ウィルビウス〜元勇者パーティに拾われて裏ボス兼勇者に至った私と、元凶である悪役令嬢の元彼女を含めた絶対破壊の交響曲!?
奈歩梨
第0話 〜始まり〜
「………………」
葬儀が粛々と行われる中、私は母の骨が入った骨壷の前で呆然と立ち尽くしていた。
自然と涙は出ない、いや…心が目の前の現実を否定しているだけか…。
「…本日は母の為にありがとうございます…」
元々父が亡くなってから親戚付き合い等無かった身であるのもあるが、私には現実世界に於いて友人と呼べる人物は差程存在しない。
小学校に上がる前に今住む土地に越して来たが当時は周りよりも頭一つ分身長も高く、力も強かった私は元からこの地に住んでいる同学年の生徒からは化け物扱いされていたし、担任の教師も虐めていた側ではなく私の方に問題があるとばかりの態度で父親も母親も憤っていたのを今でも思い出す。
それ故に、私は他人が怖い。無論長い人生だ、男女問わず親しい存在も何人か作れはしたが母の看病や健康の為に軽い運動を行う為に時間を取られる余り、自分自身の時間を作るのも難しくなり今、葬儀には母の昔からの友人数名が居るのみである。
「良いのよ、お母さんとはゆーくんが産まれる前からの仲だったし……ゆーくんも今は辛いかもしれないけど気を落とさないで…ね?」
哀しみで声を震わせながらも此方を気遣ってくれている何回か電話越しで話した事のあるおば様に会釈をした後、私は外の空気を吸う為に外に出る事にする。
…友人といえど赤の他人が泣けて、息子である私が泣けない事に居た堪れない気持ちを誤魔化したいからだ。
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「……はぁ…」
葬儀会場から少し離れた並木道、蝉時雨がまるで私を詰るように感じるのは、私自身の性格が歪んでいるからだろうか。
「…これで…本当にひとりぼっち、だな」
元々リアルでの友人とは疎遠になっており、今普通にコミュニケーションを取れているのは昔からの趣味で長くプレイしていたゲーム内で知り合い、たまにLINE等でやり取りをしている数名の友人のみ。…これを友人と呼ぶのか否かも定かではないが…それでも、独りになった私にとっては唯一残された繋がりではあるが。
「…久しぶりに、あの子に電話を掛けようか…」
母が病に侵されてからは趣味よりも母の看病に加え自宅内でのデスクワーク、自分自身の体調管理の為に週2回、1時間程のトレーニングをするだけの毎日だった。
「……こんな事なら自衛官を辞めるべきでは無かったかな?」
誰に相槌を打たれる訳でも、誰に聞かせるでもない独り言を呟き力無く笑いながら頬を伝う水滴に今更ながら気付く。
(なんだ…泣けるじゃないか…。)
昔の事を思い出せば思い出す程、蘇るのは両親とペット、そして齢32に至る迄親友と呼べる存在以外に交際してきた女性達を思い出す。
「……ひとりぼっち、か…」
自慢でも自虐でも無いが、私の人生は半ば私では無い他者に捧げてきたようなものだ。
確かに、32年も生きれば楽しいと思ったり、笑ったり、怒ったり、哀しんだり……人として喜怒哀楽に満ちた人生は歩んで来た。
それでも、一番重要な局面に於いて私は“他者”を優先させて生きてきてしまった。
「……………やめよう、今言っても仕方ない事だ…何より…」
何より、他ならぬ“私”がその選択をし続けてきてしまったのだから。
ふと、それまで足元ばかりを見ていた視線を上げると交差点に迄歩いてきてしまっていた事に気付く。
視界には4、5歳くらいの女児を連れた母親らしき女性が青信号になったのを確認した後此方にやって来る。
(引き返そうか………ッ!?)
踵を返して元来た道を戻ろうとした矢先、猛スピードで赤信号にも拘らず突っ切ろうとしてくる大型トラック。
(間に合え…ッ!)
このままではぶつかる、そう判断した刹那、私の身は踵を返す事無く、母娘を突き飛ばしていた。
最期に、私が長年生きた“この世界での”光景は、尻餅を付いたのか泣きじゃくる少女と、いたるところから骨を剥き出しにし、我ながら即死しなかっただけ上等だと思える程出血している私に対し涙を流し謝罪している母親であった。
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「あーあ、死んじゃったかぁ…」
暫くして仰向けになって眼を瞑っている私の頭上で、可愛らしい声がなんともなげに呟く声が聞こえる……声の質からして女性…だろうか?
「あったり〜、というかおじさん口上手いねー?」
おじっ!?…というか私は唇を動かした覚えは無いのだが…、眼を開けて、上体を起こすと目の前には余り現代社会では見ないような…そう、たまにLINE等で送られてくるファンタジーな世界で通用しそうな衣類を身に纏い、腰まで伸びた銀髪の美女が屈託の無い笑みを浮かべていた。
「あはは、美女だなんて照れちゃうなぁ〜……あ、予め言っておくけど此処ではアタシがルールだから心を読むなんてよゆーよゆー。…で、早速本題なんだけどさぁ?」
読心術を使えるのか、…何故か有り得ない、と笑い飛ばす事の出来ない存在感と彼女の青空のように澄み切った瞳を見れば不思議と納得してしまえる。
私は、本題とやらに耳を傾ける為に一言も唇を動かす事無く彼女を見つめる。
「…んー、実はさ、君が助けた母娘さ?本当はあの日、あのトラックに轢かれる筈だったんだよね、運命力ってやつで」
…運命力?
「そ、運命力。すっごく簡単に言っちゃえば死ぬような大事故に巻き込まれても死なない人は死なないし、逆に死ぬ人はお餅を食べてて喉を詰まらせて死んじゃうようなアレよ、アレ」
なるほど、何となくニュアンスではあるが理解出来た。…と、言う事は私は本来死に行く存在の未来を捻じ曲げてしまったのか。
「まぁ、そうなっちゃうよね。因みに君は未だ死ぬ予定ではなかった訳」
…なるほど。
「うん、…あ、でもだからこそ君はアタシに逢えたというか…アタシとしても君みたいな子なら任せられるというか〜…」
…?
途中から口篭る彼女に思わず小首を傾げる、任せられるとは一体どういう意味だろうか。そもそも私は半ば運命力と呼ばれる本来不可侵である力に干渉したならば、神の罰というものを受けるべきなのではないのだろうか?
「あー……んー、だからさ?君に今まで生きてきた記憶と幾つかの特典をあげるから転生してみない?ってハ ナ シ ♡」
…逃げたな、私は思わず毒づいてしまうがこの流れは何となくだが理解出来た。
「あははは〜、ま、まぁそこは置いといて。そ、君の予想通り異世界転生だよ?ぜーいんしゅーごーー♡」
……全員集合って言っても誰も居ませんやん。
「「申し訳ありません、お待たせしました」」
って、来るんかーいっ
影の中から現れた紅い髪と白い髪をそれぞれ左右非対称に隠したメイド風の少女達に思わず突っ込む、長い人生を生きてきてファンタジーとは無縁な過ごし方をしてきた一般人である私の頭脳ではオーバーヒートを起こしそうだ……お願いだからもうやめて、私のSAN値はもうゼロよ!?
「もうっ、君はイジり甲斐があるなぁ〜…」
くすくすと笑う女神(仮)に頭が痛くなる…。
「さてさてさーて?転生する為の準備は出来たから後は君のサインで完了だよ、おちびさん?」
おちびさん?…っ!
最初から気付くべきだったのだが、どうやら私は徐々にだが身体が縮む…否、若返っているようだ。
「流石にあれだけ激しく骨とか臓器とかグチャグチャになっていたんじゃアタシとしてもすこーし話し難いからさー、ちょっと若返らせちゃいました!」
てへぺろっ♡と、舌を出す駄女神に思わずイラつきを覚えるが同時に気遣いにも感謝しつつ、紅葉のような手で紅髪のメイド風の少女から羽根ペンを受け取り名を書く。
「…金剛 悠希、と…贅沢な名前だねぇ、今日から君の名前はユウキだよ、分かったら返事をするんだ!」
やかましいよっ
何処かで聞いたようなセリフを聞き、この短時間でツッコミを入れるがふと書類を見ていると空白部分であった欄に次々と文字が浮かび上がってくる。
名 ユウキ
独自能力 極限突破
ジョブ 幼児
武術適正 ALL
魔法適正 ALL
筋力 E
俊敏 E
防御 E
魔力 E
最大魔力許容量 測定不能
所有スキル
なし
「おーー、結構レアスキルじゃん?でも最初は苦労するかもねぇ…取り敢えず、2つ目の特典として欲しいものがあるなら言ってみてよ?出来る限り都合はするからさ?」
ふむ、どうやらこの独自能力というのは彼女の言うところの幾つかの特典の一つらしい。
(特典…特典か……待てよ…?)
一瞬、元の世界の事を思い浮かべる…私があの地から離れてしまった時、誰が父と母の墓参りをするのだろう、と。
墓の管理もあるが、無論長い事過ごして来た土地だ、嫌な記憶の方が多いが全く良い事が無い訳でも無い…出来れば定期的には帰れないのだろうか…?
「うーん…残念だけど今の君は君達人間が言う所の霊体に酷く近い存在でね、魂が身体の記憶を覚えていてもあちらの世界では既に肉体的には死んでいる身なんだ。だから君は何方にせよ彼処の世界では物理的な干渉は出来ないよ。…この能力も、或る意味皮肉だよね。」
皮肉?と首を傾げ書類をしげしげと見つめていると所有スキルの欄に『鑑定眼』という一文が浮かび、次いで独自能力の詳細が記される。
独自能力 極限突破
肉体的・精神的問わず“枷”を破壊する力。
具体的に現すなら枷が存在しない以上逆説的に通常ならば習得不可能な古代魔法を習得出来たり、超高等技術の武術等を “努力次第“で習得可能とする能力。
但し、人によって生まれついての得手不得手は勿論存在する為、習得速度には個体差はある。
………なんだ、このリアルサ〇ヤ人は。
思わずツッコミを入れずにはいられない、要するにどんなに身体や魔力?を、鍛えても底は見えないし、底が見えない以上仮にこれがゲームだとしたら能力値がカンストしないという事ではないか。
「あー、言い得て妙だね。でもそこに辿り着く迄が大変だし、最近の子って 友情・努力・勝利なんてあまり好まないじゃん?特に努力とか。だから基本的には需要ないかもー」
けらけらと笑う女神様、……だけど、と私を見つめながら続ける。
「ま、君には御誂(おあつら)え向きの能力じゃないかな、…見ず知らずの母娘を助ける程、最後の最後で君は“君自身の内に燻り続けた願い“の為に動けたんだから、ね?ヒーローさん?」
…昔の夢まで言い当てられてしまうとは…女神は何でもお見通し、か。
小さくなり過ぎた肩を竦めてみせるが、私に残された時間が差程残されていない事に本能的に察すると心の中で二つだけ願いを告げた後、漸く気付いたが何も無い白い空間の中で幾つか存在する開かれた門の中から光が指す扉へと歩く。
「…うん、解った。ちゃんと叶えるよ。……またね」
背後から聞こえた声に何も答える事が出来ないまま、私はこれから生きて行く世界へと堕ちて行くのであった。
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「行っちゃったね〜」
金剛 悠希 改め、ユウキが旅立っていった扉を一瞥しながら何処からともなくスマートフォンを取り出す主に紅と白の双子のメイドは肩を竦める。
「「よろしかったので?姉様」」
綺麗に重なる声に主である女神は小さく頷く。
「良いの良いの、それより“ユウくん“のお願いちゃんと聞いてあげてねー」
「「……承りました」」
主に恭しく一礼をした後双子のメイドは各々別々の扉に手を掛け潜って行く。
「………どんな時でも身内や他人を気遣うユウくんだから、アタシはLINE交換したんだけどなー…」
まるで長年親しんだ友人が逝ったのを悔やむように、悲しげに呟く独り言、腰まで伸びた銀髪は何かの魔法か黒髪へと変わり顔立ちも少し大人びたものへと変わる。
「………さてと、悲しむのはおしまい。ちゃんとユウくんのお母さん達のお墓参りとアカウント管理してあげないとね!」
それでも金剛 悠希の友人である彼女は再会を約束した彼との約束を護る為、今自分に出来る事を果たしに行くのであった。
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