鈴とナナ、墓参りに行く(8)
結局、天気予報は外れ、昨日はどんよりした天気のまま雨は降らなかった。河川の氾濫の危険性は低くなり、あとは台風がどう出るか。台風の接近で、今日も木村動物病院は休診となっている。
早川副院長は昨日も宿直室に泊まり、動物たちの様子を見て、鈴の家に朝食を食べに行くと、鈴の母親はキッチンで朝食の準備中。
「おかあさん、おはよう」
「おはよう。今日は早いのね!?」
「なんか変な夢を見ちゃって」
「変な夢!?」
「ところでナナは? よく眠れたかな?」
「眠れたみたいよ。おとうさんと一緒に仲良くソファーに座って、テレビ見てる」
早川副院長は、リビングの方を見て先にテーブルに着いた。
リビングでは、まるで親子のように並んでソファーに座る鈴の父親とナナは、朝のニュース番組を見ている。
「ねぇ、おとうさん。台風大丈夫かな? お昼過ぎには、暴雨域に入るって言ってるけど」
「大丈夫。この家、頑丈にできてるから。それにこの間、最新の雨戸に付け替えたばかりだから、大丈夫」
「そうなんだ、なら、安心ね」
「あれぐらいの台風だったら、たいしたことないと思うよ。もしかして、台風怖いの?」
「風の音が怖いかな」
「確かに、ちょっと怖いよね。でも大丈夫、みんないるし」
「そうだね。1人じゃないし」
2人はテレビを見ていると、今日の星座占いの放送が流れ。そこへ、鈴がおはようと言いながら入って来た。
「お父さん、私の運勢は何位だった?」
「2位だったよ」
「ナナ、おはよう。早いね!?」
「いつもこんな時間なの? 遅すぎない?」
「私は、いつもこの時間だけど」
「そうなの? 私の運勢1位だって、あれって猫にも通用するのかな?」
「微妙だね!?」
「微妙かー、まぁいいっか。1位は、1位だし、あっ、そうだ、お姉ちゃん。私、奇妙な夢を見たの」
「奇妙な夢!? どんな?」
「それがね、リンちゃんが突然私の夢に現れて、私に言うの、お姉ちゃんに伝えて欲しいことがあるって」
「私に!?」
ナナは、鈴の顔をジッと見て、リンの言ったことをそのまま言った。
私、幸せだった。本当に楽しかった。何がストレスよ、あんなのに負けたなんて、私は自分が情けない。お姉ちゃんのせいではないからね。もう二度とそんなことは思わないで、私辛いから。もしそんなことを思ったら私、化けて出てやるからね。それと、あまり調子に乗らないこと。あと、ナナこと頼むわよ。ナナは私と違って頑丈だから大丈夫、仲良くしてね。
正直に言えば、ナナを見て羨ましかった。私も人間のように喋れたらって。でも、それは私の都合だよね。私、お姉ちゃんの笑顔が大好き。それと、私の誕生日に食べた、あの限定スペシャルミックスの猫缶、もう一度食べたかったな。最後に、お姉ちゃんの妹でよかった。
鈴はいきなりナナを抱きしめ、涙を流しながら。
「……リンちゃん、私も幸せだったよ……ありがとう……」
「あのー、私、ナナなんですけど……」
「ナナ、うちに来てくれてありがとね」
「あのー、スペシャルミックスって何?」
「……あれは確か、1万円くらいしたのよね。限定品だったから、もうないけどね。あの猫缶」
「えっ!? そんなにするの? その猫缶」
「あれ、お年玉で買ったの。まさか、あれを気にいっているとは、思わなかった」
隣でその会話を聞いていた鈴の父親は、驚いていた。ナナは、あの限定スペシャルミックス猫缶のことは知らない、だから鈴に猫缶のことを聞いた。ということは、そういうことなのか。この世には科学で説明できない、あれなのか。
この会話は、早川副院長にも鈴の母親にも聞こえ。確かに、奇妙な夢、そんなこともあるのだと、驚いていた。そして、早川副院長は、自分の見た変な夢のことを話さなくてよかったと思った。
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