鳥鵲の智
一白
第1話
× × ×
いや、いつもは忘れてるんだって。
違う違う、俺が忘れっぽいわけじゃなくって。
……そりゃあ、弁当とか傘とか、しょっちゅう忘れてるけどさ。
そうじゃなくて、覚えておく必要がないくらいの小さいことなんだよ。
んーと、そうだな、例えば……五百年前くらいの先祖が誰か、とか、千年後の地球はどうなってるか、とか、そういうことってどうでもいいだろ?
調べる気にもなんないし、考えたって分かんないし。そういう感じ。
だから、ってわけじゃないけど、そんな気にしなくてもいいと思うんだよな。
だって、アレはただそこにいるだけで、何もしてこないから。
まあ、確かに見た目は気持ち悪いかなって思うけどさ。
俺も最初はすっげえびっくりしたけど、もう見慣れちゃったし。
慣れちゃダメ、って言われてもなあ……。
だって、俺が見ようとして見てるわけじゃなくて、気が付いたらいるんだぜ?
フカコーリョクってヤツだろ、たぶん。
つか、何年か前にセミが一斉にいなくなったとかって騒いでたけど、そういうのと一緒なんじゃねーの?
ほら、伝染病とか感染症とか、んー、ウイルスとか、なんかそういうの。
病気のヤツがたまたま落ちて死んだってだけじゃないかな。
いや、死んでから落ちたのか、落ちたから死んだのかは、分からないけど。
え? いや、まさか。近寄ったりなんかしねーよ。変な病気とか感染ったら困るし。
ちょっとでも動いてたりすれば、手当てとか、ちょっと考えたかも知んねーけどさ。
全然動かねーし。遠目で見たって死んでるって分かるだろ?
埋めるって言ったって……、俺が飼ってたわけじゃねーのに、どうしてだよ。
近所の人とか役所の人とか、よく分かんねーけど、大人が片付けるモンだろ?
だから、俺が飼ってたわけじゃねーんだから、俺が片付けなきゃいけない理由はないだろっての。
そもそも、いつ見つけたって、俺はアレを埋めたりする時間なんてないんだから、仕方ないだろ。
アレを土のあるところまで運んで、家からシャベル持ってきて、穴を掘ってたら、学校にも塾にも遅刻するぜ。
なんて言い訳すんだよ。「道にゴミが落ちてたから埋めてました」って言えばいいのか?
は? いや、アレはゴミだろ。
だって、小動物の死体はゴミ収集車で回収してくれるんだぜ。
だったら、俺がわざわざ先生に怒られる理由を作んなくたっていいだろ。
他のゴミと一緒に、あっという間に灰になるんだから。
……、なあ、アレのことはどうでもいいだろ。
突っ立ってねーで、そろそろ行かねーか?
違えよ、別に怖いとかじゃなくて、塾に間に合わなくなるからだってば。
なんだよ、やけに突っかかるな……。
いいだろ、俺がチャリで通学しようが、歩いて塾に行こうが、俺の勝手だ。
うるせえなあ。チャリはこの前、壊れたんだよ。
小遣いが少ねーから直せてねーの。悪いかよ。
なんで壊れたかって……、どうでもいいだろ、そんなこと。
ちょっとぶつかっちまっただけだよ。
カゴが曲がって、ハンドルも曲がって、ブレーキが効かないから、乗れねーの。
……っ、だから! ぶつかっただけだってば!
ああもう、俺はもう行くからな。
ったく、チャリが使えないからあっちこっち歩いて移動してばっかで疲れてんだから、余計な時間とらせんなよな。
あれ? っていうか、お前、誰だっけ?
同じクラス? あー、そういやいたっけか?
まあいいや。じゃあ俺、もう行くから。
え? ……ああ、まあ、うん。交差点には気を付けるよ。
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