湿潤ドライアイ
ジュン
第1話
「昨日、Aくんにキスされたの」
「Aくんと付き合ってるの?」
「そうじゃないんだけど……」
彼女は続けて言う。
「私が目薬をさして、目を閉じてる間に……」
「キスされたの!?」
「うん」
「……嫌じゃなかったの……?」
「嫌というより、ビックリしちゃって……」
彼女は続けて言う。
「Aくんが言ったの。『嫌だったら、瞳から、こぼれた目薬以上の涙を流すはずだろ』って。それで、私……」
「どうしたの?」
「泣いちゃったの」
「ははあ。嫌だったんだ」
「違うの」
「…………?」
「私、言ったの。『うれしい時にも涙って流れるんだよ』って」
「はあ」
「そしたら彼、言ったの。『泣くなよ。目薬が流れちまうぜ……』って」
「はあ」
「私、言ったの。『ドライアイだけど、Aくんのせいで、うるうるしちゃった。だから、目薬流れても大丈夫だよ』って」
「はあ」
「彼、言ったの。『ドライアイか……。俺はお前への『愛が乾く』ことはないぜ』って」
終わり
湿潤ドライアイ ジュン @mizukubo
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