第18話エルフの国④
「申し訳なかった!」
二人同時に謝罪する。
一人は長老の嘘を部下が庇う意味で、
一人はその悪質な嘘でハイエルフの戦士を焚きつけた事について。
「ああでもせねば、この男は本気を出さぬのでな」
「まったく、エルメス様もたちが悪い」
長老の部屋でエルメス様、アムロド、俺、リリィの四人で話をしていた。
エルメス様の前に俺達二人が座り、アムロドはエルメス様の後ろに立っている。
なんか三人の視線が集中していて緊張するな。
「お主があれほど強いとはなぁ。
恐れ入ったぞ。
更に成長したらどうなる事やら」
「いえいえ、運が良かっただけですよ」
「運では、ない。
あれは別次元の強さだ。
精霊の力を持ってしても敵わぬのなら、エルフの誰もが、勝ち目はない」
「やっぱりテツオって凄いわ」
謙遜なんだけど、圧勝なら逆に失礼か。
アムロドには冗談も通用しなさそうだ。
リリィのその台詞もいい加減飽きてきた。
悪い気はしないが。
「テツオがいれば我らエルフが、人間界に遠征に行く事は無さそうだな」
「出来ればまた手合わせを、お願いしたい。
戦士長が弱くては、部下に示しが付かぬ」
「わ、私で良ければ」
「アムロド、テツオにはとある任務を頼んでおる。
あんまりテツオを使うでないぞ。
して、人間の女よ。名をスカーレットと申したな」
「は、はい!」
「お主の国におる占い師は我が同胞イドリアだ。
あの子の事は良く知っておる。
恐らくは勇者を探すようお主に命じておるだろう。
お主はその使命を決して忘れてはならぬ。
先程、私はテツオに悪魔討伐を依頼した。
残念だが今のお主では足手纏いになるだろう。
テツオの指示をしっかり聞き、引くときは引くのだぞ?」
「……分かりました」
悔しそうな顔をして頷くリリィ。
いつも強気なリリィがこんなしおらしい顔をするなんてギャップ萌えしてしまう。
またぶち込みたい。
「そうだぞう。
悪魔は強いみたいからなぁ。
俺はお前を死なせたくはないんだぞう」
「分かったわよ!
失礼します」
リリィが部屋から飛び出していった。
あらん?
彼女は直情的なとこがあるからなぁ。
フォローしたいがこういうの慣れてないんでどうしたらいいのか分からない。
「すまない、テツオ。
エルフは人間の心情に詳しくない。
怒らせたかのぅ」
「いえ、大丈夫です。
なんとかしておきます。
あ〜、ではそろそろ戻りますね」
「もっとゆっくりしていけばよいものを。
人間はせっかちなものだな」
「悪魔退治したらまたすぐ来ますよ」
そういってエルメス様を下から上に舐めるように眺めるが気にもしていないようだ。
約束忘れてないよね?
「ふむ。気を付けるのだぞ」
なんか釈然としないまま、二人を残して部屋を後にする。
長老の宮殿を出て階段を降りていると、エルフ達が俺を見てヒソヒソ話をしている。
人間が珍しいのか、戦士長を倒した俺が憎いのか、なんともよくわからないが。
ハイエルフは全く無関心で感情に乏しく、目を合わせようともしない。
美女の冷たい目。
そこがまた堪らない。
アムロドは人間界に行ったから、感情が出るようになったと言っていた。
悠久の時を生きる種族はこうなるものなのだろうか。
階段を降りた先の広場にリリィが座っていた。
帰り道にいて良かった。
だが、俺がもし【転移】していたらこいつ置き去りだぞ?
ったく。
「おい、帰るぞ」
リリィは無視したまま、こっちを見もしない。
あー、めちゃくちゃ困る。
どうしたらいいんだよ!
仕方がないので諦めて隣に座る。
暫しの沈黙。
そういえば時間を操れるようになってから心に余裕ができるようになったと思う。
いつでも時を戻せると思えば数分くらい何ともない。
横顔をチラ見するとやっぱり可愛い。
小一時間でもいけそうだ。
「…………役に立ちたいの」
「へ?」
「私まだまだ強くなるわ!
いつか貴方の役に立てると思う。
足を引っ張らないようにするから置いていかないで」
ああ、そういう事ね。
「しばらくパーティ組むって言っただろ?
置いていったりしない」
「ほんと?」
リリィの顔が少し明るくなる。
分かりやすい奴だ。
「ああ、本当だ。
ここから戻ったら街に行くつもりだ。
すぐ悪魔討伐に行くわけじゃない。
だが、本当に危険な時が来たら避難してもらう。
分かったか?」
「うん」
聞き分けのいい子で良かった。
「じゃあ、戻るぞ?
【転移】するから近くに来い」
リリィの腰に手を回しグッと引き寄せる。
【転移】するのにくっつく必要は全く無いがなんかスイッチが入ってしまった。
ふぅ、柔らかい。
【転移】
一瞬でスーレの村近くに着いた。
宿に忘れ物があると言ってリリィをその場に待たせて宿に向かう。
はした金だがサーベルウルフの牙を換金していると、宿屋のおっさんが話しかけてきた。
「あの酔っ払い冒険者共を改心させてくれてありがとうな!
礼を言うぜ。
兄ちゃん強いみたいだからこんなチンケな村じゃなくて街のギルドに行ったらいい。
金も名声もいっぱい手に入るぞ」
「は、はぁ」
金、富と名声か。
興味が無いわけではないが、冒険者という響きは、自分の中にある少年の心をくすぐり続けている。
この世界の人々には、死と隣り合わせの冒険者という職業は生きていく為の切実な手段かもしれないが。
宿を後にし、自分が手を出した村の女に見つからないようにそそくさと村を出て、リリィと合流する。
女に会いたい時は一人の時にじっくりと【転移】すればよいのだ。
「待たせたな」
「ううん、大丈夫。
それよりこれから街に向かうのよね?
結構距離があるし、夜になるか、明日の朝になるかも」
え?
今はまだ夕方にすらなっていないが、そんなに遠いのか?
「もしリリィが全力で走ったら、どれくらいかかる?」
「それでも夜にはなるって事よ」
「そんな時間の勿体ない事は出来ないな」
またリリィを脇に抱え空中に【転移】する。
行った事の無い場所へは【転移】出来ないみたいだが、見えるところなら自在に飛べる。
「きゃあ!た、高い」
村が小さく見える。
昔、飛行機に乗った時の事を思い出した。
が、何だろうか頭が痛くなり記憶が曖昧になっていく。
飛行機って……なんだっけ?
え?
まずい。
記憶が無くなりつつあるのか?
あっ、そうだ!
夢の中で時の
——————
——テツオよ。
時を戻せば戻す程、前世の記憶は失われていく。
もし前世の記憶を無くしたくないのであれば時をあまり戻さぬ様にする事じゃ。
ただ、思い出さぬ方が良い事もあるからな。
このまま記憶を失う方がお前の為でもある。
この事、ゆめゆめ忘れぬ様にな。
——————
いやいやいや、夢で大事な事言わないでよ。
夢って大概起きたら忘れるもんだろ?
「テ、テツオォ」
「あ、悪い。
考え事してた」
リリィが恐怖で震えながら必死にしがみついている。
【風魔法】で風の膜に包まれてるから落ちはしないんだが。
どうやら高所恐怖症らしい。
急いで降ろしてやろう。
街のある方向に何回か【転移】を繰り返すと視界の先に一際大きな街が見えてきた。
恐らくあそこで間違いないな。
視認出来たらこっちのもんだ。
【転移】して一瞬で街に着いた。
とんでもなくデカい街で活気があり迫力がある。
記憶の喪失については寝る前に考える事にして日が暮れる前に街を散策する事にしよう。
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