第23話 A組は情熱の赤! エリートクラスには負けんぜよ!
月が変わって6月。
梅雨に突入したタイミングで体育祭が開催された。
このシーズンに体育祭開催すると雨降るんじゃないの? と思ったけど、こういう日は天候を操る能力を持つ日色君が駆り出されるそうだ。雨の予報になったら天候を操って、この学校の上空だけ晴れにさせるんだってさ。
ちなみに私は運動会が好きなタイプだ。A組のカラーは情熱の赤である。はちまきをしっかり結ぶと、私は気合を入れて準備運動をした。因みにリボン結びとかしない。シンプルにしっかりはちまきを結ぶタイプである。
「藤さん、次あなたが出場する種目よ」
いつまでストレッチしているのと私の背中を押すのはクラスメイトの雲雀さんだ。ツンケンしていた当初と違い、よく世話を焼いてくれるようになった。屈伸運動をしていた私はゆっくり起き上がると入場門に歩いていった。
いつの間にかクラスの中で競技決めされていたけど、私の出場種目は障害物競走に決まっていたんだ。強制的にあてられたの。いじめかと思った。
別に良いんだけどさ。私の知っている障害物競争とちょっと違うなぁ。
ブォンと風を切る音をさせて飛んでくる丸太の数々。足元に仕掛けられたトラバサミは透明化の術をかけられているので、どこにあるかわからない。前からはボウガンの矢が狙い定めてヒュンヒュン飛んでくる。
大怪我しないように、罠には工夫が施されているらしいが……この学校は生徒に何を求めているのであろうか。忍者になれってか。
あー、でもなんかクラスの人が私をこの競技にあてた理由がわかった気がする。
私はスタート地点からPKバリアーを自分の周りに張り巡らせ集中させた。するとどうだろう、丸太やボウガンの矢を尽く弾き飛ばし、トラバサミも同じくバリアーで弾かれている。
どしゃあと斜め後ろで丸太が地面に落下する音が聞こえた。土埃があたりに広がる。一部の罠は反動で破壊されている始末だ。
マジ無敵。私無敵の人モードである。
「あいつ、PKバリアー持ちじゃねぇか!」
「ずるいぞ!!」
背後から罠に引っかかった走者の野次が飛んでくるが、この競技ってそういうものなんじゃないのか? 自分の超能力を使うか、身体能力を使って回避しろみたいな……
私は悪くないぞ。ずるくなんてないんだからな。
私はトップ独走で一位ゲット。
歓声の他にずるいという声を受けながら見事栄冠を手にしたのである。
私は無傷だけど、周りの参加者は怪我だらけ。怪我人続出である。保護者のクレーム来ないからって無茶しすぎじゃありませんかね。
ブロック席に戻ってきた私は静かに競技観戦していた。
現在400メートルリレー・男子の部が行われているが、女子のときよりも歓声がすごい気がする。
原因はあれだ。走者に彼らがいるんだよ。一応クラスごとにブロック分けされているんだけど、そんな事お構いなしに女子たちが黄色い声援を上げている。
「日色くーん!」
「戌井君頑張ってー!」
めっちゃモテてますやん。
予想してたけど。
戌井は自分が女子ウケする外見だと自覚してるっぽいけど、日色君はその限りじゃない。こんなに声援が上がってるんだから自覚してもいいと思うんだけど…女子の黄色い声援の中で走っている彼らはキラキラ輝いていた。2人のバトンパスの瞬間は女子たちの声が更に大きくなり、耳がキーンってした。
私はS組とはブロックが違うので口に出して応援はしないけど、心の中で応援しておく。
超能力者の学校には変わった競技があるのかなと思ったけど、私が出場した障害物競走に勝る競技はなさそうである。なぜあの競技だけハードモードなのだろうか。
午前の部が終わり、昼食タイムとなった。お弁当とお茶のペットボトルを受け取った私は日陰の涼しいところで食べようと辺りを見渡した。頭上ではピッピがおすそ分けしろと頭を突いてくる。
セキセイインコって教えたら言葉を発するようになるらしいけど、未だにピッピはピッピピッピ鳴くだけだ。私が言葉を教える気がないせいだろうか。
「──ねぇ、大武さんだっけ?」
「ん?」
グサグサと頭頂部にピッピのくちばしを感じているところに声を掛けてきたのは……知らない女子生徒3名であった。同じ普通科のB組の人かな。
誰だろうこの人達。誰ですかって聞いたら失礼になるかな。
「…なに?」
「あんた、S組の人と仲がいいんでしょう? お弁当一緒に食べたいから戌井君と日色君誘ってくんない?」
「えぇ…なんでよ」
なぜ私があなた方のために彼らをお誘いしなきゃいけないのか。私は仲介業者じゃないんだぞ。友達ならまだしも、友達でもなんでもない相手。そんな義理もないんですけど。
お昼ごはん一緒に食べようくらい自分で言えば?
「何いってんのコイツら。マジウケるんですけど」
よく通る声で嘲笑ったのは同じクラスのギャルだ。上位カーストに位置する彼女は堂々とB組の女子に喧嘩を売る態度を取っていた。それには彼女たちも不快そうな顔をしている。
「なによ…なにが言いたいのよ」
「藤さんを当てにしなきゃ近づけないくらい、自分に自信がない証拠ね」
雲雀さんがそれに追い打ちをかけて更に喧嘩を売っている。1年A組の人に限るのかもしれないけど、縄張り意識強いよね彼女たち。
「もういいっ」
うちのクラスの権力者たちに睨まれて怯んだ様子のB組の彼女たちは足早に去っていった。
言い返すくらいなら自分でもできたけど、多分雲雀さんとギャルは私を守ろうとしてくれたんだろうな。
「ありがとう。庇ってくれたんだよね」
私が彼女たちにお礼を言うと、ギャルはフンと鼻で笑い、雲雀さんは腕を組んでそっぽを向いてしまった。
「別にあなたのためじゃないのよ! あの人達が目障りだっただけよ!」
単なるツンデレだったようだ。
彼女たちに認めてもらうまでは時間がかかったけど、こうして庇われると、仲間と認めてもらえたんだなぁとほっこりした。
午後の部前にお手洗いを済ませておこうと、私は1人で体育館裏のトイレへ向かっていた。
そう、私はただトイレに用があっただけなのだ。
「後から入ってきたくせにアンタ生意気なのよ」
「普通クラスの人間がどうしてSクラスの人と親しいの?」
「しかもあの日色君と戌井君…どうやって近づいたのよ」
どこで待ち伏せしていたのか、それともただの偶然だったのかはさておいてだ。どうやら先程の件で逆恨みしてきたらしい。だけどこんな事しても彼らとは仲良くなれないと思うのだ。
私は壁に追いやられ、3人の女子軍団に包囲されていた。彼女たちは口々に文句をつけてくる。だが私からしてみたら「知らんがな」である。
戌井はともかく日色君なら普通に話しかけたら返してくれるよ。
「ならさぁ…彼らの近くまで連れて行ってあげるから、そこから先は自分で頑張ってみたら?」
「そ、そんなっ何を話せばいいのよ!」
「知らんよ」
あんたらはどうなりたいのよ。
私は譲歩してあげたのに、彼女たちは「無理よ!!」と顔を真っ赤にして拒否してきた。何なのこの人達。本当に何がしたいの。
彼女たちからは「とにかくあまり調子に乗らないでよね!」と念押しされた。別に調子に乗っていないつもりなんだけどなぁ。
パタパタと走り去る彼女たちを見送った私は本来の用事を思い出してダッシュでお手洗いに向かったのである。
午後の部が始まってしまうではないか。
■□■
1人1競技で割り振られているはずなのだが、私は本日2競技目の種目に出場していた。
それに深い理由はない。出場予定の人が軽い熱中症を起こしたのだ。治癒能力で回復させたけど、念の為ってことで、代理に私が出場することになったのだ。たまたま私の得意分野だったから私が手を上げただけなんだ。
私が代理で参加している競技はボールリレーである。
第一走者はバスケットボールをドリブルしながら200メートル走り、第二走者はテニスボールをラケットに乗せたまま同じく200メートル。第三走者がアンカーで、サッカーボールをドリブルしながらゴールに向かって走るという競技である。因みにバトンの代わりにたすきで繋ぐことになっている。
今現在の点数はトップがエリートSクラス集う黄色ブロックである。Aの赤とBの青はほぼ同点。体育祭でもエリートに負けるのか…と変な対抗意識が生まれた私は俄然やる気が出てきた。
目指すは逆転優勝。私は今か今かと自分の出番を待ち構えていた。
我が赤ブロック第一走者は悪戦苦闘していた。運動神経と言うより、バスケが苦手なのだろうか。ドリブルが上手く行かず、他のブロックに遅れて第二走者にたすきをつなぐ。次の走者はテニスボールをラケットに乗せたままバランスよく走っていたが、スタートダッシュの遅れで最下位となっていた。
最下位か……ちょっと自信がなくなってきたが、とりあえず頑張ろ。
たすきを受け取った私は、久々のサッカーボールの感触に身体が疼いた。軽快なドリブルで前の走者を追う。
今現在トラック内を走っているのだが、前の走者がコースアウトしていた。ボールに慣れていない人はちょっと手を焼く場面かもしれない。だが見よ、私の華麗な足さばきを。コーナー部分なんてなんのその。徐々に追い詰める。
ポーンと目の前をボールが飛んだ。
前を走っていた青ブロックの女子が明後日の方向へボールを蹴飛ばしてしまったのである。ボールは逆走して転がっている。よっしゃあ、1人抜けそうだ。
私が彼女の横を通り過ぎようとしたら、スッと足が伸びてきた。
何ぞ!? と思いつつ、私はフェイントを掛けてその足からボールを守った。通り過ぎざまに相手の顔を目視すると、それは先程因縁をつけてきたB組の女子であった。私を睨んで舌打ちをしているじゃないか。
嫌がらせのつもりなのだろうか。彼女に文句の一つでも吹っかけてやりたかったが、今私がすべき事は目の前を走るS組の黄色ブロック走者を追い抜くことだ。
何もなかったかのように彼女を無視すると、スピードアップしてボールと一緒に駆けた。
「藤さんっ後もうちょっとよ!」
「大武ー追い抜けー!」
クラスの人の声援が聞こえる。
少し前では考えられないことである。お前のことを認めないと敵対視していたクラスメイトたちが私を応援しているではないか。
その期待に応えて本気を出さなきゃだめだね。
私は目の前を走る黄色ブロックの女子生徒を追いかけた。まるで風になったようである。
ピッピが空を飛んで回るように、私は風と一体化した。…なんてね。
そして私は黄色ブロックの走者の横を通り過ぎると、余裕の表情でゴールテープを先に切った。
「大武ー! お前すげーよ!」
「逆転じゃん!」
「障害物競走でも一位だったけど、お前足速いな」
ブロックに戻った瞬間クラスの男子にもみくちゃにされた。背中をバシッと叩かれ、ポニテにしてる頭をワシャワシャされる。やめろ髪の毛を攻撃するな。髪の毛はとてもセンシティブなんだぞ。
「サッカー習ってた時期があるから」
小学校の同級生と一緒に地域のサッカーチームで習っていた時期があるんだ。だからちょっと自信があったというか。
なにはともあれ逆転できてよかった。
「あぁ、でもやっぱりS組には勝てなかったね…」
小鳥遊さんが残念そうにつぶやいた。
だけど私も同じ気持ちである。
総合得点であと一歩追いつけなかった。
本当に残念だ。エリートには勝てないってことか…
「大武さん活躍だったね」
「いやぁ、流石にエリートチームには勝てなかったけどねー」
優勝チーム所属の日色君に褒められたが、負けは負けである。私は負け犬の遠吠えする他ない。
「ううん、優勝とかそんな事置いておいて、さっきの大武さん本当に格好よかった」
彼はおひさまの笑顔で私を褒め称えてきた。
「……へへっ」
私はそれが嬉しくてくすぐったくて、にへらと笑う。
日色君のことだ。嫌味とかではなく、本気ですごいと思って称賛してくれたんだろう。
なので私もその言葉を素直に受け取ることにした。
残念ながらA組の赤ブロックは準優勝となったが、我ながらなかなか奮闘したんじゃないかなと思ってる。
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