第9話 冒頭陳述

「これより、国王陛下暗殺の罪についての審理を執り行います。

 被告人は前へ」


 ついに始まってしまう。この雰囲気で……勇者さまの無実が証明されるのか?

 そんな未来がまるで見えない……。


 裁判長が勇者さまを中央に呼びつける。それに従い勇者さまは中央の台に立った。


「名前を年齢、それと職業をお願いします」


「……ヒアロ、二十歳。……勇者」


「では起訴状を」


 右側にいるしっかり正装した男が紙を持ち立ち上がる。


 だが、その男にスタコラと近づく王子さまがその紙を奪いとる。

 そのまま、裁判長のほうを向いた。


「被告人ヒアロは、魔王討伐を祝した会食パーティにて、ワインに毒物、アコニチンを混入させて被害者に飲ませ、殺害した者である」


 明らかに王子さまの仕事ではない。だけど、裁判長がそれを止めることなく、勇者さまを見た。


「被告人、この起訴について、間違いはありませんか?」


「当然、間違いしかありませんね。何度も言っている。

 俺は、国王陛下を、殺してなど、いません」


 勇者さま……。


 はっきりと声に出すさまから、負ける気はサラサラないと言う意気込みがしっかりと伝わってくる。


 それに対して僕には答える方法がないのが、もどかしくてたまらない。


 一方で裁判長は手順を進める。

 それに伴い王子さまから、さらに詳細が聞かされていく。


「被告人ヒアロは会食の日程が決まった日には暗殺の計画を企てていた。


 動機は自身の人気と地位を利用し、この国を乗っ取ること。


 そして、手のひらに隠せるほどの毒物を隠し持ち、会場に入る。その後、殺害の機会をずっとうかがっていた。


 やがて、目の前にあるワインを姫や自身、被害者に注ぎ空にして、新しいボトルを開ける口実を作る。


 その後、被害者の目の届かなくなるところでボトルを開けて毒物を混入。それを被害者のグラスに注ぐことで、毒殺をおこなった。


 以上が、この事件の内容となります」



「事実無根ですね、王子殿下。

 あなたの妄想を俺に突き付けないでもらえますか?」


「被告人は質問以外では口を開かないようにお願いします」


 勇者さまが裁判長をにらみつけるが、残念ながら撤回はない。

 勇者さまの口から洩れる舌打ちも彼らには届かない。


「以下が証拠となります」

 むろん、王子さまも止まることなく続ける。


 先に出されたのはひとつのボトル。僕も見覚えが十分にある。


「まず、こちらのボトル。被害者のグラスに注がれたワインボトルになります。


 検死により確認された毒物アコニチンが、こちらのボトルからも検出されました」


 それに合わせるように、コルク栓が出される。


「しかし、このボトルについていたコルク栓からは、ワインの染み込みは確認されましたが、アコニチンの検出はされていません」


 ボトルの中には毒があったが、コルク栓のほうには毒がなかったと。


「そこから示されることはひとつ。

 少なくとも、毒物が混入したのは、被告人がコルク栓を開けた後、ということになります」


 勇者さまがコルク栓を開ける前に毒が入っていたなら、中身のワインが染み込んだコルク栓からも検出されるはずだと。


 だが、検出されなかったため、開けた後だと断定するわけか。


 入っていたけど、毒が付着しなかった、というのはコルク栓にワインは染み込んでいるため、否定されると。


 コルク栓自体も、一度開けたら器具による穴が開いて使い物にならなくなる。

 よって、使い回しも不可能か。


 その後も、いろいろと証拠品が提出されていく。ただ、目立ったものはボトルとコルク栓だけ。


 後は、紙媒体の資料が説明されつつ、提出されていく。


 主に、ワインや料理に、もともと毒は入っていなかったという証拠。

 勇者さま以外に、毒を混入させることができた者はいないと。


 そして、それらすべては受理された。


「では被告人、自身の言い分について立証できることがあるなら、どうぞ」


 何と言うか、言えるものなら言ってみろ感がすごいのだが……。


 勇者さまも気分を害したようだが、表情をゆがめるまでにとどまった。

 代わりに視線をボトルのほうへ向ける。


「毒はボトルが開けられた後に入れられた、ということでしたが、……あくまでも後でしょう。


 陛下が殺された後に、入れられた可能性だってありますよね?

 それだけでは俺が入れたという決定的な証拠にはなりえないのでは?」


 そりゃそうだ。間違ったことは言っていない。

 だが、王子さまが動じることはなかった。


「……だとすれば、どこに毒が盛られていたと言うのですか?


 どうやって、どのタイミングで、だれが、毒を入れたと?」


 そうか……そういう話になるのか。

 例えボトルに毒が入っていなかったとしても、王さまが暗殺された事実は変わらない。


 勇者さまに求められるのは、自分がボトルに毒を入れる以外の方法でも、毒殺方法があると示すこと。


「なら逆に、今ここで聞きます。

 取り調べの時、何度聞いても答えてくれなかったことだ。

 ここなら、この場なら、ウソは言えまい」


 勇者さまはひるむことなく、むしろ真っ向から挑む姿勢をはっきり見せていく。


 王子さまに向けて、勇者さまが質問をぶつける。


「国王陛下の料理から、毒物の検出はされたのですか?」


 その質問に、王子さまの肩がピクリと動くのがわかった。


「どうなんですか?」

 追い打ちをかけるように勇者さまが再度聞き上げる。


 これにより、さっきまでしゃしゃっていた王子さまが黙りこんだ。

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