8-03 神官長の災難
8-03 神官長の災難
「スケルトンが出たー!」
「あそこは穢れた土地です。邪神に侵食されてしまったのです」
「大神官長様、お助けください」
あの三人は自分たちの神殿に戻るなり、神殿の長に泣きついた。
信仰の対象が女神の所為か、冥王教団では女性の地位が高い。
ああ、ちなみにこの話はあとをつけさせた精霊たちが持ち帰ったものだ。
大神官長と呼ばれたのは一言で言うとおばちゃんだった。
身なりのいい、装飾の多い服を着たおばちゃん。普通に太ってます。
実は冥王神殿ということで何度か様子を見に行ったことがあるのだ。
信仰心はある。だが頭が固すぎて神官としてのセンスには欠けている。
そんな感じの人だった。
神官の魔法というのは魔方式を体に刻印することで神の力を借りるというもので、魔法のうではなかなかのようだ。
威力が高いというわけではないが、多くの魔法を適切に使える頭がある。
だが神の声は全く聞こえていない。
ただこれはあまり問題にはならない。
神として祀られているのは上級聖霊や英霊なのだが、これは割と気安く人間とコミュニケーションをよくとる。
もちろん自分の支持者限定だけど神とのコンタクトは結構頻繁にあるのだ。
だが正真正銘の神様。メイヤ様や技能神さまなどになるとコンタクトはなかなか難しく、人間の側にその才能があるものがいないとコンタクト自体が取れない。
冥王神殿でも神託を受けられるような神官は特殊な位置にある数人というところだろう。
なので神官長のおばちゃんが神託を受けられなくても冥王教団では珍しくもないのだ。
《難しい問題でありますな》
『そうだね。神託を受けられるのだけを上に持ってくると人手不足で回らなくなっちゃうし、メイヤ様はそもそも人間のやることはあまり気にしないからね』
傷ついて戻ってくれば優しく受け止めてくれるし、道を誤れば厳しい罰を与えてその行く末に気を配っているのに、生きている人間がやること自体はほとんど気にしない。
俺が地上で活動しているのも放っておくと世界が邪壊思念でまずいことになりそうという状況によるのだ。
なのでこういう状況になる。
それでも神官長のおばさんは教義は守って地道に活動しているので悪い神官ではない。
だがそうもいっていられないのが長の地位だ。
人間は全知全能ではなく、当然にできないことがあり、それは別に悪いことではない。
一般人であれば。
だがそれが、その当たり前のことが許されない立場というのがあるのだ。
それが人の上に立つ者。という立場だ。
リーダーが選択を誤れば多くの犠牲がでる。
それゆえに彼らは結果だけで判断され、間違えるという普通の人間なら流されることも許されることなく報いを受ける。
何らかの形でね。
だから優秀な副官をそろえてブレーンというべきものを作らないといけないのだが…
《どうもこの御仁は人材に恵まれなかったようでありますな》
「自分が神を感じることができなかったから、神の定めたルールということの意味が分からなかったんだろうね…」
ゆえにこういう人材が一つの町のトップになるというのは問題がある。
問題が起こる。
「もし本当にスケルトンがいて神殿で好き勝手をしているというのであれば由々しき事態ですね。
調子がよくなったとか、良い噂ばかり聞きましたが、穢れた魔物がいるとなればそれも怪しいです。
何らかのよくないまやかしの類かもしれません。
一度、調べに行かないといけません。
自分の目で確認しなくては…」
とこんな感じでね。
まあ、これもしばらくは放置だな。獄卒たちに対応させて、おばちゃん神官長の反応を見よう。
■ ■ ■
「おのれスケルトン、皆さん、力を合わせて浄化の魔法です」
その結果がこれだった。
頭が痛い。
曲がりなりにも一つの町の神官の長を務める人間が自分が仕える神の神獣とアンデットの区別もつかないなんて…
やってきた神官は全部で十三人にもなった。
これはたまたまということではなく十三というのが神聖な数字だと考えられているからだ。
つまり中心に一人を置いて、その周りに六芒星を配置する形が作れる人数なのだ。十二人が各頂点を担当するのだ。
全員がメイヤ様の真言を唱え、六芒星と円が完成する。
その中で冥の神聖力が駆け巡り高まっていく。
魔法の実力は悪くない。
俺がうんうんとみていると頭の中で『ジリリリリリッ』という電話の音。黒電話だ。
これどうしろっての?
『はい、もしもし。ディアです』
『あっ、ディアちゃん? メイヤです』
メイヤ様でした。
メイヤ様は現在の状況を見ていたらしい。
そして一つの提案。
『というわけで、どうかな?』
『はい、大変良いと思います』
メイヤ様の提案はとても面白いものだった。提案を受けて電話を切る。
「さあ、皆さん行きますよ」
俺は標的になっている獄卒の後ろに無間獄を立ててあの世とこの世の道をつなぐ。
「受けなさい、聖なる神判!」
非常に高まった冥の神聖力が立っていた獄卒を包む。
「あはははっ、やはり不浄なアンデット。神の力の前で身動きもできんとは」
「その通りね、これが正しい神の力よ」
「おおー、神よ感謝します。不浄なるものを滅ぼしたまえーーー」
神官たち大喜び。
そして神官長のおばちゃんが高らかに宣言する。
「みなさい、魔に魅入られた人間たちよ。これが神の力。
神の力の前ではすべてが
あなたを誑かした不浄な神も、メイヤ様のお力の前で滅び去るに違いありません
オホホホホホッ…ほ?」
ほ? は面白い。
彼らの放った光は獄卒を包み込んだわけだけど、その力が漏れないように俺が場を峻別していることには気が付いていないようだ。
その狭い空間に満ちた神聖力は無間獄の門を開き、あの世から一つの存在を導き出す。
そしてそれは獄卒に重なるようにして人の姿を形成する。
生前と同じ姿。
「そんなまさか…」
おばちゃん神官長はその存在を見て目を見開いた。
「そんな…そんなことがあるの…いえ、これはまやかしだわ。邪神に…」
おばちゃん神官長の中で現実と理性がたたかいをくりひろげて…いたのだがその存在はそういうのをマルッと無視して歩み寄ると…
「こーらカチヤ! なんばしょっとか!!」
持っていた杖をおばちゃん神官長改めカチヤ神官長のどたまに遠慮なく振りおろした。
ご―――ん。という立派な音が響いた。
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