涙のあふれる永い夜に
葉月 望未
序章 夜の案内人
ようこそ
ある世界では人間という種族が頂点に立ち、自分たちよりも大きな生物をいとも簡単に倒すことができました。
また目に見えないほど小さな生物さえ手に入れ、自分たちのために使っています。
人間はそれほどに巨大な力を持っていました。
そんな強い人間ですが、一人では何もできません。力を合わせて支え合って生きていかなければなりませんでした。
ですが、おかしなことに彼らは自分たちの中で仲間外れを作り、力のあるものは弱者を従えていました。
もちろん、これは悪い部分にばかり目を向けていますよ。良い部分もあります。
けれど、ある女の子にはこの世界がそう目に映っていました。
この世界がある、ということは即すなわち別世界もある、という考えには至りませんか?
——そうですよ。違う世界も存在しているのです。それを女の子はまだ知りません。
*
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*
またある世界では、世界から逃げてきた弱者の人間たちが集まり、思いやりの世界を作ろうとしました。
名を「
朝が来なければいいのに、と切望した人間達の手によって作られた国です。夜国は夜がとても長く訪れます。
その世界には他に三つの国が存在しています。
「
日華国は、弱者の中の強者とでもいいましょうか。ある男が声をあげ、国を作りました。
この国は元いた世界と地形や気候が似ているため四国の中で一番多くの人が住んでいます。
碧水国は、青く透き通る美しい水の国。
雨が多く降り、水によって心が落ち着く——泣くことで自分を保っていた人々が望んで作った国です。
玉樹国は、巨大な神樹を中心に国が作られました。
特殊な土壌で作られる穀物や野菜は絶品と、名高く評判です。
植物が大きく生き生きと育つ地。
人々は、尊い心を持ち、愛に溢れています。生きるという行為を丁寧に——ゆったりとした時間が流れる国です。
*
*
*
みなさま、どうでしょう。住んでみたい国はありましたか?
——ああ、申し遅れましたが、私は「夜の王」と呼ばれる者です。
物語は実に極上。貴方の人生も貴方という主人公の物語なのです。どこで生きるかを決めるのは全て貴方次第。
生きるべき場所は他にあるのではないか、と思ったことはありませんか?
私はそんな方々をご案内する役目を仰せつかっております。
実は、これからひとり、ある女の子をご案内する予定でして。
——いや、私から見れば女の子ですが、人間界では大人の女性でしたね。これは失敬。
ああ、もうこんな時間だ。私はそろそろ迎えに行かねば。
あ、言い忘れていました。ご案内が必要であれば、いつでもお声がけください。——それでは。
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