第21話 みんなの態度が一変? これが…制服マジック…!(違う)
体はもうなんともないけど、経過観察とかで入院は続いていた。もう1週間くらい経ったかな。あまり休むと授業に遅れるからもうそろそろ復帰させてほしいな……
コツン、コツン
「あ、」
窓を叩く音。
その音に反応した私は、窓のカーテンを大きく開いた。
「ピッピ。それにフクちゃんとももちゃんもお見舞いに来てくれたの?」
夕方時、アニマルパラダイスの住民らが窓の外からお見舞いに来てくれたのだ。
病院は流石に動物禁止なので、窓の外からの面会になるが、心配して会いにきてくれるその気持ちが嬉しい。
ピッピのくちばしには摘んだばかりのたんぽぽがくわえられており、それを窓の縁に置いていた。お見舞い品としてお花を摘んできてくれたようだ。私はピッピの健気な行動に涙ぐんでしまった。
あぁ、窓を開けて彼らをモフりたい。私はいつまで入院してなきゃならんのだ。お医者さんや看護師さんにもう元気ですと言っても、スルーされるんだもん。
「早く退院したいよー。もう完全復活したのに、まだ出られないの…」
私の声が届いているかわからないけど、話し相手のいない入院生活だ。話足りない私は目の前にいるアニマルたちに必死に話しかけていた。
すると、コツコツ、と背後で扉を叩く音がした。
「はい?」
私が返事すると扉が開かれ、その先には沙羅ちゃんの姿があった。
「沙羅ちゃん!」
「藤ちゃん…だいぶ良くなったみたいね。良かった」
「うん。沙羅ちゃんのお陰だよ!」
お見舞いに来てくれた彼女は私に小さな紙袋を差し出した。受け取ったそれはなんだか見覚えのある包装がしていたので、もしかしたらまたお菓子を作ってくれたのだろうか。
中を開けてみたら、前回よりも上達した手作りのクッキーが入っていた。私はそれを見て、以前彼女からもらったお菓子を食べたときのことを思い出した。
「……ねぇ、沙羅ちゃん、以前にくれた手作りクッキーにもしかしてあの水を混ぜてくれた? 食べた後にすごく体の調子が良くなったんだ」
私の問いかけに、沙羅ちゃんは悲しそうに目を伏せていた。
「私にできるのはこれくらいだから」
なぜそんな悲しそうな顔をするんだろう。なぜそんな卑下するのか。
私は純粋に彼女の能力がすごいと思うし、彼女も誇っていいと思うのに……彼女にとっては家族から引き離す呪いのようなものなのだろうか。
「そんなことないよ。…だけど無理はしないで。沙羅ちゃん辛そうな顔してる」
私の能力タイプなら、寝てしっかり栄養を取れば回復するとお医者さんも言っていた。命に関わるものじゃないのだ。沙羅ちゃんが厭う命の水の能力をここで使う必要はないんだよ。
彼女にそっと言い聞かせてみたのだが、沙羅ちゃんの表情は浮かない。
「違うの……藤ちゃんのためにこの力を出すのは辛くなんてないわ…」
彼女は泣きそうな顔をしていた。
まるで初めて会話したあの日に逆戻りしてしまったかのように、悲しい目をしていた。
■□■
私が毎日のように退院退院と訴えるからか、8日目でようやく退院許可が下りた。
病院を出た瞬間、私はスキップして寮に向かった。それほど解放感である。なんかお医者さんに経過を見るから2週間後に来院してねって言われた気がするけど、もうしばらく病院のことは考えたくありません。あれだけ検査したんだからもういいでしょうが!
退院したその日は同室の小鳥遊さんとアニマルたちに退院祝いをしてもらった。話し相手に飢えていた私はいつもよりも饒舌で、彼女たちと沢山おしゃべりしたあとは愛用のヘッドスパ機で頭皮ケアをしてそのまま寝入ったのである……
翌日。
私は姿見前で自分の姿を見ていた。
「大丈夫だよ大武さん、よく似合ってるよ」
「んーなんか変な感じがする…首もとかなぁ」
彩研究学園高等部はブレザーにネクタイだ。
ネクタイの結び方は小鳥遊さんに教えてもらってなんとかマスターしたけど、セーラー服に比べたら窮屈なそれに違和感を覚えていた。
私はネクタイを緩めると、カッターシャツの第一ボタンを外した。ふぅ、楽になった。そもそも暑くなる時期にキツキツにしてたら熱がこもると思うんだ。これでよし。
私は愛用のリュックサックを背負うと、寮の扉を開けた。まだまだクラスの一員として認められていないけど、同じ制服を身に着けていると馴染んだ気がするぞ。
久々なような気もする1年A組の教室前に到着した。
まぁどうせ、クラスメイトからは余所者扱いされる運命なのだろうが……と期待せずに引き戸を開けると、教室にいた生徒たちの視線がこちらへと集中してきた。
転入してきて幾度となく浴びせられた余所者への冷たい視線はもう慣れた。私もう傷ついたりしないから…!
「転入生! あんたもう大丈夫なの!?」
「……へ?」
クラスメイトのカースト上位ギャルに気を使うような発言をされた私は固まった。
アンタモウ大丈夫ナノ…? あれ、私の耳の異常だろうか……私がギャルを見返して変な顔をしていたからか、相手は気を害したらしく「心配してあげているのに何よその態度!」と怒ってしまった。
いや、今までのそちらの態度から一変してのこれだとこっちも戸惑うといいますか…
「……本当にしぶといのね、あなたって」
つかつかと生徒の間から出てきたのはツンツンしたお嬢様風の女子生徒だ。名前は確か、
私はつい反射的に身構えてしまう。
「食堂であなた、複数の生徒をバリアーで守った上に、あの戌井さんの暴走を止めたそうじゃない。自分の能力の程度も知らずに限界まで抵抗したそうね。…馬鹿なのかしら」
私はイラッとした。
じゃあ他に誰かが止めたのか? って言い返したくなる。
あのまま戌井を暴走させていたら色んな人が怪我をし、傷ついていたはずだぞ。他の人は誰も何もしなかったじゃないか。あのまま放置しておいてなにか良いことでもあるか?
…だけど、自分の力量を考えずに突っ込んでいったことは否定できない。なので敢えて言い返さなかったが、私の表情を見ただけで私の言いたいことを理解したらしい雲雀さんが鼻で笑った。
「……心を読まずとも、あなたは顔に全てが現れているのね」
……私はクラスの人の超能力を把握していない。雲雀さんの今の言い方だと、心を読めるみたいな意味に聞こえる。
雲雀さんはため息を吐いて肩の力を抜くと、苦笑いを浮かべていた。高飛車で高圧的な彼女だがそんな顔をすると結構かわいい……
「仕方ないから認めてあげるわ」
「……え?」
そうは言われたが、私は疑心暗鬼に陥っていた。そう言ってどこかで落とし穴に落とすんじゃ…
「俺、あの現場見ていたけどさ、Sクラスの人間の能力に対抗するとかお前すげーな」
「そうそう、お前いち早く戌井の異変に気づいたらしいじゃん。バリアー以外にも別の能力持ちなんじゃねぇの?」
カースト上位の男子に友好的に話しかけられた。ひと月前の態度と一変し過ぎである。
「無我夢中になったら誰でも出来るよ」
「いや無理だっつの」
やってみなきゃわからないじゃないか。何事も挑戦あるのみだと思うと言うと「死ぬわ」と否定されてしまった。
まぁ…能力にも相性があるし……でも日色君のような声で従える能力とかなら制御できそうな気がするけどなぁ……
カースト上位の生徒以外にも同じクラスの人がひっきりなしに声を掛けてきた。「本当は気になっていたけど、気が引けて…ごめんね」と謝ってくる人もいた。
「大武さん気づいていなかったかもだけど、私あなたのお陰で無傷だったのよ。大武さんのバリアー外にいた人は大小あれど怪我してたから…本当にありがとう」
「そうなんだ…」
このクラスにも偶然PKバリアー内にいた人がいたようだ。ぶっちゃけ私は自分と沙羅ちゃんのことしか考えていなかったので、お礼を言われる筋合はないのだけど、それを言うのは野暮になるので黙って受け取っておいた。
そういえば、戌井はどうしたんだろう…日色君も沙羅ちゃんもその事何も言ってこなかったよね……
もしかして暴走したせいで反省房に入れられているとか……
「おい、大武藤」
そのぶっきらぼうな声。
私が後ろを振り向くと、教室の出入り口に奴がいた。戌井が現れたことで、A組の生徒たちがぎくりと後ずさった気配がした。…だけどこればっかりは責められない。戌井の能力は使い方を間違えれば大惨事を引き起こすものだから。
「戌井」
「……悪かったな、色々」
奴は相変わらず無愛想だ。謝罪しているけど心がこもっていない気もする。だけど謝るという行為だけでもこいつとしては進歩しているのだろうと思われる。
「……お前を怪我させたから責任取る」
奴の口から飛び出してきた言葉に、クラス中が静まり返った。
「……なにそれプロポーズ? それなら必要ないよ」
今どき怪我させたから責任取るって…ないわぁ。
私が断ると、戌井はなんだかしょんぼりしていた。こいつ言葉の重みをわかっているのか? それともプロポーズ以外の意味で言ったのか? どっちにせよ言葉が重いよ。
「怪我はきれいに治ったし、こんなふうに自分の未来を決めたくないの。あんたはとにかく自分の能力と向き合う勇気を持ちなさい」
戌井の能力に対抗している時に私はなんとなく自分の能力の出し方のコツを掴んだ気がする。
戌井はその圧力鍋の暴発のような能力を嫌っているみたいだけど、いつまでも目を背けるものじゃない。いつまでも学校側が面倒見てくれるわけじゃないし、自分と向き合う必要はあると思うのだ。
「…わかった」
「あ、それと私のことブスって呼ぶのやめて。いいね?」
これ大事。私にはちゃんと名前があるんだ。
「ん、藤」
こっくりと頷く戌井は傷ついて攻撃的な野良犬から保護犬へ変化していた。それが更に懐いて……
保護犬がようやく心を開いてくれた…あの感じである。大型ミックス犬が手から餌を食べてくれた光景が目に浮かんだ。お前、成長したなぁ…。
背後にいた雲雀さんが「んフッ」と吹き出していた。彼女がこのタイミングで笑ったってことは私の心の中を読んだの? いま読む必要あったかな?
この学校の人でも保護犬活動のこと知っているのかな? テレビか何かで見たのだろうか。
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