3・共生する
家に帰ると少年が居た。
*
ここのところハズレ続きでいい加減うんざりしていた。
体を売るのも楽じゃない。
見知った相手が気楽だからと何度も同じ客を取っていたら、いつの間にか勘違いされていたりする。
恋人『ごっこ』だって初めから言ってるのに。
付きまとわれたり脅されたり、挙句「乗り換えるのか」だって?
当たり前でしょ、面倒な客はお断り。
「尻軽」だなんて罵りにもならない。
商売だって言ってるじゃない。
白けて疲れた気分の日には、ちょっといいワインでも飲みたいところ。
お店に行くのも悪くはないけど、また面倒なのが現れても厭だし、家の地下室に取って置きのが数本ある。
古びた安アパートだけど、備え付けのキッチンと狭いながらも地下室があるのがお気に入り。
家に帰ってすぐさま、ギシギシ鳴る階段を下って地下室へ行ったら、
いきなりそこに少年が居た。
*
一目で少年とわかったのは、彼が全裸だったからだ。
そうでなければ少女と見間違えたりしたかもしれない。
長い髪に覆われて顔は殆ど見えなかったし。
何より彼の周り中、植物が茂っていた。
植物。
植物だ。
どう見たって何かの草や……草だけか。
とにかく草が生えている。
多分一種類ではない、草が茫々茂っている。
いくら古いアパートだって、いつでもカビが生えそうな狭くて暗くてうすら寒い地下室だって、さすがに草は生えていない。
生えていないはず、だったんだけど。
「ねぇ」
僕は声をかけた。
「何してんの」
最初の質問はこれで正解だったのかな。
誰とか訊いたほうが良かっただろうか。
でも名乗られたところでどうしようもないし。
それより、どうしてそんなことになっているのかを訊いたほうが良かったかもしれない。
君はどうして全裸で草まみれになってるの? って。
随分馬鹿馬鹿しいね。
「ねぇって」
返事がないのでもう一度声をかけてみる。
少年が、身じろぎした。
ゆるゆると動き出す。
そこだけ野原みたいになった草の中、うずくまった少年の体が、ゆっくりと背を伸ばす。
長い髪に覆われた頭が、くゆるように振り返る。
明り取りには頼りない通気口の小さな窓から、銀色の月光が射した。
黒いと思った髪の毛が深緑色だとようやくわかった。
月の光のせいなのか、少年の素肌はことごとく白く、青磁の器を思わせた。
細い、細い、骨の尖りが微かな影を刻む手足。
折れそうな
彼はゆっくり振り向いて、それから僅かに微笑んだ。
色の薄い、柔らかそうな唇で。
透き通る瞳に、花開くような睫毛を揺らして。
するすると音もなく延びる蔓が僕を捉えた。
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