胸の内にしまっておこう。
それにしても、このタイミングでの座席変更のお願いは私から離れたいという気持ちがあるのではないかと思わずにはいられなかった。
私と榊くんの間に気まずい空気が流れているのは間違いないが、私は仲の良い友達として榊くんと一緒にいたいと思っているのに……。
このまま榊くんの席を変更させては駄目だと勇気を振り絞って前の席に移動しようとしている榊くんに声をかけようとしたが、直前で話しかけるのをやめた。
私の方から一方的な理由で榊くんを振っておきながら、どの口が榊くんを引き止めるというのだろうか。私の隣からいなくならないで、とそんな身勝手でわがままな事は言い出せなかった。
結局私はそのまま行動を起こす事は出来ず、榊くんが自分の机を持って前の席に移動していく姿を、ただただ見つめることしか出来なかった。
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