第57回(改) BB小説家コミュニティ第四期の開幕
あっという間に、BB小説家コミュニティの第三期は終わりを迎えた。
仕事にかかりきりで、結局、当初コミュニティで成し遂げたかったことは、ほとんど何も出来ていないような状態だった。
11月に入り、第四期の募集が開始した。
私は迷わず申し込んだ。
まだこのコミュニティでやり残したことがいっぱいある。このままでは終われない。続けていきたい。そんな想いで胸がいっぱいだった。
ただ、コミュニティも全てが順調というわけではなかった。
第三期で知り合って、仲良くなった参加者の何人かは、この第四期から参加しなくなってしまったのである。
「コミュニティの運営方針が合わない」
「いまいちオタペン社長が信用できない」
「サービスの質が低下しているのに続けたくない」
といった意見を裏で聞いていた。
特に、サービスの質の低下、という意見に対しては、私は何もフォローすることは出来なかった。
第三期の時は、感想サービスは月に三本まで受けてくれていた。
それが、第四期からは、月に二本まで、と減ってしまったのである。
もちろんこれは、編集者一人一人の負担を減らしつつ、増加した参加者数に対応するための、やむを得ない措置であることは、私はわかっていた。
それに、私は、そもそも人との交流と、その中でモチベーションを高める、ということに重きを置いていたので、感想を受けられるのが三本だろうが二本だろうが、別にどうでも良かった。
でも、第三期から値上がりする中で、より高い金額を払うのに受けられる感想サービスの数が減る、という変化を、よしとしない人が出てくるのも、わからないでもなかった。
人が大勢集まる場所には、必ず何かしらの軋轢は生まれる。
BB小説家コミュニティとて、それは例外ではない。
集まった参加者が決して全員一枚岩となっているわけではない。
そのことに――寂しさを感じながら――去りゆく人達に背を向けて、私は引き続き第四期へと足を踏み入れることにしたのである。
※ ※ ※
2021年12月1日。
ついにBB小説家コミュニティの第四期がスタートした。
メンバーについては、今期から新しく入ってきた参加者も多く、第三期と比べて人数は純増していた。さらに、第三期よりもさらに濃い面子が揃い出したのである。
煩悩にまみれた現役僧侶。自称二十八歳JKの青年。官能表現大好きな主婦絵描き。等々。
一方で、商業の第一線で活躍している作家も入ってきた。
霧島兵庫氏。著書に『甲州赤鬼伝』『信長を生んだ男』『フラウの戦争論』『静かなる太陽』がある、歴史小説家。春からスタートする新連載の準備に取りかかりながらの、まさかのコミュニティ参加であった。
また、商業デビュー後、個人出版で輝かしい成果を上げている作家も、この四期から加わってきた。
わんた氏。TOブックスから『無人島でエルフと共同生活』、アスブックスから『このたび、美女の住み込み家政婦になりまして!』等を出しており、AmazonKindleでは『万能な魔法剣士は真の能力を隠して田舎暮らしを目指す』等を出して、サラリーマンの年収並みには売上を叩き出しているという、化け物クラスの兼業作家だ。
そんな濃厚なメンバーが揃ってきたことで、コミュニティの雰囲気も、第三期とはまた異なるものになってきた。
特に、オタペン社長のブレイン的存在として、この第四期では運営側に近い立ち位置で参加してきたゲームデザイナーの浮雲氏が、ここ最近話題となってきているウェブトゥーンに関する最新情報を持ち込んでは、コミュニティ内で発信していたため、驚くほどの量の業界話が溢れ返ることとなった。
それは、良くも悪くもあり――多くの参加者にとっては、刺激になっていたであろうが、私にとっては、間の悪いところがあった。
第四期は、私にとって苦難の期であった。
特に、目に見えて成功者(と思える人達)がいたため、そういった人々と自分を比較しては、深い闇に囚われそうになる日々を送っていた。
幸いなことに、BB小説家コミュニティは、何かの成果を挙げることを目的としている集まりではない。目標はあくまでも自分で立てるものであり、一番の目的は、書くためのモチベーションを上げることにあった。
だから、とりあえずは「何か実績を出さないと!」と焦る必要は無かったので、あとは自分自身がどこまで自分を許せるか、という領域の話なのである。
でも、私は、自分を許してはいなかった。
(何か! 成果を! 成果を出さないと!)
仕事にかかりきりで、思うように自分の書きたいものが進められないことに、焦りを抱いていた。
12月の頭にオタペン社長へ送ったダイレクトメッセージでは、こんなことを言っていた。
「11月ダウンしていて、色々と締め切りを超えている案件が重なっているので、この週末に集中してケリをつけていくようにします」
「3ヶ月の目標ですが、第三期の時にプロットまでは作った作品を電子書籍販売まで持っていきたいと思います」
「もう一つは、更新が滞っている連載の再開です」
「3ヶ月の間で余力があれば、別の作品のプロットも作ろうと思います。よろしくお願い申し上げます!」
実に気合に満ちあふれたメッセージである。
しかし、12月の終わり頃になると、次のような状態に変わっていた。
「こんばんは! 進捗は、この1週間は個人の方は進められず、でした……! やはり仕事の進捗がまずいので、そちら優先で」
それが、1月の終わり頃になると、次のような感じである。
「ありがとうございます……! 結局、昨日からずっと寝込んでいるので、身体は本調子ではないのだなぁ、という状態です」
また、激しく迷走を始めていた。
ろくな準備も整えずに、連載作品の書き上がった箇所をまとめて、AmazonKindleで電子書籍販売を開始したのである。
しかも、Twitter広告まで打った。お金を何万円もかけて、幅広く世間に届け、という願いを込めて、広告を出し、おかげで該当の宣伝ツイートは何百ものいいねやリツイートがついたのであるが――肝心の電子書籍自体は、たったの一冊しか売れなかった。
何万円もかけて広告を打って、たったの一冊である。
費用対効果を気にするどころの話ではない。
大損だ。
それも、かなり間抜けな失敗だ。
ぐにゃあ、と視界が歪むような焦りを感じた。
どうして、どうして、どうして。
どうして自分はこんなに上手くいかない。
泣きたい気分だった。
同じコミュニティ内で、成功者がいる一方で、自分はろくでもない仕事を引き受けて、そっちに追われている。
悔しい。ちくしょう。
このまま終わってたまるか……! 絶対に世間を見返してやる……!
折しも、1月に四十歳「不惑」となったばかりの私は、いまだ心に迷いや惑いを抱えたまま、必死でキーボードに食らいついて活動を続けるのであった。
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