Episode 3-5 変化

 翌日の朝、大勢の街の衛士達が教会を訪れた。彼らを教会に呼んだのは、近所の農家の者だった。教会の前にはちょっとした人だかりが出来、彼らは眉をひそめながら小声で口々に話をしている。


 三人の男達の死体は、又三郎の手によって教会の外に運び出され、古びたシーツを乱雑に掛けられていた。シーツには、赤黒い染みがいくつか浮かんでいた。一方、ジェフの遺体は同じく又三郎の手で、教会内で丁重に安置されていた。


 又三郎は男達を斬殺した容疑者として、一時モーファの街の衛士詰所へと連行されたが、先日の街での騒動のことや、ジェフが殺された際の傷口が又三郎の持つ刀と一致しなかったこと、教会の子供達の証言などから、犯罪者の捕縛が出来ず、やむなく相手を斬り殺したものとして扱われ、程なくして釈放された。


 正しくは、又三郎が最後に殺した男についてはその限りではなかったのだが、唯一その現場にいたナタリーが一切を黙して語らず、衛士達も目の前で父を殺された娘の心情を哀れみ、彼女を深く追求するようなことはなかった。


 ジェフの葬儀はつつましく、しめやかに執り行われた。モーファの街中にある豊穣の女神エスターシャの神殿から神官が遣わされ、神の教えの普及と孤児達の養育に努めたジェフの善行を称えた。街はずれの小さな教会には、思いのほか多くの葬儀への参列者が集ったことで、生前のジェフの人徳が偲ばれた。


 教会の子供達は、ジェフの死を大いに悲しみ、泣き濡れた。そんな子供達を、ナタリーは言葉少ないながらもかいがいしく世話をしたが、一方で又三郎のことを避けるようになった。必要最低限の言葉は交わしてくれるが、以前のような親しさがなくなった。


 最初の頃は、父を失ったことによる悲しみが要因なのだろうかと思っていた。だが、それだけが理由であれば、又三郎一人だけが避けられるといったことにはならないだろう。


 又三郎を見るナタリーの眼差しは、どちらかというと「壬生浪みぶろ」と呼ばれた新選組隊士を見る京の住民達のそれに近かった。見覚えのあるその眼差しに、若干の心苦しさを感じはしたが、又三郎にはどうすることも出来ない。


 時が解決してくれることなのか、そうではないことなのか――いずれにせよ、又三郎はこの教会においては単なる居候でしかなかったので、ただひたすらに沈黙を守ることにした。


 それは又三郎がこの世界に来て、初めて味わった孤独感だった。だが一方で、元々自分はこの世界における異物であると考えれば、耐えられないほどのものでもなかった。


 会津に残してきた父母の顔が、一瞬だけ脳裏をよぎった。現在の自分の身の上において、父母は今も健在であると言って良いのだろうか――又三郎はふと、そんなことを思った。

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