『ダン・ウィッチ卿のおぞましき手紙より』~深淵の空から這い出てくるモノ~②
年配の刑事が言った。
「撮影した雑貨店の主人が言っていましたよ……古いカメラを置いた場所を忘れて、探していたらダン・ウィッチ卿が『店の一番高い棚の奥に置いてある木箱の中に入っている』と……言われた通りに探してみたら本当に置いてあったので、店主はゾッとしたと」
「わたしに見せたかったモノは、この写真ですか?」
「いいえ、ある防犯カメラの映像です」
刑事は、移動式台の上に乗っているテレビを台ごと近くに移動させてきて、わたしにある映像を見せた。
映像はモノクロで、深夜にどこかの図書館に設置された防犯カメラの映像のようだった。
刑事が言った。
「この町にある大学図書館の、深夜二時ごろに撮影された映像です」
やがて、書籍棚が並ぶ通路の画面左側から、照らすライトの明かりが現れ。
ライトを持った一人の男が現れた。
暗闇の中から現れた男はダン・ウィッチだった。
画像に食い入って見ているわたしに、刑事が低い声で言った。
「ここからです、よく見ていてください」
何かを探しているように進むダン・ウィッチの後方から少し離れて、奇妙なモノが現れた。
それは、床から1メートルほどの高さに浮かんでいた。
モノクロの映像だったので、実際はどんな色をしているのかはわからなかった。
それは、円錐形の胴体をしていて。
大小の球体が胴体に付いている奇妙なモノだった。
半透明で内臓のようなモノが詰まった球体の中で、一番大きな球体は眼球だった、神経や血管のようなモノで円錐形の胴体に繋がっていたが。
あの細い血管や神経と眼球筋だけで、よく胴体から外れて落ちないものだと不思議だった。
浮かぶ怪物胴体の下部には、ブドウ粒のように取り巻く半透明な球体があり。
魚のヒレに似た、スクリューかプロペラ型の部位が胴体の一番下でクルクル回転していて、浮遊する怪物の推進力になっているようだった。
この世の生物とは思えない怪物の体から、伸びた触手が蠢いているのが、さらに不気味だった。
ダン・ウィッチと怪物が左から右へと移動して見えなくなると、画面の右側から数冊の書籍が床に投げ捨てられるのが見えて、急ぎ足でその場から逃げるように右から左にダン・ウィッチが走り去っていった。
ダン・ウィッチの手には、手帳のようなモノが握られていた。
ダン・ウィッチが走り去って数秒後に、浮かぶ怪物も右から左に移動して。
途中、防犯カメラを威嚇するように中央の一つ目眼球をカメラの方に向けると、突然画像が砂のノイズに包まれて途切れた。
映像を見終わって少し震えている、わたしに刑事が言った。
「どう思います……あの怪物が何かわかりますか?」
わたしは、以前読んだこの地域に伝わる文献に怪物の容貌とよく似た存在が記されていたコトを思い出して、年配の刑事に伝えた。
「この地の先住民族の伝承に残る、古代の禍々しいモノに似ています……確か『深淵の空から這い出てくるモノ』とか『深淵から覗くモノ』と呼ばれて畏怖されていた存在です……それ以外は、もう少し家の書籍で調べ直してみないと」
わたしは、記憶の断片から『深淵の空から這い出てくるモノ』は、海から精製した塩を嫌い。
出現する時は、香水のムスクのような芳香が漂うと伝えた。
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