Episode 4-6 約束と対価
気が付くと、陽の光の角度が少し変わっていた。前回の
それから又三郎は慌てて、シンシアを見送った屋敷へと駆け戻った。
「あらマタさん、時間ぴったり」
シンシアが、にこやかに微笑んだ。まるで大輪の花が咲いたようだった。
「約束は必ず守る、信用第一というやつだ」
わずかに息を弾ませながら、又三郎が答えた。その様子を気にする訳でもなく、シンシアはごく自然に又三郎の隣に立ち、ゆっくりと歩き始めた。
夕刻に差し掛かると、街の人々の往来は一段とせわしなくなったように見えた。すぐ隣にいるシンシアを見失うようなことはなかったが、周囲の様子に気を配るのには少々骨が折れた。
道中、又三郎は幾分緊張したが、結局その日はシンシアを無事屋敷まで送り届けることが出来た。
「何事もなかったようで、何よりだったな」
又三郎がほっと一息をつくと、シンシアが小さく頭を下げた。
「そうですね、お勤めありがとうございました。ひょっとしたら、誰かに後をつけられていたというのは、アネットの思い違いだったのかも」
「それならばそれで問題はないが、今しばらくは用心を続けるに越したことはない。それに」
又三郎は、神妙な面持ちで続けた。
「そなたを守るのは、それがしにとっては大事な仕事なのでな。ここですぐに終わってしまうと、また次の仕事を探さなければならなくなる」
又三郎の言葉に、シンシアは思わずぷっと噴き出した。その笑顔が、随分と愛らしい。又三郎も、ついつられて笑った。
「そういうことであれば、マタさんにはずっと私の付き添いをしていただくことにしましょうか」
「うむ。そうしていただけると誠にありがたいのだが、流石にそういう訳にはいかんだろう」
ウィリアムは娘の身を案じて、随分と手間賃を弾んでくれているが、あまりにも長くこの仕事が続けば、流石にそれも負担になってくることだろう。このままずっと何も起こらなかったとしても、いずれはこの仕事を終えなければならないはずだ。
だが、それは今しばらくの間は気にせずとも良いことだった。屋敷の玄関前でシンシアを待っていたウィリアムに挨拶をすると、又三郎はその日の仕事を終え、教会への家路を急いだ。
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