28話 背景に白馬が見えます
親子というのは、外見が似やすいものだ。
私の薄い唇はお父様譲りで、リオンの綺麗な黒髪は母親譲りだった。
突然こんなことを言い出して、何を伝えたいのかと言うと……。
「ようこそ。私はフロース辺境伯のリヒトだ。招待に応じていただけとても嬉しいよ」
美形だ。
めっちゃ美形だ。
攻略対象であり美少年であるフランツの父親は、これまたとても麗しかった。
フランツの緑の瞳を青い瞳にして、二十代後半にしたイケメンと言った外見だ。
背後に白馬とか置いたらめっちゃ似合いそう。
うん、いける。
想像したらすごく絵になっている。
私のお父様も結構な美形だけど、お父様はお父様だった。
リオンやライナスも顔立ちはすごく整っているとはいえまだ少年だ。
初めて見る、身内以外の正統派美形な辺境伯に、軽く私は感動していた。
「エセルバート公爵家のイリスです。このたびはお招きいただき、ありがとうございます。高名な辺境伯にお会いでき嬉しい限りです」
「こちらこそ、だ。聡明なご令嬢だとお聞きしていたが、私の息子と一歳と少しか違わないとは、にわかに信じられないな」
……11歳の挨拶にしては、ちょっと大人びすぎてたかな?
身近にいるリオンも大概大人びた少年だし、ちょっと感覚がマヒってたかもしれない。
今更子供ぶることもできず、内心を隠し笑みを浮かべておく。
ここ数年の、令嬢教育のたまものだった。
「辺境伯のお子さんは、フランツと言うんですよね? どんなお子さんなんですか?」
「素直でかわいい子だよ。親バカだがね。――――フランツ‼」
「はい‼ お父様っ‼」
金色の髪を揺らし、フランツが駆け寄ってくる。
「フランツ・フロースです。……君が、イリス様?」
辺境伯の背中に隠れるようにして、フランツがこちらを見ていた。
……たぶん、私が怖いんだろうな。
悪役令嬢である私の顔立ちは、11歳の時点で既に威圧感を備え始めている。
今までは幼さでカバーできていたけど、そろそろ誤魔化せ無くなってきた。
お父様はかわいいと言ってくれるけど、吊り目がちな瞳はとっつきにくく、キツイ印象を与えがちだ。
「えぇ、私がイリス・エセルバートです。フランツ様の誕生パーティーのお手伝いに来ました」
「僕のために……?」
「はい。よろしくお願いしますね」
「……よろしくお願いします」
フランツがおずおずと近づいてくる。
まだ私のことは怖いらしいが、歩み寄ってくれようとしていた。
こんな可愛らしい子が、将来二重人格になって無理心中をせまったりするんだから、人間ってわからないと思うよ。うん。
☆☆☆☆☆
フランツ親子と私達親子で自己紹介を交わした後はさっそく、用意したシャボン玉を披露することにする。
「フランツ様は、シャボン玉で遊んだことはありますか?」
「楽しかったです! イリス様もシャボン玉が好きなんですか?」
「はい。今日は少し変わったシャボン玉を作るので、一緒に遊んでみませんか?」
「僕とイリス様が?」
フランツが自分と私を順番に見た。
少し戸惑った後、小さな手を差し出してくる。
「僕と友達になって、一緒に遊んでくれますか?」
かわいいなぁ。
一緒に遊ぶためには、友達にならなくちゃいけない。
その考えがかわいいよ。
ちょっとだけ、ショタコンの人の気持ちがわかった気がした。
フランツの手を握り返すと、えへへと笑い返された。
シャボン玉への期待と好奇心で、私への印象が良くなったのかもしれない。
「ではフランツ様。少し靴をはき替えてもらえますか?」
蝋を引いた革で作った、防水性の簡素な靴を差し出す
フランツは首を傾げつつも、素直に靴を替えてくれた。
「これでいい?」
「はい、大丈夫です。次にこちらのタライの中に立って、目をつぶってもらえますか?」
「えっ? どうして目を?」
「目を開けてからのお楽しみです」
「……何をするの?」
「怖いなら、目を開けていてもだいじょ――――」
「怖くなんてないです‼」
言い切るとフランツはタライへ向かい、足を踏み出したところで固まった。
「怖くないけど……。イリス様も、一緒にタライの中に立ちませんか?」
ふふ、怖いんだね。
強がりがほほえましかった。
リオンが運んできてくれたタライは、ざっと直径1メートル以上はあった。
体の小さな私なら、一緒に入っても問題は無いはずだ。
「私の隣に立って、私が合図するまで、目を閉じていてください」
フランツがこくこくと頷いている。
目をつむっているのを確認すると、リオンに合図し準備を進めてもらった。
「……………フランツ様。もう大丈夫です。目を開けてください」
「わあっ!!」
フランツが歓声を上げた。
ゆらゆら、きらきらと。
私たちを囲むように、大きなシャボン玉ができている。
淡い虹色の輝きを帯びたシャボン玉に、フランツは目を輝かせ興奮していた。
「すごい‼ すごいねっ!! これ、シャボン玉な――――うわっ⁉」
シャボン玉に手が触れてしまい、パチリと膜が弾けた。
フランツも目をパチクリとさせている。
「びっくりした……。今のは一体どうやって……?」
「もう一度やってみましょうか?」
リオンが持ち手のついた大きな、フラフープのような輪っかを私達の頭上から下した。
タライに静かに注入してもらったシャボン玉液へと、そっと輪を浸していく。
輪を持ち上げるとシャボン玉が筒状になり、私とフランツを囲んだ。
「わぁぁぁ……!! 僕たち、シャボン玉に食べられちゃいそうですね!!」
「食べられる……」
その発想は無かった。
くすりと笑うと、フランツも笑ってくれたのだった。
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