第31話カース②
リリィを抱き起こし、【回復魔法】を更に掛ける。
……起きない、何でだ!
体力は既にマックスなのに。
このまま目を覚まさないんじゃないのか、という不安に押し潰されそうになり、無意識にギュッと抱きしめていた。
耳を澄ますと何か聞こえる。
……クゥ、クゥ。
ん?いびき?
【回復魔法:覚醒】を唱えて、無理矢理起こす。
「ん……、あ、テツオ?
あれ?ここ、何処?」
まだ目が惚けている。
相当強い睡眠剤だったのだろう。
「馬鹿野郎、心配させやがって!」
謝るつもりだったのに、違う台詞が出てしまう。
「え?私、……噂を調べて、……ジョンテ家の館に行って、それで。
あっ!紅茶を……飲んだ。
……ごめんなさい、テツオ」
リリィは、素直に自分の非を認めた。
だが、今回ばかりは。
「いや、悪いのは俺だ。
お前の気持ちをもっと考えてやれば」
謝罪を、俺の頬に手を当てて遮る。
「テツオは悪くないわ。
私が言う事を聞かなかったから。
でも、テツオは助けてくれた。
私にとっての勇者は……貴方だけよ?」
不意に腕を回し、キスをしてくる。
今回はこれを拒否する事は出来ない。
と言うか、俺も正直キスをしたかった。
と、思う。
「あぁテツオ、突然ごめんなさい。
でも、大好きなの」
「俺もだ」
あ、言ってしまった。
リリィが目を閉じたまま、涙を流し震えている。
「嬉しい……生きてきて一番」
英雄といえど、細い肩をした只の少女だ。
本気で使命から解放してやりたくなった。
今のままのこいつでは、悪魔討伐は到底無理な気がする。
「すまん、リリィ。
他にも救助しなけりゃいけないんだ。
手伝ってくれ」
ガルヴォルンの壁を【解除】すると、牢に囚われた女性達が現れ、リリィが予想通りの反応をする。
次に、団員達に【回復魔法】を掛けると、みんなが起き上がり、俺の顔を見て瞬時に状況を把握する。
流石は、一流クランの男達。
そう、俺が全て終わらせたんだ。
あれ?終わらせたのはベルか?
リヤドがすぐさま牢に駆けつけ、
「皆さん、安心して下さい!
貴女方を攫った貴族はご覧の通り倒しました。
これから救助しますので、速やかに指示に従って下さい」
と、女性達を安心させ、まとめ上げる。
リリィが、両あひを失ったジョンテ家の次男坊エリックを見て、紅茶を飲ませたのはこいつだと示す。
ヴァーディはその次男坊を蹴り起こし、縛り上げた後、俺に向かって拳を向けたので、俺も拳を返す。
が、その拳は俺の胸を叩いた。
痛いよ、ひどいよ。
「ありがとよ、
助かったぜ」
と笑い、鋭い目がもっと細くなる。
笑顔は案外可愛いんだな。
「団長が目を覚ましてくれません!」
ソニアを治療していたカンテが叫び、団員が急いで駆け付ける。
ソニアの周りをみんなで取り囲む。
「あの、最初は、毒の症状があったので【植物魔法】で解毒剤を精製し飲ませました。
しかし、症状は悪化する一方で……。
一体、どうしたら?」
カンテは出来る事はしたようだし、俺も【回復魔法】は済んでいる。
にも関わらず、ソニアはハァハァと辛そうに息をしている。
どうすれば?
みんなの目線がカースの残していった短刀に集中する。
「僕が拾います」
カンテが植物の蔓で、短刀を掴み取る。
【解析】をしてみよう。
——ジョンテの短刀——
素材:銀
威力:120
効果:バル草の毒
うーむ、毒しか分からない。
カンテの所見は間違いないだろう。
カンテもやはり毒以外は見つからないと断定した。
「あの、よろしいですか?」
女性の一人が話し掛けてきた。
全員の目線が彼女に集中する。
「もしや、貴女はエルフか?」
リヤドが、女性の見た目に気付き、うやうやしく尋ねる。
「はい、私は、エルフです。
まずは、助けて頂いた事に感謝致します。
私は、一年もの間囚われていました。
あの魔族はとても強く、逃げる事は到底出来ませんでした。
私はその間、魔族を観察していました。
恐らく彼女には、呪いがかかっています。
傷を与えた相手に掛ける呪詛でしょう」
彼女は淡々と判り易く説明してくれた。
エルメス様が言っていた攫われたエルフとは彼女の事かも知れない。
カース……
「呪いだと?
どうやったら解けるんだ!
それまで団長の身体が保つのかよぉ!」
ヴァーディが熱くなり叫ぶ。
気持ちは分かる。
焦燥感が半端ない。
最悪な場合にはソニアが刺される前に時を戻す。
だが、それでは悪魔も復活してしまうかもしれない。
どうしよう?
「ヴァーディ、落ち着け!
申し訳ない、エルフのお方。
彼女は我々の団長なのだ。
彼女が動かなければ貴女達を助ける事は無かっただろう。
もし、解呪方法を知っているならば、教えてもらえないだろうか?」
リヤドが、すぐ頭に血がのぼる阿保を窘めて、エルフに教えを請う。
「大丈夫、焦る気持ちは分かります。
解呪方法はあります。
私の国に行けば、術者がおりますので」
「え?
それってエルフの国?」
カンテが素っ頓狂な声を出す。
一般人にはピンと来ないかも知れない。
「申し訳ない、エルフのお方。
その、エルフの国とやらは、どこにあるのだろうか?」
リヤドが毎回丁寧に話してくれるので展開が早い。
他の二人じゃ長引くから、もうホント喋らないで欲しい。
「私が国を出てもう五十年は経ちます。
もし、今も転移装置が生きているのなら、デカス山脈の山頂から入国出来る筈ですが」
団員が揃って絶句する。
「……霊峰デカスは前人未踏の辺境と言われている。
見た事の無い強い魔獣もいるという。
そこへ団長を抱えて、登るというのは……」
リヤドがゆっくりと難度の高さを語った。
そして、質問を続ける。
「ちなみにエルフの貴女なら、どれだけで辿り着けるであろうか?」
しかし、彼女は眉を顰め、難しくそれに答えた。
「私は既に国を出た身ですが、人助けの為であれば戻るのは当然でこざいましょう。
ですが、あの魔族に魔力を定期的に吸われており、それを回復するのに一日、山頂まで早くて一日は掛かると思います。
それだと、彼女は……」
いたたまれない気持ちになり、彼女は目を伏せた。
「くそっ!どうしたらいいんだよっ!」
ヴァーディが立ち上がり、苛つきをぶつけるように壁を拳で殴り続ける。
もう解決する方法が分かってる俺は安堵していた。
だが、新入りの俺が出張る訳にはいかない。
隣に座るリリィに目配せをする。
リリィは、え、私?みたいな顔をしている。
何その顔、イラっとくるなぁ。
さっきはしおらしくて可愛かったのに。
この状況でお前しかいないだろが!
察してくれよぉ。
俺の複雑な表情を見て、リリィは頷いた。
「私が連れて参りましょう。
私は先日、エルフの国から帰ってきたばかりなのですから!」
リリィが立ち上がって宣言する。
そうだ、それでいい。
余計な事は言うなよ。
「本当……ですか?」
それには流石のリヤドも鵜呑みに出来ず、再確認する。
「ハイエルフの長エルメス様や戦士長アムロド様とは、昨日話したばかりよ。
私なら瞬時にエルフの国に行けるわ」
エルフの彼女がピクリと反応し、声を震わせた。
「ああ、懐かしいお名前……。
このお方の仰る事は本当の事でございましょう」
目には涙も浮かべている。
「やった!ツイてるぜ!
エルフの国に行ける奴がちょうど攫われてるなんてよ!」
堪り兼ねたリヤドが、ヴァーディを殴り飛ばす。
やれやれ!もっとやれ!
「こいつは素直だけど阿保なんです。
どうか今のに免じて許してやって下さい。
では、申し訳ありませんが、団長をお願いして宜しいでしょうか?」
リヤドの心労が気掛かりだ。
「ええ、助けてもらったんだから当然よ!
そうね、貴方一緒に着いてきて下さる?」
俺を従者に指名するなんて。
おいおい、頭冴えてるじゃないのリリィちゃん!
さっきまで爆睡してたくせに。
「ええ、分かりました。
貴女もエルフの国に帰りますか?
えと、お名前は……?」
「名前はメルロスと申します。
私は……帰りません。
いえ、帰れません。
父は私を許さないでしょうから。
ですが、どうかエルメス様に宜しくお伝えください」
メルロスは深々と頭を垂れた。
たまに帰ったらいいのにと思うんだが、何なんだろうね?
「分かったわ。
エルメス様にお伝えしますね。
じゃあ、今すぐ行きましょう。
彼女が心配だわ」
ソニアを抱き抱え、リリィが俺の肩に手を乗せる。
「では、行ってきます」
「ああ、頼んだぞテツオ!
クランのホームで待ってるからな」
リヤドとカンテが不安そうに見守り、ヴァーディは絶賛気絶中だ。
リリィが宝玉を天に掲げ【転移】する。
——ソニアは絶対に死なせはしない!
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