9-25 北へ
9-25 北へ
まず一番最初に旅立ったのは艶さんチームだ。
護衛としてフェ老師と華芽姫が付いている。
こちらは飛行型の魔動車で移動なので動きが速い。
特に荷物もないしね。
次はサリアたち王国チーム。
こちらは王家仕様の高級魔動車とそれに引かれる空間拡張型のコンテナに兵士を搭乗させての移動だ。
乗ってしまえばあとは手間がないのでこれも早かった。
王国の兵士たちが国に帰りたがっていたのでそれも準備に拍車がかかった理由である。
緊急時のために一応スケアクロウマンが付いているがキルール老師やクレオもいるし戦闘力はかなり高い。
ビアンカ母さんは大喜び。かなりフリーダムな人だな。
一番時間がかかったのはやはり伯爵家の軍隊。
こちらは集団行動なので仕方がない。
なので俺は挨拶をして先に出ることにする。
「ディアよ、気を付けるのだぞ…」
爺さん伯爵は相手が邪神だというのが分かりかなり心配しているようだった。ただ邪神というのも半信半疑ではあるようだ。
なんといっても邪神というのは出現例が少ない。
ここの所何回か出たがどういうわけかみんな王国だったからね。帝国にしてみれば対岸の火事なんだろう。
ただ、その火事がなかったせいで帝国は現在危機的状況にある。ということが分かっていない。
委員会の連中が王国内部でいろいろと破壊工作をしていたのはもはや周知の事実だ。
何で復讐の第一目標である帝国を標的にしなかったかということだけど、たぶん実験的なことがしたかったんだと思う。
遠い他国でやばい実験をするようなものだ。
それに実働部隊も帝国の戦力だからその方がやりやすかったのだろう。
だがそれが塞翁が馬。
現在本格的に逢魔時が始まったことで、連絡が取りずらくなっているのだけれどメイヤ様から世界の
いつもなら夢の中で直接話ができるのに迂遠だなと思う。
フラグメントはあの世界とつながっているのであそこで会えないか? と思ったのだが、ダメらしい。
これは後で分かったことなのだが、存在の大きさの問題だった。
真正の神であるメイヤ様。
それを小さな俺の世界に呼ぶ。
たとえるなら太陽系の中に銀河系を押し込めるようなものだ。太陽系の方が消滅してしまう。
つまりこの場合俺がね、
ダメだね。
なのでお手紙なのだが王国方面は現在世界の歪みがかなり解消されていて、状況が安定しているということだった。
皮肉な話だが、委員会が王国内にあった歪みを利用していろいろ悪だくみをして、それを俺が修正していたので大きな歪みがなくなっているのが原因らしい。
なので今回の逢魔時に関していえば王国内で大きな問題が発生することはないだろう。ということだった。
であればこちらに集中できる。ということ。
一応爺さん伯爵から北方にある砦や領主にあてた手紙をもらって、大規模な魔物の氾濫に対する警告を行うつもりで…
「ああ、もう手遅れじゃん」
幸いだったのが帝国は北の天翼族とずっと争っていたということ。
いつでも戦えるように準備を怠っていなかったのだ。
結構砦とかあって、しかも相手が空を飛べる天翼族というので対空兵装も結構ある。
なので北の端にある砦は魔物相手に善戦していて、おかげで魔物の南下が抑えられている。
「さて、少し援護するかね」
かなりうまく戦っているから殲滅を手伝えば持ちこたえるだろう。
俺は左手のアルケミック・マギ・イクを起動させてガトリングガンにする。心地よい金属音が響き、ついで轟音が周囲を席巻した。
◇・◇・◇・◇
「援護を感謝します。小管はこの砦を預かるタラント男爵であります」
タラント男爵というのは貴族というより軍人然とした人物で、いきなり空からやって来た俺にも丁寧に対応してくれた。
帝国なので当然怪しいやつめ! とか言い出すあほもいたんだけど、そういうのは一喝して抑えてくれた。
「やめんかバカ者。魔物の大群に手を焼いていた我々が、それを殲滅してみせたこの方に戦いを挑んで勝てるわけがないであろうが!」
とか言って。
うんうん、俺も全くそう思うね。
なのに同じ人間だとみると途端に偉そうになるのはどういうことなんだろうね?
どんな思考回路をしているんだか、実に不思議だ。
でもこのタラント男爵という人はかなり現実的な人みたいで、俺と争うつもりはないらしい。
俺としてもその方が助かる。
一応『教国の方から来たものです』と自己紹介しました。
「おお、なるほど、勇者さまでしたか」
はい、納得していただけました。
古い言い回しで地球ではネタバレもいいとこなんだけど、この世界の人はそういう意味では擦れてないからね。
「帝国の勇者さまたちがここから北に向かったと聞いたんですが、この状況です。何かあったのではと心配しております。
何かご存じのことはありませんか?」
「申し訳ありません、軍の行動に関しましては勇者さまと言えども詳細をお教えするわけには…」
ふむ、尤も。
さてどうしようかと考えていたら。
「しかし勇者さまが連れ立って北に向かったのは事実です。
詳しいことは知りませんが、新しい迷宮が発見されたという話はご存じだと思うのですが、そこでしばらく訓練をすると。
悠長な話です。
訓練しつつまったり戦争をするつもりの様でした」
軍の編成とか、人数とかは話してないから確かに機密は漏らしていない。新しい迷宮に関しても教国の勇者ならば知っていて当然ということなのかな。あとこれは愚痴だ。
だけど怪しいな…
その迷宮。
また変なことしてるんだぞきっと。
「ありがとうございます。魔物の氾濫のこともありますので北に向かって直接確認します。
途中魔物はできるだけ減らしますが、広範囲なのでどれだけ効果があるか…
休めるときに休んでくださいね」
「これはお気遣いをどうも。
勇者さまもどうぞお気をつけて」
こういう話をしていると相手が選民思想で洗脳された人だとは思えない。
だけどこの人だって間違いなく選民思想に染まっていて、他種族を見下してゴミとか奴隷とか思っている。
彼が丁寧に話しているのは俺が上位にいると思っているからだ。
俺は手を振って彼らに別れを告げ、空に飛び立った。にしても…
うーん、悩ましいな…
帝国の思想自体が歪みを作り出しているのは間違いないんだけど…思想を交換するなんてできるはずもなし。
だからと言って帝国が滅んじゃえば? というわけにもいかない。悲惨な人死にがいっぱい出ればそれ自体が歪みになっちゃうし…
《いっそ、全員石化とかいいでありますな。
であとから少しずつもどして混ぜていくであります》
「乾物か!」
ものすごい発想だ。
だができたらすごいぞ。
「方法が思いつかんけど」
「《あはははははははっ》」
モース君と馬鹿ッ話をしつつ北に飛ぶ。
全体としては強い魔物はいないみたいだな。雑魚が沢山という感じ。
ところどころ爆撃しつつ行くか。
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