3話・コミュ障が催眠で治るわけがない
3話・1
翌日の1限終わりの休み時間。
窓際の俺の席に座ったキョージンは、窓に背中をつけ、日光を背負いながら重々しげに手を組み目をつむっていた。
おれと
しかし呼んでおいてなかなか話し始めない。
おれはいいけど……友だちの多い阿南は忙しいだろうし、早く用件を終わらせたい。
「……俺たちはすごいカードを手に入れたわけだが」
やっと目を開けたかと思うと、キョージンは惚けるようになにもない宙を見つめた。もったいぶった挙句に、よくわからないことを言い始めたな……。
「それはっ……神多くんの催眠術のことだね!?」
「そうだ」
って通じているんかい。
キョージンはうれしそうにうなずくと、身を前に乗り出し、いつもの調子に戻った。
「にっちゃん、がっつりかかってたよね!」
「うん。びっくりしたー!」
「え。阿南さん、あれマジでやってなかったの?」
「それかけた人が言うんだ!? やってないよ!」
ついでに聞いたら思い出したのか、阿南が真っ赤になって抗議した。
若干涙目になっていて、おれのせいだけどちょっと不憫。
キョージンはもったいぶるようにして、おれから阿南へとゆっくり視線を移した。
「なあ、これってすごいことだぞ。高校生催眠術師って聞いたことないし、うまくいくとマネタイズもできると思う」
「まね、たいず?」
「そうよにっちゃん。だけど神ちゃんはひとりじゃやらないだろうし、俺たちがプロデュースする必要がある。億万長者になったらGUE◯SのTシャツを着てBALENCI◯Aのキャップをかぶり、ハワイでゴルフでもしようじゃないか!」
出たよ、キョージンの狂人っぷり。しかも思考と志向と嗜好がおっさんすぎる。
JKにはヴィトンの財布とかのほうがわかりやすいだろ。阿南キョトンとしてるじゃん……。
まったく、こいつはなにかあればすぐビジネスに結びつけたがる。
そしてなにかをはじめてうまくいった試しがないのも、おれは知っているぞ。
大きなものだと中3のとき。
小・中学生の15秒動画アイドルプロジェクトを立ち上げて
メンバーはこの高校にはいないから良かったものの、いまだに当時のアイドルと街でエンカウントしそうになったら逃げ隠れしていると聞く。
一度人に慣れてしまった動物は、野生で生きられないんだよ……。
というか。
「おれは誰からも金を取る気はない。それに催眠術も信じてないし」
「いや、昨日かけたじゃん! で、かかったじゃん!?」
キョージンが目をひんむかんがばかりに大きく広げ、おれと阿南を力強く指差す。
「でもおれたちはかかってないし」
「ぐ……。そうなんだよなぁ……」
キョージンは腕組みをし、頭を後ろに投げ出した。
おれたちはなぜ、彼の喉仏を見せられているんだろう。
「なんか、ごめん……」
「あはは。キョーくん久しぶりに話すけど、相変わらず変わってるね〜」
「変わってるね」で許してくれるこの子、どれだけ人ができているの。陽キャは心に余裕がありすぎ。
阿南の顔をまじまじと見ながらそんなことを思っていると、
「……よし。マネタイズ化の前に、もっと事例を増やすしかないか」
と、真面目な顔をしながらキョージンが頭を戻した。
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