第3話
「いやあ、助かったでござる……」
宿に運び込まれたミフユは、魔力が戻りきっていないため、相変わらず動けずにいたがそれ以外は復活していた。
「しかし、お主、シオミ一族の者でござったか」
「まあ、里をおわれた、と枕に付きやすが」
「となると、拙者への使い走りや、ましては刺客ではないでござるな」
「ご推察の通りでんす」
「どうも、気の流れがおかしい様でござるな」
「医術師でないと手が出せそうにないんで?」
「拙者の見立てでは」
お手上げ、といった様子で、ミフユは深々とため息を吐いた。
実際、ミフユの所感は正しく、彼女の体内に残っている糸が、体内の気の流れに干渉していた。
「ひとまず、あっしが姐御を担いで自由都市へ行くとして、それまでこの村が持つか……」
「いや、そこまでせずとも、拙者は己の足で……」
「そんな身体で、野盗にでも襲われたらどうすんですかい」
「……。うむ、そうでござるな……」
イブキに鋭く指摘され、苦労して半身を起こしたミフユは、自分の判断力も鈍っていると気が付き
同時に、イブキは恐ろしく変人ではあるが、悪人ではない事にも気が付いた。
「立てますんで?」
「うむ。……済まぬが手を借して欲しいでござる」
「へいっ」
何とかベッドから立ち上がる事はできたが、イブキの肩を借りてもフラフラとしか歩く事ができない。
「ううむ。思った以上に言うこと利かぬでござるな」
「担ぎやしょうか?」
「頼むでござる」
イブキがミフユを横抱きにして、扉を開けたところで、
「あ? 何やってんだお前」
2人を見て、
彼女は生成り色の自由都市の商人用マントを、シンプルなグレーの服の上に羽織っていて、その頭には黒猫状態の『大魔導』マリアが肩車の要領で乗っていた。
長い尻尾をゆらゆらさせているマリアは、どこか眠そうな様子だった。
「おや。
「ああ、ポラリス殿にご師匠様。いやこれはでござるな――」
「なーるほど。ちょーっと油断しちゃった?」
「お恥ずかしい限りでござる」
ネコが喋っている事が当たり前かのように、ミフユはマリアと話を進める。
「よし、大体分かった。取ったげるよー。あ、お代は要らないから」
「かたじけない」
「まーた安請け合いしやがって……」
「まーいーじゃないかーちゃんポラー」
「誰だよそれ」
ゆるふわな感じでそう言ったマリアは、呆れた様子で眉間に大いにシワを寄せるポラリスの頭をてしてしと軽く叩いた。
「いやいやいや! なぜ猫が人語をッ!?」
「
「でござるな」
「後で説明するからー、とりあえずミフユっち中に運んで。にゃー」
「取って付けた様に猫要素出すな」
「シショウダカラシャベル……。アッ、ハイ」
混乱の極みにいるイブキは、ふわーっと言ってくるマリアの指示に従って、ミフユを元のベッドの上に戻した。
「ぐう」
「寝るな!」
そして、ポラリスが扉を閉めたところで、その頭に乗るマリアがうたた寝し、弟子は怒鳴りながら師の首根っこを
「冗談だよー。というかもう少しいたわりをさー……」
「うっせえ! さっさと水仕入れねえと帰れねーんだぞオレら!」
「そんな怒らなくていいじゃん。ごろにゃん」
「キレるに決まってんだろ!」
マリアがあざとく引っくり返って、くねくね猫ムーブするのを無視してジト目で睨む。
ぬあー、ごめんてー、と哀しげに言いながら、マリアは人間体に変身した。
「だっ――」
その姿を見て仰天したイブキが大声を出しかけたので、他の3人は一斉に静かにする様、顔の前で人差し指を立てて彼女を黙らせた。
「あんまり知れちゃうと結構面倒だからやめてねー」
「も、申し訳ない……」
潔く謝ったイブキに、いいよー、とマリアは実にあっさり許して、
「ぐう」
「寝るな!」
「いてっ」
ベッドに座った状態で寝始めて、ポラリスに頭をはたかれた。
「同じ事を2回やるっていう技法なのにー」
「天丼でござるな」
「そうそれーテンドン! ……すいません、ちゃんとします」
プー、と拗ねた顔でとぼけるマリアのボケに、ミフユが乗っかってきたが、ポラリスに師匠へ向けるものでは到底ない、冷たい視線を向けられて謝った。
「ちょっと失礼」
マリアはミフユの額に触れて数秒目を閉じると、ポラリスに『分解』、『吸着』、『滅却』の3つの魔法術式をオーダーした。
「ん」
「んー」
腰のバッグから紙束を出し、さらさらっと魔法で3つを混ぜた魔方陣を描いて、1枚ちぎって師匠に手渡した。
「おい見とけよござる2号。師匠の魔法なんかめったに見られねえぞ」
「あっし、ござるは言わないんでんすが……」
見た目で適当な
それが、1層目の『分解』で魔力糸を体内でばらし、2層目の『吸着』でその魔力の粒子を吸い上げる。
全て吸い上げると、最後に『滅却』でそれを処分して、ミフユの体内にある魔力糸の除去が完了した。
「どうかな」
「うむ。感覚がすっかり戻ったでござる」
普通に半身を起こしたミフユが、魔力を放出し掌でつむじ風を起こして確認すると、それは支障なく行なう事ができた。
「よーし。じゃ、おやすみー。ぐう」
マリアはそれを聞いて猫状態になると、その場で横になって寝てしまった。
「自力で戻れっての……」
たくよ、とポラリスは面倒くさそうにマリアを頭に乗せ直して、
「そんじゃ頑張れよー」
手をピラピラと振りつつ、さっさと部屋から出て行こうとした。
「ええっ、流れ的に共闘の流れでないんで?」
「こっちだって遊びに来てんじゃねーの」
大体ござるが2回も同じ相手にそう負けねーよ、とポラリスは、イブキに茶化し一切無しでニヤリと笑って言い、今度こそ出て行った。
「ポラリス殿の言うとおりでござるよ」
何の支障も無く立ち上がったミフユは、背筋を伸ばしながらそう言って、ぴょんぴょんと軽く跳ねる。
「しかし、流石に本調子、とまでは行かないでやんしょ……?」
「ならばお主に助っ人を頼むとするでござるよ」
「私などで、良いので?」
「シオミ一族は里の中でも武闘派でござるからな。それに、拙者の全力疾走に付いてこられるなら問題なかろう」
髪の毛を結い直しつつ、フッと笑みを浮かべると、ミフユは身なりを整えて腰に『雷電』と
「それに、拙者だけでは力不足故、殺してしまうでござるからな」
彼女は悔しさを
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