後日談 AD10XX年 KMS社

 科学者達にとって非人道的だとか人類への冒涜だとかいった感覚は全くなかった。むしろ全身全霊を掛けて現存するあらゆる生命、過去の生命の痕跡や伝説、果ては精霊の力や魔導の力など怪しげな要素の悉くを探し求め、人類の遺伝子に組み込むことを摸索してきた。

 「ネクスト・ステージ・プロジェクト」と銘打たれたそのプロジェクトチームでは、膨大な予算を投じ見込みのある赤子を集め、遺伝子操作を行い現人類の進化を強制的に進めることを目指していた。

 

 「結局あの石は何なのだろうか?表面には明らかに人為的な模様があり、スキャンしてみると内部構造は我々の心臓にも似た逆流を防止する機構等も見られた。」

 「しかし心臓だけが化石になるとは考えにくい。おまけに遺伝子配列を分析してみたが、この世の中の遺伝子とはそもそも構成物質が異なっているようでうまく抽出できない。かつて完全に滅びた独自の進化を遂げた種だったのか。それとも他の星から流れてきたものなのか。」

 「試料を作るために削ったところが翌日には修復されていたので、その再生力だけでも何かに生かせたら良いのだが。」

 日夜議論しながら、科学者達「この石が持つ要素」をどのように人類の遺伝子に組み込むかを協議した。だが遺伝子らしきものを抽出できない以上活用の仕方が難しく、せいぜい表面の模様について古い文献をあたることが提案されたにとどまった。

 その石の分析・活用は優先順位を下げられ、やがて忘れ去られ、こっそりとコレクター向けに処分されるに至った。

 

 石にとっては自分と意思疎通を図ることもできず、謎の光を当てたり削ろうとしてくる連中は本当にいい迷惑だったので、再びの静寂を堪能した。


それから10年以上の月日が経った。

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