奇妙な日記

山本清流

 人形の冒険

 小さいころ、わたしは、人形が大好きだった。誕生日とかクリスマスのプレゼントとか、お年玉の使い道とか、全部、人形だった。そのときに集めていた、たくさんの人形が、いまも、わたしの部屋の棚に飾られている。


 昨日の夕方のことなの。仕事から帰ってきて、真っ先に自室に行って、ベッドに寝ころがった。いつもみたいに、ユーチューブで、楽しい動画でも見ようかなと思っていたとき。部屋に入ってすぐのところにある、わたしの人形たちが並んでいる棚から、ひとつ人形がなくなっていることに気づいた。


 それは、小さいころのクリスマスにママからもらった騎士の人形だった。てのひらに載るサイズのプラスチック製の人形で、とてもかわいらしくて、勇敢そうな人形だった。その人形は全部で三つあったのだけど、ふたつは残っていて、ひとつだけ、なくなっていた。


 あれ、どこに行っちゃったの、って、わたしは心配になって、棚の奥や、ベッドの下とか、部屋の中を隈なく捜した。小さいころにもらった人形はどれも、いまでも、わたしの宝物だった。棚に飾ってある人形を見るだけで、心が落ち着いたりするくらいだった。だからこそ、一生懸命に捜したんだけど、見つからなかった。


 はあ、って溜息を吐きながらベッドに腰を下ろしたとき、わたしは、さらにもうひとつ、不思議なことに気づいた。ふたつ残っている騎士の人形は、いつも棚の三段目に載っていたけれど、なぜか、そのときは棚の五段目に載っていた。


 おかしい。誰かが移動させたのかな、と思って、わたしは、ママに、「わたしの部屋に勝手に入った?」って聞きに行ったけど、「入ってないわ」と言う。


 わたしは、不審に思いながらも、ふたつの騎士の人形を棚の三段目に戻して、夕食を終えたあとに寝た。何時ごろか、わからないけど、夜中に目が覚めた。薄く目を開けたときのこと。


 ふたつの騎士の人形が、窓枠の上にいた。なんで? わたしは、起き上がって、それらを元の場所に戻そうとしたけど、その前に気づいた。そのふたつの人形は、動いていた。生きているみたいに。しかも、しゃべってるじゃない! わたしは、寝るふりをしながら、その様子を盗み見ることにした。


「あっちの方向で間違いないな」「ああ、あっちに連れ去られたはずだ」「よし、救出しにいこう」ふたつの騎士の人形はそんなふうにしゃべっていた。そして、窓を開けると、ふたりとも、窓の向こうへ飛び出していった。


 わたしは夢でも見たんじゃないかということにして、寝ることにした。翌朝、起きてみると、びっくり。わたしの部屋にある棚の三段目には、いつも通りに三つの騎士の人形が並んでいた。


 もしかしたら、ふたつの騎士の人形が、もうひとつの騎士の人形を救出してきたのかもしれない。ふたつの騎士の人形は、戦いのあとみたいに、全身に切り傷を負っていた。


 どんな冒険をしたんだろう?

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