Episode 5-9 命の対価

 アイギルの街を出て、三日目の夕方。


 又三郎はモーファの街の、冒険者ギルドの扉をくぐった。めっきり人影が少なくなったホールを抜け、疲れ切った身体を引きずるようにして、カウンターへと足を運ぶ。


「お帰りなさいませ、マタサブロウさん」


 カウンターの向こうから、イザベラが声を掛けてきた。周囲には他にもまだ何人かの受付嬢がいたが、ケイトという名の受付嬢の姿は、今は見えない。


 又三郎は懐から封書を取り出し、イザベラに手渡した。封書には少しが入っていた。


「これがアイギルの冒険者ギルドから渡された、文書の受領書だ。中身を確認して欲しい」


 又三郎が差し出した封書を受け取ったイザベラは、手際よく開封して中に入っていた文書に目を通した。


「はい、確かに確認致しました。大変お疲れさまでした」


 微笑するイザベラに、又三郎はただ力なく頷いた。今回の依頼は、本当に身も心も疲れた。早く教会に帰って休みたいと、つくづくそう思った。


「少しお待ちください、今回の報酬の残金をお持ちします」


 そう言うとイザベラはカウンターの奥の方へと引っ込み、しばらくして小さな布袋を手に戻ってきた。


「こちらが、今回の依頼に関する報酬の残金です。金貨三枚と銀貨五枚、どうぞお確かめ下さい」


 袋の口を開けると、中に入っていた金貨と銀貨がちゃりちゃりと、きらびやかな輝きと共にてのひらの上へと零れ落ちた。


 これが今回の依頼における自分の命の値段、そして又三郎が斬り捨てたクレア達の命の値段――そう思うと、又三郎は何ともやりきれない気持ちになった。


「そのご様子からすると、道中はなかなか大変だったようですね」


 やや遠慮がちに、イザベラが尋ねた。


「出来ればこれからも、マタサブロウさんの力を頼りにさせていただきたいものです」


 金を小袋に戻して懐にしまうと、又三郎は大きなため息をついた。


「出来れば次からは、もう少し楽な仕事を頼む」

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