第94話 マリーへ

そんな悲しい顔をしないで、マリー。

お願いよ。


私もこんな所で死ぬつもりなんてなかったけど、一応納得してるの。


ああ、欲張り過ぎたなって。

マリーの力を借りてもっと高みへと望み過ぎたみたい。


初めから分かってたわ。

自分の力だけではここまでやってこられなかったって。


初めて訓練中の騎士を完全治癒をしたのは十二歳の頃だったわね。


最初は本当に、止血だけでもできたなら・・・って本気で思っていたの。

騎士の怪我は思いのほか酷く、止血できるかさえも自信がなかったけど。


だけどマリーが加わった時だった。

マリーの方から温かい気が私の体に流れ込んできたわ。

それが激流となって、私の聖力をぐいぐいと引っ張りながら、手のひらから放出されていったの。

すると私の聖力ではあり得ないほど、みるみるうちに騎士の怪我を治していったわ。


全身の力が持って行かれるような感覚と同時に感じる確かな手応え。

ああ、私が完全治癒をやって見せた!と嬉しくなったの。

そしてそれが私の力だと思い違いをしていくようになっていった・・・。


マリーがいなくちゃ完全治癒を成功させたことなんて一度もないのに。

笑っちゃうわよね。


マリーの力を私の力だと思い込むようになると、私の願望はどんどん膨らんでいった。


もっと国のために役に立ちたい。

もっと民に感謝されたい。

もっとこの国の歴史に残る王女となりたい。


いつしかそんなことを夢見るようになっていった。

そしてその夢は、マリーと一緒に行動するだけで現実のものとなっていったわ。

何度も完全治癒を成し遂げ、『ナディールの大聖女』と呼ばれるようになって、民には感謝されて、勲章も授与された。


おかげで私の人生、短かったけどとても充実していたわ。


でもね、どうか誤解しないで欲しいの。

私の夢を叶えたいがためにマリーのことを手放したくない訳じゃなかったわ。


マリーのこと、大好きなの。

ちょっと泣き虫で、

私に振り回されながらも付き合ってくれて、

私のやりたいことを理解してくれて。

本当に楽しかったわ。

貴女との付き合いは、見栄や外聞、虚勢や、腹の探り合いなど気にしたりしない、本当の姿を晒すことができた。

だからずっと一緒にいて欲しいって心から思っていたわ。


私も母上に連れられてお茶会に参加して社交をする年頃なると、たくさんのご令嬢と交友関係を築くようになった。


だけど流行やお洒落、男性の話ばかりでつまらなかったの。

一応話を合わせられるように世間のことは勉強していたけど、あまり楽しくはなかった。


それに殆どのご令嬢は、私に媚びるか、もしくは対抗心を燃やして自慢や嫌味を言ってくるか。


そんな人ばかりだったから、私はマリーさえいれば他に友達なんていらないって思うようにもなっていった。

だからマリー、貴女に謝りたいの。


貴女を利用してごめんなさい。

貴女に依存してごめんなさい。

貴女を縛ってごめんなさい。


死ぬ前に己の過ちに気が付いて、ごめんなさいって伝えればよかった。

今となっては遅いけど私の後悔はそれだけ。


正直言えば、もう少し生きていたかったのが本音だけど、私らしい私のやりたいことをやった人生だったと思う。


そんな人生を送らせてくれた貴女には心から感謝してる。


貴女に出会えて良かった。

幸せな人生をありがとう。


遠く離れてしまったけど、貴女のことはずっと見守っているわ。

だからあなたも幸せになってちょうだい。


私とはできなかったことをたくさん経験してちょうだい。そしていつか貴女が歳をとり、寿命を迎えてこちら側に来たときには、たくさん話を聞かせて。

楽しみに待ってるわ。


だからマリー、もう泣かないで。

今までありがとう。

愛してるわ・・・マリー。

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