第59話 A9









ベッドの上に飾ったシロツメクサの花かんむりが、私を見守ってくれている気がした。









 決意を込めた言葉は時として残酷に響くのかもしれない。 

 それは同時に暖さんを諦めないと宣戦布告したのと同じだった。

 紗有美さんは涙をぬぐいながら微笑んで、その綺麗な顔は笑うとより一層輝きを増した。


「ありがとう。…さすが、暖が選んだ人だな。もし嫌だって言ったら、別れろっていうつもりだった」


「…私たち、ライバルですか?」


「ううん。私じゃ……ダメだったんだ。だから、今はもう蒼依のこと応援してる」


 強がっているのは分かっている。

 差し出した左手が震えていたから。


「ありがとうございます。紗有美さん、良い人ですね」


 震えるその左手を両手で包んで、私は笑った。

 気がつけば泣いていた私の涙を紗有美さんの右手が拭った。


「当たり前でしょ。誰だと思ってんの」


 初めのむき出しの敵意はどこに行ったのか、紗有美さんは、見た人誰もが恋に落ちそうな泣顔で笑った。


「あーーもう!今日は飲むよ!買い出し行くよ買い出し!」


「私未成年ですけど……」


「ちょっとくらい付き合ってよ!それと今夜は泊まるから!」


 流石に遠慮したかったが、紗有美さんの涙を隠した笑顔を見たらそうも言ってられなかった。

 立ち上がり部屋を開ける紗有美さんにすごすごとついていく。


「あ、この花瓶……」


 紗有美さんは小声で何か呟いたがよく聞き取れなかった。


「何ですか?」


「ううん…この花、綺麗だね。なんて言う花?」


 玄関に向かう途中、キッチン横の窓に飾った2輪の白い花を見て紗有美さんは振り返った。


「アルストロメリアです」


 決意ができたのも、この花のおかげかもしれない。

 白のアルストロメリアの花言葉は、「凛々しさ」。

 暖さんがいない2週間も、寂しさに負けないように願いを込めて買ってきた花。

 


 

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