鈴とナナ、墓参りに行く(7)

 リンが亡くなったことで、鈴は人が変わったかのように必死に勉強をし、獣医師になり、動物たちのためにだけに生きる人生を選んだ。結婚が女性の幸せとは言わないが、結婚はしない、自分は幸せなってはいけない、そう思ってこれからも生き行く。そして、この木村動物病院で働き、あとを継ぐことを決めていた。

 あれから、鈴は毎日のように仏壇に手を合わせ、リンに謝り続け、自分を許せないでいる。

 そんな鈴の姿を見て果たしてリンが喜ぶのか、きっと悲しんでいるに違いない、父親はそう思っている。そこで父親は腹をくくり、鈴の部屋に行き。

「鈴、もういい加減に自分を許したらどうだ!? それができないのなら、ここで働かせるわけにはいかない。当然、跡継ぎの話もなしだ。もしリンが生きていたら、今のお前を見てどう思うか、よく考えなさい」

 父親は、鈴の動物に接する態度を見ていた。確かに、獣医師の腕は超一流。しかし、リンに申し訳ない心が表情や態度に出る、動物たちを不安にする。

 そのことに気づいた鈴は変わっていた。というより、昔のように笑顔の可愛い、優しい女の子に戻った。といっても26歳の女性だが。


 現在、鈴は31歳になり。世間では、31歳なのにその姿はまるでアイドルみたいに可愛いと言われ、31歳にはどうしても見えない、まるで23歳くらいだと言われている。

 そのことにトラウマなのか、すぐ調子に乗ってしまう鈴を早川副院長は心配していた。


 鈴は、木村動物病院で働き、5年になり、1年前に院長になった。あれから15年、鈴の自宅では動物は飼っていない。


 鈴は、二度とあんな過ちを繰り返したくない、あんな思いは二度としたくない。もしあの時、リンの気持ちがわかったなら、リンの声が聞こえたなら、リンは助かっていたはず。

 鈴はナナと出会い、そのことを強く思い。もしナナに動物たちの声が聞こえ、それを人間の言葉で伝えることができなら、多く動物たちを救うことができるはず。そのことをナナに話すと。


「リンちゃんに対する想い、動物に対する想い、その想い確かに受け取りました。こんなことを聞かされて協力しないわけにはいかない。断ったら猫の沽券にかかわる。要するに、私が動物たちの通訳をすればいいってことなのよね!? なら私にもできる、っていうか私にしかできないこと。動物たちのために働く、それもわるくはないけど、1つ条件があります」

「条件!?」

「鈴、私をあなたの妹にしてください。それが条件です」

「……ナナ、本当にそれでいいの? こんな私でいいの? 私がお姉ちゃんなっても」

「何、そのくだらない質問。いいに決まってるからお願いしているんでしょう?」

「確かに、わかった。こんな私ですけど、よろしくお願いします」

 鈴は深々と頭を下げ。

「こちらこそ、こんな猫ですけど、よろしくお願いします」

 ナナも深々と頭を下げた。


 この光景を見ていた、他の3人は目頭を熱くさせ。これでようやく鈴は、本当に自分を許すことができたはず、これで前に進める、3人はそう思った。


 鈴は思わず嬉しくて泣きそうになったが、しゃがんでナナを見て。

「ナナ、明後日って10月10日、リンの命日なの。一緒に墓参り行ってくれる?」

「えっ!? いいの? 私が行っても?」

「何、そのくだらない質問。私の妹でしょう? いいに決まってるじゃないの」

「ごめんなさい。だったら、私の誕生日もよろしくね!」

「はぁ!? わかった。けど、普通自分の誕生日、催促する!?」

「だって、私のお姉ちゃんでしょう?」

「確かに、それもそうね」

「そうと決まれば、仏壇にお線香をあげないと。床の間ってどこ?」

「ナナ、ありがとね」


 鈴に案内され、ナナは床の間に行き。さすがに猫の手で線香はあげられないので、代わりに鈴が線香をあげ。ナナは仏壇の前にある座布団に座り、仏壇に置かれたリンの写真を見て、可愛い猫ね、と思い。

「リンちゃん。御先様。これからこの家で暮らすナナです。こんな私ですけどよろしくお願いします」

 ナナは目を瞑り、まるで人間のように手を合わせていた。そのあと、ナナは辺りを見渡し、畳の上の感触を確かめるように床の間を1周し。

「お姉ちゃん、私、今日からここで寝泊まりしていい?」

「えっ!? なんで? 私の部屋じゃないの? もしかして、遠慮してるの?」

「そういうことじゃなくって、この畳がいいのよね、なんか落ち着くの。ダメかな? 大丈夫、爪とぎはしないし、家で暮らす基本的なルールもちゃんとわかってるから、大丈夫」

「わかった、ここでいいよ。となると、あとはベッドね。どんなのがいいの?」

「そうね、やっぱり、猫用の座布団かな」

「猫用の座布団!? うちにはないけど……そうだ、ナナ、あとでネット注文するから、好きなのを選んでくれる?」

「えっ!? いいの? お姉ちゃん、ありがとう!」

「でも、品物がくるまでは、普通の座布団でもいいかな?」

「うん、それでいいよ」


 ナナは、鈴たち家族としてここで暮らすことになり。ナナの通訳の件は、他の3人も賛成し、その手があったのか、と言い。その件は鈴に任すことになった。


 その夜、鈴はナナのことを考え、ナナはリンのことを考え、2人は眠りについた。


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