第8章 ちょっと休憩編
8-01 再始動
8-01 再始動
大騒ぎが終わってアウシールに帰還。
邪妖精というか俗にいう邪神なんかが暴れた割には迷宮都市アウシールは通常運転だ。
逢魔が時が始まっているのに特に異常は感じられない。
「こういうのを嵐の前の静けさっていうのかね?」
「何それ?」
俺はといえば縁側でお茶を飲みながらルトナと話をしている。
別に隠居とかはしてないよ。ちょっと息抜き。
近況としてはサリアは学校に行っている。
あそこは基本全寮制なので平日は学校で生活し、週末になると泊まりにやってくるのだ。
王太子のマルディオン王子が帝国との折衝に駆り出されているので結構好き勝手をしている。
ちなみにマルディオン王子を見るにつけ、俺は『庶民でよかったなあ』なんてしみじみ思う。
国の命運を背負って他国と折衝なんてやりたかないよ。
偉い人ってのは大変だね。
《マスターは精霊的にはかなりえらい人なのであります》
いや、そこらへんは依頼の仕事をこなせばいいわけでやっていることは冒険者みたいなものだ。肩がこらないから別によし。
学園の方は迷宮探索などもかなり入ってきていて、サリアのパーティーもよく出かけている。ルトナは護衛に駆り出されてよく一緒に行動をしている。
クレオやフフルもだ。
ルトナやクレオやフフルは学園の護衛依頼とかがない限りは闘滅の剣と一緒に迷宮に冒険にいっている。
ああ、勇者ちゃんたちも一緒だ。
最近実力を伸ばしていて三階層のほうまで足を延ばしているらしい。
フフルがいれば荷物はいくらでも運べるし、フェルトがいれば警戒は万全だろう。
護衛や迷宮探索をメンバーを入れ替えながらやっている感じだ。
ほかにやっていることというと小神殿の孤児院の子供たちの教育がある。
子供たちも向上心が芽生えていろいろなことを学びたがるので教師役が必要なのだ。
読み書きや計算などは俺が教えている。
俺はあまり迷宮などに行かないでこの工房で物作りなどをやっているので結構時間に融通が利くのだ。
一日中ポーション作ったり、剣を作ったりしてても疲れるしね、子供たちと遊ぶのはいい息抜きだ。
武術などはクレオやルトナも教師役をやっているのだが驚いたことにクレオはものすごく教師役に向いていた。
もちろん剣術の先生なんだけど、どうもこの娘、剣に対するセンスがとびぬけて高くて、自分のだけではなく他人の剣すじでも理想が見え、理想との違いが見え、そして的確な言葉を持ってそれを伝える能力があった。
子供たちは着実に剣術を身に着けつつある。
まあ、こういう世界でしかも逢魔時だ。自衛手段があるに越したことはない。
逆にルトナは全くダメだった。
本当に感覚型の天才なんだよね。理屈が苦手。
ルトナに説明させると『ぐっとするとぽわっとするからその時にばっといって、ドンてするの』みたいになる。
わけわからん。
思い起こせば昔からルトナに理屈を説明しても意味がなかった。感覚的に悟る娘だった。
その流れで自分でも理屈を説明することができなかったのだ。
だがそれはそれでいい。
世の武術界には黙念師容という言葉がある。
優れた武術家の動きを目に焼き付け、それを心に保って修業していればいつか同じ動きをできるようになる。というものだ。
本当の基礎は俺が教えてルトナには良き見本となってもらう、それが平和だ。
というわけで子供たちはよく食べよく眠り、勉強をして体も鍛え、そして神殿に感謝で奉仕する。というかなり理想的な生活を送っている。
それに子供というのは邪懐思念を発しないもの。子供たちの生命力は純粋なのだ。
ちなみに神殿は既に修復されていたが最近は華芽姫をはじめとする精霊たちが調子に乗って手を入れているから小さいながらもかなり厳かで技巧を凝らしたものになってきている。
勝手に修復する壁で騒ぎになったことがあったが少しずつ成長する神殿というのは…まあ、意外と騒ぎにはならない。
不思議だ。
もともとメイヤ様の聖域に建っていた神殿だ。
しかも内装は天樹の根や枝で出来ている。しかも作ったのは精霊たち。世界中探してもこれほど環境のいい神殿はちょっとないだろう。
その中で神官のテテニスは良い聖職者に成長した。
「テテニスはいい神官だよね」
「そんなことないですよ。私は冥王神殿からも正式に神官として認められたわけじゃないですし、そもそもちゃんとした修行をしたわけでもないんですから」
なんて言っているが、もともとテテニスはここで育った孤児の一人で、ここを守っていた神官のゲルトさんのお手伝いをするうちに『神官見習い』のような感じになっていただけで、法的には一般人だ。
だがそれが何だというのか。
なぜなら彼女はメイヤ様も認めているからだ。
ゲルト神官がなくなってから一人でこの神殿を守り。子供たちを守ってきたのだ。
まだ若い娘さんなのに。
メイヤ様は大変に喜ばれてテテニス嬢に加護とがいっぱい与えてた。
『気にかけてフォローしてあげてねー』
とか俺に依頼が来るほどだ。
彼女は神殿なんか関係なくメイヤ様からこの聖地の守護神官に任じられている。
神様の任命だから神殿関係者の都合などどうでもいいのだ。
この世界は神様がいる世界で、奇跡も存在する。
神官たちが道を踏み外すようなことは…あまりない。
あまりというのは人間に聖人のような生活などそうそうできないという意味だ。
戒律を守り、神の教えを守るとしても人間には限界がある。
神の教えから逸脱する意思がなかったとしても人間は間違う
人間が過ちを犯すのは『人は全知全能ではない』という当たり前の事実に基づいているのだから。
というわけで…
「ディアちゃんまた来たよ」
「困ったもんだなあ…」
俺は作業を切り上げて神殿のほうに向かった。
ここのところ招かれざる客がやってくるようになったのだ。
まあ、ぶっちゃけ。この町の冥王神殿の神官さん。
彼らの主張は神殿の明け渡し。
まあ、意味がないんだけどね。
ここは神様的には神殿だけど、法律的には個人の所有地だから。
俺がここにいてるのはこれも一因だな。
貴族の俺が出ていくと割と簡単に話がまとまるのだよ。
「ぎゃああああーっ、なんじゃこりゃー」
と思っていたら野太い男の声が響いた。
なんじゃこりゃーはぜひ言ってみたい台詞の一つだけど、言うと死んじゃいそうな気がするよな。かっこいいんだけど。
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