第13話 嫌がらせの範疇超えてるだろ。藁人形と五寸釘はやめろ。
「喜んでくれるといいんだけど…」
5月の連休明けてすぐの平日のお昼のことだ。
ここにきてからずっとソワソワしていた沙羅ちゃんが私にプレゼントをくれた。私の誕生日は4月29日。祝日の日だったので、渡すのが遅くなってしまったと沙羅ちゃんに謝罪されたが、そんな事気にしてない。…まさか誕生日プレゼントを用意してくれているとは思わず、私は感激した。
沙羅ちゃんがくれたのは藤の花のかんざしだ。私の名前にちなんで選んでくれたそうだ。私は髪ゴムを解いて早速かんざしを付けてみると、沙羅ちゃんが嬉しそうに微笑んでいた。
「やっぱり藤ちゃんに似合う。名前の通り、藤ちゃんには藤の花がよく似合うね」
そうそう、彼女と誕生日の話をしていて私の名前の由来を伝えたんだよな。本当に安易で、私が生まれた産院の窓から見える藤棚がとても美しかったから、藤って名付けられたってだけなんだけど。
「藤ちゃんの髪は真っ直ぐでとてもきれいね。私なんてチリチリだから、コシのある髪が羨ましい」
彼女の言葉に私は目を瞬かせた。
何を言うんだ。沙羅ちゃんの髪だって充分綺麗じゃないか。
確かに私の髪は癖がつきにくいけど、それまでだ。
「沙羅ちゃんの髪は猫っ毛でふわふわしてるから、それが沙羅ちゃんの持つ雰囲気と合ってると思うんだけどな」
中学の夏休みの時に一度髪を染めてみたことがあるけど、髪がしっかりしすぎて染まりにくかったし、美容師さんにパーマもかかりにくい髪質だって言われちゃったんだよ。一短一長だよ。
沙羅ちゃんは自分の髪の毛を触ってうーんと首を傾げていた。
今度愛用のヘッドスパ機器を持ってきて沙羅ちゃんにもやってあげようかな。あれいいよ。寝る前にやったらぐっすり眠れるしオススメだ。
お昼休みを終えて、沙羅ちゃんと別れた後は自分のクラスに戻ってきた。
「ねぇ転入生」
呼び止められた声に私はしょっぱい顔をしてしまった。
私は未だにクラスの人に名前を覚えてもらっていないようだ。しかし転入生というのは私しかいないので振り返るしかない。振り返った先にはカースト上位のギャルの姿があった。
又なにか言われるのかなとヒヤヒヤしていると、彼女は私の頭をちらっと見て、しかめっ面をしていた。
「巫女姫とあんたって仲いいの?」
その問いかけに一瞬理解が追いつかなかったが、巫女姫と呼ばれる人が沙羅ちゃんであると合点がいくと、私はうなずいた。
「そうだよ?」
「あんた、彼女がどんな存在かわかってる?」
その問いかけに私は変な顔をしてしまった。
どんな存在って……命の水を作る特別な女の子って意味? 巫女姫に近づくなんておこがましいとでも?
そうやって周りが特別視すればするほど、沙羅ちゃんは孤立してしまう。周りの人は沙羅ちゃんが悲しそうな顔をしているのに気づかなかったのか?
「…そういう風に周りが神格化するから沙羅ちゃんが孤立に追いやられてるんだよ。私は自分が仲良くしたいと思う人と仲良くするよ」
言い返したらまた何か生意気なミソッカスミソッカスと詰られるかなと思ったけど、そのクラスメイトは沈黙するだけだった。
なにか言いたげなのに、彼女はそれ以上何かを言ってこなかった。
それが不気味でもやもやした。
翌日、いつものように学校に登校すると、私の机の上に箱が置かれていた。
宅配便に使われるような箱。私は教材とかが届いたから置かれているのかなと思って何も考えずにガムテープを剥がした。
「ウッ…」
開けてみて後悔した。
箱の中には沙羅ちゃんと自分の写真が入れられており、自分の顔にはまち針が無数に刺されていたのだ。
……まさか…このクラスの人が…?
周りを見渡すもこっちに気づいていない人や、たまたま目が合った人からは怯える視線を返されたり……
嫌な気分に陥った私はそれを持って職員塔へ足を向けた。とりあえず担任の先生に相談しようと思って。
「巫女姫なぁ…水月を慕う過激なファンが居るからなぁ」
担任の先生は中身を見て顔をしかめていたが、犯人が誰だか粗方予想がついている風な口ぶりであった。
「ファン?」
沙羅ちゃんのファンがこれをやったってこと?
私がどういうことだと表情で訴えていると、先生は問題の物を回収して「犯人が誰かはわからないけどな。これは調査のために預からせてもらう」と言われて、教室に戻らされた。
ファン……
先生はそんな事言っていたけど、沙羅ちゃんの周りにそれらしき人を見たことがないぞ。
……沙羅ちゃんを慕うって言うなら、なぜ孤独な彼女をそのままにしておくのだ。
不気味さとか恐怖よりも、私はその怒りが湧いてきた。
そのファンとやらが、沙羅ちゃんを孤独にさせているんじゃないだろうかって。沙羅ちゃんと仲良くしようとする人を引き離していたんじゃなかろうかって。
想像の域を超えないけど、私はなんだかイライラしてきたのである。
その後も、私達の秘密基地のベンチにマキビシが撒かれており、それを担任に報告したら「忍者ごっこ始めるのか。怪我するから人のいない所でやれよ」と濡れ衣を着せられたり、トイレに行こうと思ったらなかなかたどり着けないという不可思議な現象に襲われたり、下駄箱の扉が接着されたみたいに開かなくなったり、突然目の前に炎が現れたり……
地味な嫌がらせと超能力を無断に使用したと思われる嫌がらせらしきものを受けた。
理由なき行使って懲罰対象なんじゃ…。しかし、罪を問おうにも犯人の姿が見えない。
最初はクラスの人を疑っていたが、もしかしたら他のクラス、他の学年かもと疑心暗鬼に陥るようになった。
■□■
その日は早朝頃からお腹が痛かった。何度かトイレに行ったけど、下したとかそんなんじゃなさそうである。ずくんずくんと、何かが刺さったような痛みがするんだ……今までに感じたことのない痛みである。
しばらくお腹を温めて横になっていれば収まるかなと思ったけど、鈍い痛みは収まらない。
…お腹痛い…
「大武さん、大丈夫? 今日、学校休む?」
「うん…ごめんけど先生にそう伝えてもらえる?」
小鳥遊さんが心配そうに声をかけてきた。彼女の言葉に甘えて休むことにした。
むしろどんどん痛みが増している気がするんだ。今日は授業どころじゃなさそうである。
──コツコツ、と寮の部屋の扉が叩かれた。
「はい」
起き上がれない私の代わりに小鳥遊さんが応対してくれた。寮監の先生がやって来たようである。
「大武さん宛てに荷物が届いてるわよ」
「ありがとうございます」
私宛ての荷物…?
はてなんだろう……
小鳥遊さんに手渡されたその箱は奇妙だった。持った感じでは軽いのだが、箱の中心がずしりと重い気がした。
私は鈍い腹の痛みにテンションが上がらないまま、その箱のガムテープを剥がした。
……中には「巫女姫から手を引け」と箱内部に血文字で書かれていた。
その中央には五寸釘を打たれた藁人形、顔には私の写真が貼られている。
それはまるで、呪いの人形のようで、私が誰かに呪われているようであった。
──ズクンッ!!
それを見た瞬間、お腹の痛みが更に増した。
「ぐぅっ…!」
「大武さん!?」
物凄い激痛に襲われた私は呻いてベッドに倒れ込む。
小鳥遊さんが私に呼びかける声が聞こえたけど、それに応えることなく私の意識は深い闇に呑まれていった。
ただ一つわかるのは、この謎の腹痛と藁人形の釘が刺さっている部分が同じ場所であるということ。
そんなバカな。…呪いって。この時代に呪いって……
内臓に何かが刺さっている感じがするのはそうか、五寸釘か……
もうなんでもありだな、この超能力者の学校ってのは。
私はしばらく意識消失していた。
次に目覚めたのは夕方だ。心配そうな顔で見下ろしてきたのは小鳥遊さんと、女性の先生だ。…この先生は確か手紙の検閲をしてくれたサイコメトラーの先生である。
「大武さん! 良かった目覚めて!」
「顔色も良くなったわね。だけどあまり無理はしないで。今日は横になって安静にしていなさい」
小鳥遊さんは半泣きになっていた。そしてアニマルパラダイスの住民たちは私の側でずっと看病してくれていたらしい。ピッピはピッピピッピ鳴きながら寝ている私の髪の毛をむしむししている。普段は小鳥遊さんにベッタリなももちゃんは私の胸の上に乗っかっており、フクちゃんはベッド脇におとなしく座っていた。
心配だったから彼らに私の様子を観察してもらっていたと小鳥遊さんに教えられた。
私は顔の横にいるピッピに手を伸ばし、その小さな体をそっと撫でる。するとピッピが甘えるようにすり寄ってきた。
なんだったんだろう……
小鳥遊さんも先生も何も教えてくれなかった。
悪い夢を見たのだと思って忘れなさいと言うだけだった。
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