Episode 4-2 悲しみよりも、まだ
「駄目です」
ナタリーの返事は、即答だった。
その日の夜、ティナを交えた三人で、又三郎が冒険者の仕事に就く話をしてみたのだが、ナタリーの反応は又三郎の予想通りだった。
「大丈夫だって、ナタリー姉。マタさんは相当腕が立つ人だから、危ないことなんてないない」
ティナは軽く手を振って笑ったが、ナタリーは首を横に振った。
「ティナ、そんな単純な話じゃないの。これはマタさんの在り方の問題なんだから」
「またいつもの、冒険者なんてろくなもんじゃないーって話? そりゃまあ、ナタリー姉の言いたいことも分からなくはないけれどさ」
ティナは小さく肩をすくめた。
「マタさんに限って、そんな悪い道へと足を踏み外したりはしないよ。それとも何、そんなにマタさんのことが信用ならない?」
微妙に意地の悪い笑みを浮かべるティナを、ナタリーはきっ、と睨んだ。
「しかしまあ、この教会のことを悪く言うつもりはないのだが、我々の台所事情が厳しいことは事実だ」
又三郎は、努めて重々しく言った。
「教会の信者達は皆良い人物ばかりだが、決して裕福な者達ではない。彼らからの謝儀だけでは、この教会を維持し子供達を養うことは、なかなかに難しい」
「それは」
「ティナ殿も時折こうやって戻ってきて、差し入れなどをしてくれているが、稼ぎ手が多いに越したことは無かろう。なに、ティナ殿の話では、この街を離れることなく冒険者とやらの仕事をこなすことも出来るそうだ」
「……」
「で、ものは試し、冒険者ぎるどとかいう場所で、一度話だけでも聞いてみようかと思う。どうしてもナタリー殿のお気に召さぬ時には、また考え直してみるから」
又三郎としても、ただ教会の居候として寝起きしているだけというのには、いささか退屈を覚えていた。また、ティナの言うように、己の腕を活かして金を稼ぐことが出来るのであれば、それはそれで良いことだろうとも思い始めていた。
「金も稼げぬ身では、この教会にとってそれがしはただの穀潰しだ。それでは何とも申し訳が立たない、それならば少しでも口の数を減らす方が」
「もう、分かりました! でも、時と場合によっては、マタさんにも考え直してもらいますからね!」
ナタリーが小さく頬を膨らませて、半ば
一方、又三郎はナタリーが、久方ぶりに歳相応の豊かな表情が出来るようになったことを、内心では微笑ましく思っていた。出来るだけ彼女には笑顔でいてもらいたいが、まだ怒っている顔の方が、少なくとも泣き顔よりはずっと良かった。
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