塾講師始めたら天使な幼馴染が生徒になっていて、尊くアプローチしてくる。先生として俺はもう駄目かもしれない

かずなし のなめ@「AI転生」2巻発売中

第1話 天使な幼馴染が、初めての生徒だった


 大学に進学したので、この春からやっとバイトを始められる様になった。

 幸運な事に前々からやってみたいと思っていた塾講師に就く事が出来た。

 勤める先は一授業につき基本一人もしくは二人を相手にする個別塾であり、ひとまず俺の担当教科は数学、英語、物理。学年は中学生と高校生なら何でもござれ。


 正直、流石に緊張した。

 あの塾講師の立場に俺が立っているなんて、少なくとも一年前までは想像もしていなかった。

 何でも教える事が出来たあの先生の様に、今の俺は果たしてなれているだろうか。

 生徒の質問に全て答える事が出来るだろうか。俺は生徒の人生を預かるに相応しい人間だろうか。

 そんな不安で大学の授業も受けられなかった夜、俺の記念すべき最初の授業時間がやってきた。

 

 けれど、そんな懸念も残念なことに全て吹き飛んだ。

 担当の生徒の顔を見るまでは。

 

礼人れいと……お兄ちゃん?」

「……結夢ゆめか?」


 幼馴染が初めての生徒だった。

 

 ところで八幡結夢やはた ゆめと最初に会ったのは、俺が4歳の頃。

 保育園の頃から妹と親友だった結夢は結構な頻度で家に来ていた。

 俺にとってはもう一人の妹みたいなもので、よく三人で遊んでいた。

 三年前、結夢が親の都合で転校するまでは。

 

「礼人お兄ちゃん……お久しぶりです」

「帰ってきてたのか」

「うん。二ヶ月前に、ね」


 結夢ゆめにとっても相当想定外だったのか、目の泳ぎは隠せないが、小学校の頃と様子は変わっていない。

 体つきはやはり小学生から高校生になったという事もあり、女性のそれに近づいているとはいえ、その小さな体、ショートボブの黒髪、黒の眼鏡、幼い顔立ち……変わってない。というか、天使みたいだ。

 懐かしい気持ちはある。でも今の俺は、結夢の先生だ。

 線引きはしっかりしなくてはならない。

 

「とりあえず、今は先生を付けて呼ぶように」

「……」


 上目遣いの真顔で見られたまま、一瞬時が流れた。

 冷たい突き放しだったか? 昔はこんな事言わなかったもんな。

 と思ったら結夢の顔が物凄い緩んだ。カーディガンで隠れた掌で、口元を包み込みながら。

 

「ふふ……礼人お兄ちゃんは、昔と変わってないですね」

「そうか?」

「そうやって真面目な所。いつも私達を見守る立場として、ちゃんと引き留めてくれる所。なんだか安心しました」


 そんな立場だったかな。

 妹が“アレ”だから、もしかしたら俺にとっては普通でも、周りから見たらそういう風に見えるかもしれないな。

 

「分かりました。柊先生。今日はよろしくお願いします」


 うわ。先生と呼ばれるの斬新。

 でも何だか寂しい。

 すぐにお兄ちゃんお兄ちゃん読んでくる結夢は遥か遠い彼方という訳か。

 でもこうやって、人生は何でもかんでも昔話に閉じ込めていくんだろうな。

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