第11話 特別な女の子とミソッカス(仮)な私
食パンを受け取った水月さんは食パンをちぎって鳥たちに与えていた。彼女の周りに鳥が群がると、水月さんはそれに驚く。そして嬉しそうに微笑んでいた。
おとなしくて不思議な雰囲気を持つ女の子だと思っていたが、こうして笑っている姿を見ると年相応だな。
……この学校って年齢よりも大人っぽいか、子供っぽいの両極端な人が多いなと思った。やはり幼いうちに親元から離すのが行けないんだと思うなぁ。研究学園都市の隣に家族の居住地を作れないものなのだろうか。家では親元にいさせて、そしてここまで通学するみたいにしなきゃいけない気がするなぁ……子どもの情緒発達的な意味で。
中学生の時に近くの児童養護施設から同じ学校に通う同級生がいたけど、彼ら、彼女らもどこか幼い部分と大人な部分が合わさってアンバランスな印象があった。もちろんそれは一般家庭に住まう人にもあり得ることだ。
…だけど彼らのはちょっと特有だったんだよな。その同級生は一生懸命で頑張り屋さんだったけど……やっぱりどこか寂しそうだった。
逃げ場所がない。弱音を吐く場所がない。息苦しそうなその雰囲気が同じで気になってしまう。
「…鳥、好きなの?」
私がそっと問いかけると、水月さんはビクリと肩を揺らしていた。彼女は私を見て、なんだか怯えた目をしていた。
……あっ! 転入生だから怯えられたのかな!?
「あのねっ私は先々週に高等部へ転入してきた大武藤っていうの! 害意はないよ! 至って無害な女子高生だよ!」
とりあえず無害アピールをしておく。私は未だに危険人物視されているが、害するほど能力を使いこなせるわけじゃないんだよ! 何もしないから怖がらないでおくれ!
「…水月…沙羅です……」
「あっうん! 知ってる! 水月さん有名人だもんね! レアな能力持ちだって同じ部屋の子に教えてもらったよ。すごいね」
私なんて能力の欠片も出せてません。もしかしたら近日中に無能力者として追い出されるんじゃないかなと想像しております。
「そんな…私はちっともすごくありません」
水月さんは泣きそうな顔をしてそれを否定してきた。
私はそれを見てぎょっとする。彼女を傷つけるような言葉を言ってしまったのか!?
「あのっごめ…」
「…こんな能力…欲しくなかった」
それは吐露であった。
声を絞り出すように、苦しそうに呟く彼女の顔は泣くのをこらえるようにしかめられていた。
そんな水月さんの言葉を受けて、私は気の利いた言葉を一つも返してあげられなかった。
初対面の私の印象があまり良くなかったかなーと思っていたけど、沙羅ちゃんは翌日のお昼休みも私とピッピの秘密基地にやって来た。
彼女も売店で食パンを購入してきたらしく、一緒に鳥たちに施しを与えながら、ぽつりぽつりと他愛のない話をした。大体私が一方的に話すだけだったけど、沙羅ちゃんは次第にそれに返してくれるようになった。
雨じゃない日には秘密基地で落ち合って、売店で各自買ってきたものを食べながらお喋りをした。
私は自分のことばかり話した。好きなガールズバンドのこと。外の学校の友人のこと、外の世界のこと、私の両親のこと。
沙羅ちゃんは笑って話を聞いてくれるけど、時折悲しそうな表情を浮かべた。
私はできるだけ面白おかしく話しているつもりだったけど、籠の鳥状態のここの学生には面白い話じゃないのかな。
沙羅ちゃんはあまり自分の話をしてくれない。私を信用してくれてないからかな……
私は彼女ともっと仲良くなりたいなって思っていた。
だってこの学校でまともに会話してくれる3人目の生徒なんだもん。沙羅ちゃんは一学年下のSクラス生だけど、ちゃんと私と向き合ってくれるんだ。
私は人としゃべることに飢えていた。
同室の小鳥遊さんとは部屋の中でしか話さない。なぜかって私と親しくすることで彼女が同級生からいじめられたら困るから、私がそうしているのだ。
日色君は会えば会話をしてくれるが、違うクラス、そして異性の男の子なので話せる内容が限られる。しかも彼は委員会に入っているので結構忙しそうにしている為、ずっとは付き合わせられない。
沙羅ちゃんと仲良くなりたい。
だけど彼女の前には透明な壁があって……私はそれを壊すほど彼女のことを知らないし、彼女を傷つけたくないので、今日も当たり障りのないおしゃべりをしながら、鳥たちにパンくずを与えるのである。
■□■
日曜日の午後、私は研究学園都市内を一人で散策していた。
今日は電気屋さんに用があったのだ。CDやDVDを再生するための機械を購入するためである。ノートパソコンがあれば一番だったけど、通信ができるものは厳禁。テレビとレコーダーセットでは予算オーバーする。なのでシンプルにDVDプレーヤーを購入することにした。
因みに本命の音源は本屋さんで予約済み・入荷待ちである。入荷に2週間位かかるって言われちゃったからもうしばらくの辛抱である。
電気屋は通信機器がない分、スッキリしていたが、必要な電化製品は十分揃っていた。外との違いは、変な売り込みとかがない所であろうか。キャリアのスマホやタブレットを契約させようとするスタッフがいなかった。
研究学園を卒業後この地に残ってそのまま働いている人もいるというが、ここの店員さんもそうなんだろうな……傍から見たらどんな能力を使う人なのかわかんないや。
電気屋であっさり目的のものを購入した私は、レシートに書かれた今月分の限度額を見て渋い顔をしてしまった。
つい、頭皮マッサージ機器を一緒に購入してしまった。当初の目的は泡立て器みたいなタイプを購入予定が、電動ヘッドスパに惹かれてしまって……
いくら国から支給されるとはいえ、限度があるというのに……。無駄遣いだとは思っていないけど、計画的に使わないと…危険だ。これは魔法のカードじゃないんだから……金銭感覚が麻痺しそう。
……もう少し節約しなきゃ。
本当は街の中のお店を色々見て回りたかったのだが、この調子じゃウィンドウショッピングで終わりそうだ。だけどせっかくなので色々見ておきたい。
購入したものが入った紙袋を持ち直し、私は若者が集まりそうな店が集合している通りに足を向けた。日曜ってこともあって電気屋も人が多かったけど、こっちの若者通りも人が多かった。友達同士、もしくはカップルの姿が多く見られる。
思ったけどここで結婚してそのまま住んでる人もいるっぽいな。さっき電気屋さんでちらほら家族連れ、カップルがいたから。……もしかしたら、在校生の中にはこの研究都市内に家族が住んでいて、いつでも会えるって人もいるのかもしれない。
成人したらこの都市の外に出られる。だけど敢えてここで生きることを選択する人たち。……私は外の世界が恋しいし、家族や友達に会いたいなって思い出して寂しくなるけど、子供の頃からここにいたらそんな事思わなくなっちゃうのかな……
それとも、私もここに居続けたら離れたくないと思うようになるのであろうか?
「──隆ちゃん! 待ってよっ」
私がとめどない考えに陥っていると、ひとりの女の子が横を通り過ぎた。彼女は一緒にいる人を追いかけて、そしてその相手の腕に抱きついていた。
なんてない、若いカップルが道端でイチャイチャしているだけだ。別に珍しくともなんともない。
ただし、それが知っている人だったらその限りではない。
そのカップルの片割れを見て、私は口をガパッと開けてしまった。
……日色君!?
いつも制服姿の日色君が私服で、その隣には同じ年頃の女の子。小柄でパッと見、気が強そうな綺麗な子だった。その子が腕に抱きつくと、日色君が驚いた顔をしてそして優しくほほえみ返していたのだ。
腕を組んで歩いているだと!? 彼女か! 彼女が居たんか!
知らなかったー! えぇー言ってよぉ! ちょっと日色君てば隅に置けないなぁ!
わぁ、今度会ったらちょっと探り入れてみよう。冷やかしたらどんな反応するかなぁ。高等部1学年では見かけない子だから、他の学年の子だよね? わーたーのしー。日色君と恋バナが出来るぞー!
今度彼と会った時のワクワク話を入手できた私は彼のデートの邪魔にならぬよう、そそくさとその場を去ったのである。
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