二十話 二人の会話

「聞きたいことがあるんだけど」


 倫が眠った直後、リアンはそう切り出した。無論、相手はアルフェだ。


「何かな」


 変わらず微笑みを湛えたその顔を、リアンは見つめる。


「もし、倫がこの後……旅の途中で巡礼祭を辞退したいと言ったら、帰らせてくれる?」

「彼がそう言ったの?」

「言ってない。そう思うようなことになったらって話」


 アルフェは指先で口元を撫で、少しだけ考えるような素振りを見せた。


「……ボク個人としては、彼の意思を尊重したい。だから、彼が帰りたいと言うのなら、ボクはそうさせてあげようと思うよ」

「……そう」


 それだけ言って、リアンは沈黙した。アルフェは首を傾げて、不思議そうに問いかける。


「それが、彼を眠らせてまで聞きたかったこと?」

「起きてたらこんな話、できないだろうし。そんなこと思うわけ無いって、うるさく言うに決まってる……それに、充分に眠れていなさそうだったし……」

「……ふふ……なるほどね、よくわかったよ。キミは彼のことがよっぽど心配なんだね」

「べつに……」


 リアンは目を逸らして軍帽を目深に被る。そうすると、自然にアルフェはリアンの軍帽に目が行く。


「そうだ、その帽子」

「……何?」

「軍の記章がついてるでしょ。被ったままでいるつもり?」

「何か問題ある?」

「今回のボクらの行動はあまり公にしたくない。それに、軍としての任務とは種類が違うからね」

「……あたし、帽子はこれしか持ってきてないし、外では脱ぎたくない」

「じゃあ、ちょっと貸してくれる?」


 リアンが軍帽を脱いで、アルフェに渡す。アルフェは受け取った軍帽の記章に触れて、術を使用した。


「何してるの?」

「記章を別のものに変えたんだよ、はい」


 返された軍帽の記章は、たしかに別のものに変わっていた。リアンはその新たな記章を凝視している。


「どうかした?記章以外は変えてないよ」

「いや……そんなに変わらないと思って」

「え?そう……かな。でも、玄の国の軍だとはわからないでしょ?」

「そうだね」


 受け取った軍帽を被り直したところで、リアンの腹が鳴った。


「…………」


 リアンは何も言わずそっとアルフェから目を逸らした。アルフェはそんなリアンの様子に少し笑った。


「あ、そうだ。リアンはよく食べる子だって聞いていたから、食料は積めるだけ積んでおいたんだよ」

「…………」

「まだ早いけど……お昼ご飯、先に食べようか」


 リアンは素直にうなずいた。

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