第4回 「面白い小説を書いてやる!」という意気込みが、逆に面白くない小説を書かせてしまった話
小説を書くということは、プロの場合は特に、他人に読んでもらうことが前提となる。読者、は必ず存在する。誰にも読ませないのなら、それはただの日記か、空想や妄想の個人的なメモでしかない。
その他人に読んでもらうことが前提の小説作りにおいて、「面白い小説を書いてやる!」と意気込むことは、とても危険な行為だ。少なくとも私に関してはヤバい。このモードに入ると、本当にヤバい。本当に面白くない作品を書いてしまう。
記憶に残っているので一番古い例は、なんと言っても『室奈屋の娘』だ。
『室奈屋の娘』は、『蛇の姫』を出して落選した翌年に、再び伊豆文学賞にチャレンジした時に書いた短編である。生涯二作目の小説だ。
内容は、ある男の独白から始まる。時代は60年代。東京からやって来た青年が、伊豆の山奥にある村に迷い込み、そこで陰のある女性佐那と出会う。佐那のことが気になる青年は、村に滞在し始める。やがて彼は、村の暗く凄惨な過去と向き合うことになる・・・・・・という物語。
あらすじだけなら、この手の物語の王道パターンであり、展開次第ではものすごく面白くなるプロットだと思う。
ところが、ここで私はやらかしてしまったのである。
「超面白い作品に仕上げてみせる!」「文章力を最大限発揮してみせる!」とやたら鼻息荒く、気合いを入れてしまったのだ。
まあ、気合いを入れること自体は悪くない。問題は、読み手のことをあまり意識していなかったところにある。どこか漠然とした「読者」というイメージしかなく、誰に読んでもらうか、どういう人に受け止めてもらうか、そのことは一切考えていなかった。
気が付けば、歪な作品を作り上げてしまっていた。
ある人に『室奈屋の娘』を読んでもらった時に言われた感想を、今でも憶えている。
「面白かったら私の知っている編集さんに紹介しようと思ったけど、このレベルじゃ全然ダメね」
出直しておいで、と言わんばかりの酷評だった。
もちろん伊豆文学賞は落選した。
逢巳花堂、24歳の冬。こんな体たらくであったので、当然、作家デビューするまで長い年月を要したわけであるが、それはまたこれから少しずつ語るとしよう。
☆ ☆ ☆
ちなみに、電撃小説大賞への応募作『バニィ×ナックル』は、賞こそ逃したけれど、拾い上げで作家デビューするきっかけとなった作品であるが、なぜ編集の目に止まることが出来たか、その理由については明確に説明することが出来る。
『バニィ×ナックル』に関しては、ハッキリと読者層の顔が見えていた。
電撃文庫はどういう年代の、どういう趣味嗜好の人達が愛読しているのか、その特色は何であるか、歴代の大賞を取った小説は他の作品群と何が違ったのか。
そういったことを一所懸命頭をひねって考えて、こういう物語であれば楽しんでもらえるのではないか、と試行錯誤した末に出来上がったのが、『バニィ×ナックル』だった。
あの時のマインドが『ファイティング☆ウィッチ』や『天破夢幻のヴァルキュリア』を執筆した時にも発揮されていたら、今ごろ結果は違っていたかもしれない。『ファイティング☆ウィッチ』では、せっかく掴んだ商業出版のチャンスを逃したくないという気負いが悪い方向に働いたし、『天破夢幻のヴァルキュリア』ではそれこそ読者層の顔がまったく見えなくなっていた。なんというへっぽこ作家であろうか。
ま、そんなことを考えたところで後の祭りではあるが。
成功も失敗も、それぞれ必ず理由があって訪れるものだ。運を天に任せるのではなく、しっかりと頭をフル回転させて、小さくても着実な成功を掴み続けていきたい。そんな風に考える日々である。
逢巳
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