第1話 失っていく大切なもの

____1765年 11月3日_____



 今日は母さんと父さんが戦争から帰ってくる日だ。僕とエマはこの日を楽しみに待っていた。

 

 母さんと父さんが帰ってくる前に、僕とエマで残されたお金を全部使って、夕飯はごちそうにしようと決めていた。

 

 「エマ!買い出しに行く準備は出来たかい??」

 

 「待ってお兄ちゃん家の装飾がまだ終わってない!」


 「じゃあ時間が無いから僕は先に行くからねー」


 「待ってよー!」





 「ねぇ!エマ今日は何が食べたい??」


 「お肉と、チーズと、シチューと、、いっぱい食べたい!!」


 「お兄ちゃんは何がいい??」


 「僕はパン以外ならなんでもいいかな、、母さんと父さんと一緒に食事ができるならそれ以上求めるものは何も無いよ。」


 「へぇーー、、、」


 何か期待はずれのことを言ったかのように妹は眉間にしわを寄せこちらを睨んでいた。

 




 「あっ! あったお肉屋さん!!」



 「あいよっ!! おちびちゃん達! 新鮮なお肉が揃ってますぜぇ! さて、何にするんだ??」


 「じゃあこれとこれ下さい。」


 「あんちゃん あまりお金もってないのかい??、、、そんならこの特大リブロースステーキをプレゼントしてやんよ!! 間違っても今食うんじゃねぇぜ腹壊しちまうからよ! ハッハッハハハ!!」


 「ありがとうございます。」


 「また来てくれよ!!」

 




 買い出しも順調に終わり、僕とエマは夕飯の支度をしていた。


 「お兄ちゃんママ遅いね」


 「うん。多分もうすぐ帰ってくると思うよ。」


 確かに言われてみれば遅い気もする。街中にはたくさんの戦争から帰ってきた人が居て、お祝いムードになっていた。そろそろ帰ってきてもいいはずだった。



 「ハァ。終わったー」


 夕飯の支度も終わり、あとは母さんと父さんが帰るのを待つだけだ。


 「エマ。椅子に座って母さんと父さんの帰りを

待っておこう。」


 「うん!!」


 いつも以上にエマの目は輝いているように見えた。



 何気ない話をエマとしてかなり時間が経ち、月もかなり上まで昇っていた。


 コンコンコンッ


 扉を叩く音がした。


 「ママだ!!」


 反射的に僕達は扉の方へ走っていった。そして、扉を開ける。ガチャッ


 「ママ!パ、、、?」


 僕達の目の前には軍服を着ている、痩せ細った顔の男が立っていた、、、。


 「こんばんは。アレク君とエマさん。私はフランス軍、第五分隊の分隊長であります、、、  二人に謝らなければならない。本当にすまない!!二人を守ってやれなかった。」

 

 男は泣きながら謝罪した。そして、僕とその頭を深く下げた男との間で長い沈黙になった後、男は顔を上げて言った。


 「それとこれはアレク君のお母さんとお父さんの残したドッグタグと手紙です。あと、明日ここに行ってください地図を渡しておきます。大切に保管してください。では。」


 ガチャッ 


 いきなりの報告に僕達は気が動転していた。


 「ねぇ! お兄ちゃん。明日ママとパパが帰ってくるってことだよね??」


 「エマ。早く一緒にご飯を食べて寝るよ。」


 「ねぇ。帰ってくるよね?」


 「いいから早く!!」


 外がお祝いムードの中黙々と僕とエマはスプーンを動かす。そして、夕飯も食べ終わり、寝室へと移動した。妹が枕で潰した泣き声が聞こえる中、今日四人で寝るはずだったベッドの上は、いつもより冷たく感じた。


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