うるさいアヒルはブン回せ!!(゚∈゚*)

まちゅ~@英雄属性

お金が欲しい1

 僕は何も持っていない。


 幼い頃に両親が事故で死んで、じいちゃんばあちゃんに育てられて来た。


 何不自由無く育てられて来た……ごめん、少し嘘。


 あまり裕福では無かった。


 理由は色々ある、両親が事故にあってから、父が亡くなるのに半年、母が亡くなるのに一年、そこまでにかかった治療は 先進医療となり高額の負担になった。保険金なんて、一瞬だった。


 事故の相手が外国人だったとか、ドライブレコーダーがついていなかったとか、色々あったらしいけど、幼い僕には教えて貰える話でも無くて……。


 それでも祖父母がいた頃は良かった。祖父母は優しいながらも厳しい人で家事や炊事は出来るだけ自分で出来る様にしつけられた。


 高卒後、専門学校に入りエンジニアを学んでいて就職した。普通の自動車会社だ。


 初任給で手取り十数万ちょっと、それでも、少しは貯金出来ると、祖父母に恩返しが出来ると喜んだ矢先だった。


 祖父が、風呂場で心臓麻痺をおこして他界、その二日後に後を追うように心不全で他界してしまった。僕はどこまでも唖然とするしか無かった。


 何とか、役場の人達の手助けを受け、小さな家族葬を終わらせた頃に疲れて茫然としている僕の所に親戚が現れて、いきなり色々な書類を書かされた。


 良く解らなかったけど、『これが、お前の取り分だ』と言われた事だけは耳に残っている。今まで、ほとんど顔も見せなかった奴らが。


 どうやら、祖父母と死んだ両親の値段は300万らしい。


 それだけを持って沢山の楽しい思い出も辛い思い出もある、祖父母の家から追い出された。何故か涙も出なかった。本当に一滴も……なんなら金の亡者の様な親戚達の方が涙を流していた気がする。


 お金が欲しかった。


 こんな大切な人が死んで手に入る金なんかじゃ無くて、自分の金が……納得して使える金が……。


 そう言いつつも、引っ越しや何やらである程度、遺産からお金を借りなければならないのが余計に悔しかった。


 そして、一月がたって僕は小さなアパートで生活を一人暮らしを始める事になる……はずだった。



 ☆☆☆


 仕事が終わり、油まみれのツナギでフラフラしながら帰る。

 キツイな、もう仕事を始めて1ヶ月になるけどまだ全然慣れない。元々の人見知りなんだ会社の人達とは馴染めない。

 最近、弱いのに、チューハイを良く買う。


 お酒を飲まないと眠れないんだ。


 頭の中は、数時間前に言われた先輩の『出来ねぇクセにでしゃばるな!!』って言葉が頭の中でリフレインしている。オイル交換の時、廃油をぶちまけてしまった。お陰で余計な手間が増えたと先輩に激怒された。そして本日、数百回目のため息をついた時だった。


「やだっ!!やめてっ!!」甲高い女の人の声が道路の向こうから聞こえた。

 アパート前の小さな公園で複数の男性達が一人の派手な白のドレスを来た女性を囲んで、言い争っているのを、見かけてしまう。女性は強引にブランコに座らされ、かなり怯えて狼狽えている様で「なんで、私がそんな事をしなきゃ!!」とか「そんなの詐欺じゃないですか!?」とか声が聞こえる。


 こいつはまずいな、何も出来ないにしても、せめて警察に連絡した方が良いかな?と公園の影に隠れスマホを取り出し警察に通報するしようとした時だった。


「君、どうしたのかな?」後ろからの囁く様な声にびっくりして振り替えると、オールバックで背広を着た優しそうな三十代前後位の男が、ニッコリ笑って話しかけて来た。今となれば、こんな状況で笑い掛けてくるなんておかしいと思うけど、何故か、僕は信用してしまった。


 僕は激しく慌てたが、男の人は怖そうな人では無いと思い、小声で「大変なんです!!あそこの公園で女の人が怖そうな沢山の男の人達に囲まれてて、揉めてるみたいで!!僕、今から警察に!!」一人なら怖いけど、この人に手伝って貰えば!!


 オールバックの男の人は、いかにもそれは大変だと言う顔をして「成る程解りました、私が連絡します」と真剣な顔をしてスマホを取り出す。その様子に、怯える僕なんかに、比べてなんて勇気のある人なんだろうと、少し安堵と感心をしていると、


「もしもし……」電話に出た様だ。「何をやっているですか?一般人に通報される所でしたよ」……へっ?この人、何を?


「あなた、何を!!」思わず声を出すと、女の人を囲んでいた男達が一斉に僕の方を見る。


「たっ田辺さん!!」男達は、田辺と呼ばれたスーツの男を見て大慌てで、直立する。


 その瞬間、僕は失敗した事に気付いた。


「あなた達ね、警察を呼ばれていたら面倒な事になってましたよ?」田辺は、先程とは変わった冷たい声だった。静かにゆっくりと他の男達に命令する。


「こんな馬鹿みたいに目立つ所で騒ぐから、こんな事になるんです」そう言って僕を一瞥する目は、先程とは違い強者が弱者を見る目だった。何となくあの時の親戚の顔を思い出して、胃の奥がツンと痛み、吐き気がした。


「そこの勇敢な英雄君、悪いけど私達に少し付き合って貰えるかな?」それは暗に、逃げられないよと言われている様だった。


「彼女が、一体何をしたんですか?」僕が田辺を見据え話しかけると、田辺は少しびっくりした顔をして、


「おや、こんな怖い目に会ってるのに他人より自分の事かい?素晴らしいね、やっぱり君は英雄君だ」そう言われて、僕は今の状況にじわりじわりと恐怖し始めた。


 まずいなこれ、相当怖い目に会ってないか?


 逃げようか?思ったけど、足が動かない。怖くて?それもある。あるけど、きっと僕は白いドレスを来た女性の顔を見てしまったからだ。


 彼女の顔は怯えと恐怖、諦めそして、僕を見てほんの数秒だけ助かるかも?という期待した後、やっぱり無理なのか?と絶望した様な顔をした。彼女の左ほほには殴られたのだろうか?大きなアザが出来ている?


 急に頭がすっと冷える感覚がある、手足が少し震えた。


 何も知らない、あったばかりの女性が、暴力を受けて頬を腫らしている。


 その理不尽に、何故か頭が狂いそうになった。






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