第15話エルフの国
「ねぇ、何処から来たの?」
「ニンゲン?ねぇ、ニンゲンなの?」
「ニンゲンて美味しいの?」
「キャハハハ」
滝に向かってせせらぎの音を聞きながら川辺を歩いていると、羽根の生えた小さい人型の生き物数体に絡まれてしまい、俺の周りを五月蝿く飛び回っている。
リリィが言うにはピクシーと言う妖精らしい。
100センチくらいのサイズで、可愛い見た目をしているが、発言内容がなんか怖い。
悪戯好きで好奇心旺盛だが、余程の事がない限り人間を襲う事はないとリリィは言う。
懐くのであればペットとして一匹欲しいくらい造形は見事なのだが。
ピーターパンに出てくる妖精はもっと小さかったが、種類によって大きさ違うのかな?
「ねぇ、妖精さん、ここには何があるのかな?」
「喋った!喋った!ニンゲン喋った!」
「キャハハハハ」
ムカッとくるなぁ。
……いや、良くない。
紳士たれ。
無視だ。
しばらく歩いているとようやく滝が見えてきたので、リリィを伴い滝の麓まで一気に【転移】する。
【転移】前の場所で、置き去りにされた妖精達がピーピー騒いでいる。
本当に煩い。
滝は思ったより大きかったが、滝壺は澄んだ綺麗な緑色をしている。
森を抜けた突き当たりが滝だったので、ここが行き止まりとなっている。
すると滝の中から人影が浮かび上がり、一人の男が不思議な事に水に全く濡れずに現れた。
端正な顔をしたその男は、長い金髪を後ろで束ね、丸出しになった耳の先は尖っている。
「エ、エルフだわ」
「私は、ハイエルフだ。
さて、君達はガーディアンを倒し、ここまでやってきたようだが。
来訪の目的を、聞かせてもらえるか?」
「いや、えーと、目的とかは無いんですが、そこに山があるから登って、襲われたから倒して、穴が空いたから入った、というか。
言うなれば流れですかね」
「…………」
ハイエルフの兄ちゃんは黙ってこちらを伺っている。
言い方がまずかったか?
沈黙が辛くなってきた頃、兄ちゃんが再び口を開いた。
「ふむ、久しく山を登る者もおらず、ガーディアンも劣化していた、ということか。
いや、失礼。
虚偽が無い事も、敵意が無い事も、把握している。
そこでだが、どうする?
我々の長老が会ってみたいようなのだが、無理強いは、しない。
帰るなら来た道を戻れば、よい」
喋りの間の取り方が気持ち悪いな。
どこで言葉区切ってんだよ。
が、ハイエルフの長が会いたいと言っているなら会ってみたい気も、する。
「会わせてもらえますか?」
兄ちゃんはまたジッと俺を見る。
だから、間が怖いって。
「……ならば、着いてこい」
そういうとスタスタと滝に入っていった。
急いで兄ちゃんの後を追う。
滝を越えた瞬間、街の広場になっていた。
滝自体が空間転移装置になっており、今、目の前に広がるこの光景こそが、ハイエルフの本当の住処であろう。
周囲を見回すと、広大な領域を大樹が全体を覆い、そこに白亜の建造物や彫刻が建ち並ぶ。
神々が暮らすかの様な神聖な気で満ち溢れている。
鳥や虫はもちろん羽の生えた馬や妖精フェアリーまでもが空を自由に飛んでいる。
そう、俺が知ってる妖精はアレだ。
数人のハイエルフと思しき人物が物珍しそうな目でこちらを見ている。
先程の兄ちゃんがすでに目の前の大きな階段のかなり先を歩いていた。
歩くスピードがやたら早い。
だが【転移】を見せるのもどうかと思いリリィと共に駆け足で急いだ。
大分歩かされたが兄ちゃんはようやく宮殿らしい建物に入っていった。
歩いている間すれ違う女のハイエルフは全員スーパーモデル級の美人だった。
ハリウッドスターレベルというか、住む世界が違う感じ。
ハイエルフなんだから住む世界が違って当然だが。
ただ耳が長いんだよなぁ。
いや、マイナス要素にはならない。
ちょっと触ってみたいという欲求が湧いている。
妄想しているとどうやら目的地である長の部屋に到着したようだ。
白を基調とした広い部屋。
一際でかい玉座の様な椅子に綺麗な女が座っている。
何故か和の着物の様な服を着ていた。
サイドを二人の騎士の鎧を着た女で固めている。
どいつもこいつも可愛い。
ヤバイな、ハイエルフ。
「我らハイエルフの長、エルメス様だ」
「ようこそ人間よ。
人間がここにくるのは三百年振りだろうか。
私は長老エルメスだ。
歓迎するぞ」
「ど、どうも。
テツオといいます」
一応、会釈しておく。
初対面の人にはどうも緊張してしまうな。
リリィは慣れたように、丁寧に挨拶しお辞儀する。
「楽にしてよいぞ。
すでに分かってるだろうが、ここはエルフの国だ。
国という程の人口はおらぬが、十数人のハイエルフと数百人のエルフが住んでおる。
三百年前の魔族との戦争以来、同胞の数も減り種族間での交流はしておらん。
一部のエルフ、ハーフエルフは人間界におるが、それらはもう我らとは袂を別つ者達だ。
とは言え我らは同胞も人間も嫌っている訳ではない。
私には同族を守る責務があるのでな。
三百年振りの客人よ、せっかく来たのだ。
ゆっくりしていかれよ。
アムロド」
「は。
……では、こちらへ」
あら?もう終わり?
男ハイエルフのアムロドに案内され、泉の休息所とやらにつれて行かれた。
川の上に巨大な葉が浮いており、そこに胞子で出来たふんわりとした椅子と巨大な虫の抜け殻で出来た透明なテーブルがある。
運ばれてきたのは不思議な菓子と飲み物だった。
一見クッキーと紅茶に見えるが、苦味と酸味が相まってめちゃくちゃマズい。
エルフは味覚がどうかしてる。
「まさかエルフの国に来れるなんてやっぱり貴方凄いわ」
「そんなにエルフって珍しいのか?」
「私の国にはハーフエルフなら数人いるけど、純血のエルフは一人しか見た事ないわ。」
「他にこの世界はどんな種族がいるんだ?」
「ドワーフ族、小人族、他に獣人、リザードマンとかの亜人族がいるわ。
ただやっぱり三百年前の戦争の影響で人間と距離を置く種族もいるわね。
魔族に組みしてる種族もいると思うし」
「そんなに種族いるのか。
魔族とか、怖いな」
話をしているとアムロドが再びやって来た。
「やはり、人間の口には合わぬか」
残された菓子類を一瞥し、アムロドは無表情なまま呟いた。
なんとなく嫌な空気が流れたが、たいして気にした風もなくアムロドは、長老から俺に話があると続けた。
先程の長老の部屋に再び案内されると、長老が一人窓際に立っていた。
二人きりだ。
こんな超絶美女とマンツーマンなんてドキドキしちゃうね。
何だろう話って。
告白されたりして!
「何度も足を運ばせて悪いな」
「いえいえ」
ご褒美でございます。
「お主が連れてきた人間の女はおそらく使命がある者だろう。
それと共に行動するお主に興味がある。
少し話がしたいのだがよいか?」
頷く俺。
この顔を堂々と眺めれる喜び。
「三百年前は勇者なる人間がここを訪れた。
そして、今日お主がここに来た。
勇者ではなくお主が。
その真意を測りかねておる」
と、言われましても。
俺にもよく分からん。
「まずは何があったかを教えておこう。
三百年前、この世界では魔族との戦争があった。
その時代の勇者に頼まれ、我らエルフ族は初めて人間に手を貸した。
だが魔族はとても強く、我らエルフ族は多くの犠牲を出した。
勇者達の働きにより、魔族は進行を止めたが魔族は滅んではいない。
三百年の時を経て、再び力を蓄えた魔族がいずれ現れる。
その時、全種族は再び動乱に巻き込まれるだろう」
壮大な物語だ。
勇者の役回り大変過ぎない?
「これはこの世界に生まれ育つ者なら、種族問わず誰でも識る事だ。
お主は違う世界から来たのであろう?
そして何か神の加護を感じる」
「分かるんですか?」
「お主には【解析】があるのだろうが、私には【千里眼】がある。
お主の事はこの眼で見えておるわ」
な、なんだと?
盗み見された気分だ。
よし、俺も見てやろう!
【解析】
え?み、見えない!
「私を見ようとしたな?
だが、見れぬよう術を施しておる。
悪いな」
エルメス様はフフフと微笑する。
お美しい。
でも悔しい。
「私ばかり見ると言うのも些か悪い気がするのぅ。
お主は強大な魔力を持つようだが、魔法を使いこなせていないようだ。
酷く歪なバランスでうまく魔法が機能しとらん。
どれ、詫びといっては何だが、お主の魔力回路を調整してやろう」
エルメス様が手を翳すと、何だか身体から力が湧き出すのを感じた。
「どうだ?
多分お主は、今まで簡単な初歩魔法しか出せなかっただろう。
桁違いの威力でも、初歩魔法では限度がある。
だが、楽器を調律する様に、お主の魔力回路を整え、複雑な魔法も発動出来るようにした」
身体中を魔力が行き渡る感じがする。
今なら強力な魔法も簡単に出せそうだ。
頭の中で色々術式を検索していると、【解析】で自分自身が見れるようになっている。
え?自分ってどうなんだ?
ワタライテツオ
年齢:25
LV:10
HP:120
MP:530000
俺、レベル10なのか。弱っ。
生命力も低いし。
というか魔力なんだこれ?
高過ぎなんだけど……
ただ、年齢が分かるようになったのはありがたい。
女性には年齢聞きにくいしね。
「この世界の理と違うところから来たお前は、どうやらレベルが上がりにくいようだな。
だが、経験を積んでいけばより強くなれよう」
という事は何かしらハンデがあるみたいだな。
気にする事もあるまい。
時間を戻せば無限に経験値は稼げる。
「レベルという概念は人間界ではまだまだ浸透しておらんし、あくまで魔力解析による大まかな指標に過ぎん。
お主の様に強き魔法を用いれば、自身よりレベルの高い敵を倒す事も出来る。
逆もまた然り。
ゆめゆめ忘れぬようにな」
「ありがとうございます。
肝に命じておきます」
全くその通りだ。
ここに来てから弱い敵に何度もやられている。
魔法でなんとか勝てるようになってきたが、今のレベル、生命力では強い攻撃をまともに喰らえば死ぬくらい弱い。
自信過剰になりがちだったが、この世界で行きていくにはやはり慎重にならないといけないな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます