5・の指

指に触れていました

指に


気づいた時には触れていたのです


触れようとか

触れたいとか

考えた覚えもありません


気づけばもう

触れていたのです



細い指でした


骨だけでできている様な

石膏じみた指でした


なのにちゃんと感じるのです

皮膚の下の、薄い肉付きの弾力が

指の腹に伝わるのです


不思議でした



まるで血なんて通っていなさそうな

実に硬質で、透明質で、無機的な指なのです

それなのに、生きている


生きて、動く、弾性を備えた指なのです



 これは一体なんでせう

 これ自体が、もしや単独の生命なのか



不思議でならず、っと見詰めておりました


触れたまま

凝っと


僅かにぬくみがありました

微かに蒼く浮いていました

細い筋が

骨と、骨との、間のところ

鋭角の関節の箇所に



嗚呼、裂いてしまいたい



瞬間、わたしは願いました

そこを裂いたらどんなにか……


蒼く見える筋からは信じがたい赤色が

花開くように飛沫しぶくのではないか


骨の様な細い指の

そのまた奥に隠された

純白の骨が裂け目から覗き

真珠より気高く輝くのではないか


溢れ滴る血にみて

なお穢れ無い硬質の皮膚の

なんと白く眩いことか



その色彩にわたしは恍惚として――


いいえ、

まさか、まさか、そんなこと

ほんとうには致しません

致しませんとも



 これは一個の生命です

 白樺にも似た生命です



触れていました

ただ凝っと

触れておりました


指に


細く無機的な

命を宿す

骨の様な指に



 これは一体なんでせう

 これは

 ただ一個の生命です


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