第43話ラーチェ

 俺の胸に手を置いてハァハァと肩で息をしているラーチェ。

 暗めな茶髪の頭の上にそっと手を乗せる。

 最終確認だ。


「つまり、ラーチェさんは俺のことが好きになった、という事ですか?」


 はっとして、困り眉で俺を見上げるラーチェ。

 青い目が潤んでいる。


「そ、そういう事です」


 ヒシッと俺の身体に手を回して抱きついてきた。

 自分の気持ちとギルド職員としての責任感の中で揺れ動いてる様が感じ取れる。

 きっと、いい子なんだろう。


 髪の毛のいい匂いが鼻腔を刺激し、背中越しに見える尻がそそる。


 手を出していいものか?


 ここで手を出したら、階段で脚を楽しんでいたあの頃にもう戻れないかもしれない。

 中はどうなっているのか、感触はどうなんだろうか、それを妄想してる方が、ムラムラをドキドキを、楽しめるんじゃあないのか?

 自分の中のリトルテツオに聞いてみる。


 ——とりあえず触ってから考えたら?


 イエッサー!

 両手で俺を散々挑発し続けたけしからん腰をむんずと掴む。

 ああ、なんていい弾力なんだ。

 たまりませんな。

 タイトスカートのサラサラした質感も立派な興奮材料だ。


 びくっと反応するラーチェ。

 胸に熱い吐息を感じる。

 興奮してきたな。


「大丈夫ですか?」


 何を確認してるのか自分でもよく分からないが、何となく気遣いしてる男を演出したいのかもしれない。


「テツオ様の好きにして大丈夫です」


 あら、そういう解釈にとっちゃった?

 受付嬢の制服である襟元の大きなリボンをシュルシュルッと解く。

 制服のシャツを脱がす。もちろん、スカートはまだ履かせたままだ。

 そこでピンときたね!


 大きいリボンを再び首に巻く。

 身体にはリボン、スカート、ヒールのみの状態。


 俺へのプレゼントの様な見た目にギンギンに興奮しちゃうね。

 指に魔力を込め、スゥーッとラーチェを宙に浮かす。


 ひゃあっ、と可愛い声を出してビックリするラーチェ。


「怖がらないで。

 ラーチェをじっくり見たいだけだから」


 360度ゆっくり回転させながら、色々な興奮する角度を探すように眺める。

 手で隠そうとするから魔力で手の自由を封じる。

 隠さないで!録画中ですよ!


 ラーチェを浮かせたまま、色々マッサージして、それはそれはいい時間でした。


 仰向けなったラーチェはマッサージを開始する準備は出来ているようだ。

 魔力で足を開かされ、恥ずかしさの余り両手で顔を隠す浮遊属性ラーチェに立ったままマッサージを開始する。


 ラーチェが俺にしがみ付いた状態、俗に言う駅弁スタイルにて臀部をがっちり掴み上下にマッサージしまくる。

 魔力で宙に浮いているから、腰や腕の筋肉への負担は一切ない。


 痛がらなかったので気付かなかったが、俺のマッサージ器に血がまとわりついている。

 床に点々と赤い液体が落ちていた。

 あっ、やっぱり初めてだったか。


 この世界の女性は、貞操観念がどうなっているんだ。

 ガードが硬いように見えて、俺なんかにあっさり初マッサージを捨てやがって。


 痛みが無いか聞いてみたが、マッサージに夢中なのかラーチェから返事がない。

 気持ち良さそうにしている。


【水魔法】で床やマッサージ器周辺をさっと綺麗にしておく。

 ラーチェの声が大きくなってきたので、部屋の中を【風魔法】の障壁で防音し、ついでに【土魔法】の鏡を発現し、ラーチェの後ろ姿を目で楽しむ。


 動きを少し早めると、ラーチェは俺の背中に回した両手でギュッと服を握りしめ、めくるめく刺激に身を任せる。

 初めてのマッサージなんだから、あんまり激しくしないように優しくいこう。


 鏡に映ってる姿を教えて見せつけると、恥ずかしがって目を背ける。

 初のぅ、初のぅ。

 良きかな、良きかな!

 初!初!

 うぃ!うぃ!うっ!


 フィニッシュは唐突に。


 手を出してしまった。

 でも、初物はやっぱりいいね。


 一時間以内で目覚める弱効果の【睡眠魔法】で布団の上に寝かしつけ、【転移】でテツオホーム・浴室にダイブする。


 ——再生を終了します


 とまぁ、ここまでの映像を、眼鏡を掛ける事で追体験できる機能を魔法によって製造して、再生確認した。


【幻覚魔法】と【記憶媒体】を魔石眼鏡にリンクさせ、【幻想映像装置】として機能させる。

 試作段階ではあるが、ほぼ完璧なリアリティで擬似体験できた。

 これは、素晴らしい。


 現実に(マッサージ)やれる女はいっぱいいるのに、記憶、記録をあえて残したいのは、恐らく前世の記憶を無くす恐怖からだと、勝手に自己分析する。


 今、頭に残っている前世の記憶全てを【記憶媒体】に保存しておいた。

 これで、記憶を全て無くしたとて、その後、いつでも装置で確認する事は出来るだろう。


 その時に、無くした自分の記憶をどういう感情で見る事になるのか?

 そこに一抹の不安を感じるのだ。


 前世。

 故郷を離れ、都会に就職、朝から晩までサラリーマンの仕事、フラフラでアパートに帰り、安い弁当を食べ、ケータイ、ゲーム、漫画、自己処理、寝る。

 その繰り返し。

 物の名前や生活する為の記憶はなんとなく思い出せる。

 学生時代は?

 家族は?友人は?

 恋人は?将来は?


 途中で激しい頭痛がして、それ以上、何も思い出せない。


 人の名前や出来事の記憶だけが思い出せず、【記憶媒体】にも全く引っかからない。


 いっそのこと、前世全ての記憶を捨てれば、このもやもやとした鬱屈状態から抜け出せるのかもしれない。


 グラスに注いだ強い酒を一口で飲み干し、服を着る。


 ……もう四時か。


 報告しにそろそろクランホームへ戻らないとな。

 その前に……


 ——クランホーム・牢舎


「おい、聞きたい事がある」


 足が治ったお陰で、牢屋でのんびりと横になってくつろぐエリックに声を掛ける。

 こいつ助かるかもしれないと思って、少し心に余裕が生まれてきてないか?

 今回の俺への返答次第ではご破算だぞ?


 あ、テツオさん!と下卑た笑いと共にエリックが起き上がった。

 ワカメみたいな前髪を指で分け、陰気な目で俺を見る。


「どうなりました?俺」


 へへへ、と俺のご機嫌を伺う。


「いや、まだ何も決まってない。

 その前にお前に確認したい事がある。

 誘拐した女性達をどうするつもりだったのか?

 以前に攫った女性達はどうなったのか?

 それが聞きたくてな」


 さっきまで余裕のあったエリックが、明らかにバツの悪そうな顔をして視線を逸らした。


「どうした?笑えよエリック」


「勘弁してくださいよぉ。

 関与した貴族全員差し出したじゃないですかぁ」


「俺が言うのもなんだが、攫った女性達は状態が良かった。

 牢にいた女性達はお前が楽しむ為のものではなかったんだろう。

 じゃあ、他に可能性があるとしたらなんなのか?

 人身売買、奴隷もしくは悪魔への生贄あたりかと推測したんだが、どうだ?」


 うぐぐぐ、と唸り出すエリック。


「言わなきゃ即死刑だ」


「言ったら死刑は無しですか?」


 バタバタと這いずって檻を掴み、口から唾を飛ばしながら必死に死を免れようと嘆願してくる。

 全て言わせる為には生をちらつかせるしかないか。


「正直に全部言ったらな」


「あ、ああ!全部言う!

 言います!

 五年前、既に死んじゃってますが、とある貴族からカースを紹介されたんです。

 サルサーレ領の色んな街からいい女を攫ってきて、それをカースが鑑定し、商品価値の無い何人かは俺が楽しんだ後、カースが処理してくれて。

 カースが認めた女達は、南の国に高値で流してたんです。

 ところが最近、南の国で何かトラブルがあったらしくて、在庫抱えちゃって、そこにテツオさんが来られてカースを倒した、と。

 これが全部です!」


 やはり南に流してたのか。

 というか、かなりの悪業をサラッと言うね、こいつ。


「南への転移装置は無いのか?」


「無いと思います。

 南へはカースだけが行ってましたから」


 悪魔に国境など無いしな。

 もし南へ行く際は直に行くしかないか。

 といっても、今は魔族がいて危なそうだし、治安情勢がどうなってるのかも分からないしなぁ。

 いずれ勇者達が解放してくれるだろう。

 確かそんな話してたし。


 エリック。

 完全にアウトだな。

 これ、恩赦していいのか?


「もう全部言いました!

 これで、俺っ」


「お前さぁ、やり過ぎだよ。

 正直、俺ドン引きしちゃったわ」


「ドン……?」


 ああ、ドン引きって言葉、この世界には無いか。


「一応言ってみるけど、死刑だったらごめんな!

 じゃ、行くわ」


「えっ?えっ?えっ?」


 なんか面倒臭くなってきたし、こんな陰気な場所にいたら精神衛生上よろしくない。

 そそくさとエリックの前から立ち去った。


 エリックは突然込み上げてきた恐怖で、顔から多種多様な液体が溢れ出す。

 捕まった時は失った足の痛みで他の事は考える余裕が無かった。

 だが今、テツオの一言によって、急激な速度でエリックに死を認識させ奈落に突き落とす。

 死…………?


「ちょっ!テツオざぁん!待って!

 ばって!ばってぐだざいよぉー!

 じにだくないぃー!

 だじげでぇー!」


 ——テツオは、

 二度と牢屋へは戻らなかった。

 最初は助けようと思ったが、沢山の被害者や、攫われた時のリリィを思い出し、ムカムカが収まらなかったので、

 ——そのうち、テツオは考えるのをやめた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る