あるホテルマンの告白
山本清流
テレビが勝手に……
これは、わたくしが地方の高級ホテルに勤めていたときの話です。そのホテルには怪異について悪い噂はございませんでしたが、上司や同僚が話していたところによると、過去に3度、自殺があったそうでした。205号室、405号室、1023号室です。しかし、わたくしが、奇妙な出来事に遭遇したのは、一度切りでございました。
その晩、わたくしは、同僚2人とともに夜勤をしておりました。夜も遅くなり、午前0時を過ぎようかというころ、ひとりのお客様がやってまいりました。予約はしていないが、部屋は開いていないか。そう、わたくしにおっしゃるのでした。空室がございましたので、カードキーを渡しまして、荷物を預かり、部屋のほうへご案内いたしました。
そのお客様が部屋に入られてから10分もしないころでした。フロントのほうにお客様から電話が入り、「部屋を交換してくれないか」というのです。お気に召さないことがございましたでしょうか、とお聞きしますと、「テレビが勝手につくんだ」とおっしゃるのです。「そのうえ、画面はずっと砂嵐なんだ」と。
わたくしは部屋のほうまで向かいまして、テレビの状態を確認いたしまして、深く謝罪申し上げました。テレビが砂嵐の状態で、しかも、リモコンやテレビ本体の電源ボタンを押しても反応しない状態でございました。幸い、お客様はそれほど気分を害されている様子はございませんでした。わたくしは、べつの部屋を用意しまして、お客様をそちらにご案内いたしました。
それからまた10分も経たずのことでした。フロントのほうにお客様から電話が入り、「こちらの部屋は大丈夫なようだ」ということでした。そのときになりまして、わたくしは、そのホテルに自殺者が出た部屋があるのを思いだしておりました。205号室、405号室、1023号室です。そのときのお客様に代わりにご案内したお部屋が1023号室でございました。
不意を突くようで申し訳ございませんが、その夜、1023号室に泊まられた、そのお客様は失踪されました。いま現在も行方はわかっておりません。
わたくしは考えたのですが、そのお客様は1023号室に呼ばれたのではないでしょうか。べつの部屋で怪異に遭遇し、その影響で、部屋を変えることになったのでございます。その結果、1023号室に辿りつきました。まるで、1023号室に連れさられていったようでしょう?
その日、そのホテルには、お客様が最初に入られた部屋と、1023号室だけが空室の状態でございました。お客様からの苦情がありましたときには、代わりの部屋として、1023号室しかなかったのでございます。
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