7-28 明日はどっちだ! みたいなやつ
7-28 明日はどっちだ! みたいなやつ
地上に出ればお祭り騒ぎで騒ぐ者。泣く者たくさんいる。
騎士なんかはまだましだが冒険者になればすでに酒を飲んで前後不覚になっている者も多い。
戦闘に参加した神官たちも邪神を圧倒して倒したという事実に感極まって自分の神に祈りをささげる者が沢山。
中でも冥神神殿の神官のはしゃぎ様は群を抜いている。
神託もあったし御使いも出たんだ。無理もない。
「お疲れ様~、大活躍だったねディアちゃん」
家のメンバーはあの格好のこととか知っているし、俺が精霊と変な付き合いをしていることは知っている。
のであまり不思議に思ったりはしていないようだ。
ただメイヤ様と俺の関係というのまでははっきりとは知らないので、今回のことは属性的に少し情報開示というところか。
一応爺さんたちには内緒だったんだけど、今回のことでいろいろばれたな。
あの化け物どもは体の動きとかで人物を特定できるんだよ。
達人てのはさ。やんなっちゃう。
その後はそのままお祭りに突入した。町の有力者だの、分限者だの、サリア、つまり国だのがスポンサーになって飲めや歌えの大騒ぎ。
町の人たちもみんな持ちだせるものを持ち出してお祭りを楽しんだ。
これだけマンパワーがあればお祭りも、後片付けも何とかなるだろう。
■ ■ ■
さて、祭りは三日に及んで続いた。
三日で終わったのは参加者の多くが体力の限界で脱落していったからだ。
だがその陰で遊んでいられない人たちというのもいる。
「見事な湖ですな…」
そうつぶやいたのは執政官のスカニアさん。
また迷宮の存在変異が発生したのだ。
というか余計な干渉がなくなったので迷宮がおとなしくなった。
湖があり、大きさは数百m。中央にあの大岩があって、そこが新しい迷宮の入り口になった。
水質は塩湖。海の水と同じぐらいに塩辛い。
だがこれはあまり問題はない。
塩水から塩を抜いて真水に近くする魔道具というのは確立しているのだ。
大量の真水が作れて、しかも塩まで作れる。
しかも湖までが迷宮なので枯れるということがない。
「これも迷宮の魔力で生まれてくる海水ですからね、ここから真水と塩を作るということは、それ自体が迷宮の魔力を消費させることになりますからここはたぶんですがコントロールしやすい迷宮になると思います」
アルフォンス先生がそう推測を述べた。
彼はお祭りよりも迷宮が好きなようで、迷宮に安定の兆候が見えたら即座に迷宮入りして調査をしていたのだ。
表層は磯あって水と塩が作れて魚などがいるので釣りなどができるフィールド。魚も一応、迷宮の魔物なので、釣りをすると魔物を討伐することになる。
魚に戦闘力はない。
ヒラメやカレイや鯵や鯛やノドグロなども釣れる。
この表層のボスはマグロらしい。
釣れば討伐できる。
なんて素敵な。
第一層はやはり磯のフィールドだったと聞いた。
ボートで出入り口まで行って一層に降りて磯遊び。
ウニだのサザエだのアワビだのトコブシだのが取れるのだ。
迷宮が変わったせいか魔物もおとなし目になった。
普通のそれらの倍ぐらいの大きさで、やはり倒すのは難しくない。というかサザエやアワビが相手では戦闘にはならん。
その下はさらに調査中。
ただ現時点ではこの迷宮は残す方向で調整しているらしい。
まあ、そうだよね、これだけおいしい迷宮だし。
穀倉地帯から相応の面積の農地がなくなる代わりに無尽蔵の水と塩と魚貝類が手に入るのだ。
これを放棄するのはもったいない。
アルフォンス先生の調査に期待しよう。
■ ■ ■
「さて、ここに来てもらったのは折り入って話があるからです」
俺の改まった言葉に勇者ちゃん二人、流歌と翔子君が息をのんだ。
「えっと…ディアさんの正体とかでしょうか?」
「聖霊さん、というか神様なんですよね?」
むむ、そんな風に受け止められていたのか?
「厳密には違いますが似たようなものと考えていいです。
ただ話はそのことではありません。
実はこの国の冥神は…冥府の神様はメイヤ様と言います」
「ん?」
「メイヤ様?」
「はい、アメノメイヤノミコト様と言います」
「ええっ!?」
メイヤだけじゃやっぱりわからないものかな?
「どうしたの大きな声だして」
「メイヤノミコトサマって、うちの裏の神社の御祭神」
「そうです。その通りです。実を言えばメイヤ様からの情報で流歌君の家族構成のことなどは把握しています」
その言葉に衝撃を受ける流歌。
「えっと…母さんたちは元気でしょうか…」
「まあ、かなり落ち込んでいるみたいですね。流歌君は一人っ子でしょ? 当然のことです」
ある日突然一人娘が行方不明になり、消息がつかめない。
これを心配しない親などいないだろう。
凰華はもともと情の深い女だし、虎次郎兄は…まあ、ものすごいオタク嫌いということを除けば善良な人だ。
頑張っているが憔悴しているのははた目にもわかる状態らしい。
これはほんとにメイヤ様情報。
肩を震わせ涙をこぼす流歌。それを見て気遣いつつも、自分の家族を思い出したのかやはり涙を浮かべる翔子君。
本人にとっては時空の迷子だが、他の人間から見れば神隠しだからね。
さて、いよいよ本題だ。
ちょっと重たい話なのでしゃべり方を改めているのだ。
ちゃんと考えてほしい。
「で、ぶっちゃけてしまうと地球に帰る方法はあります」
「「ええ!?」」
「本当ですか? 本当に帰れるんですか?」
「教えてください!」
二人とも身を乗り出してきた。当然だろう。
だが簡単な話ではない。
「まず帰れるのは流歌君一人になる」
と言ったら二人とも青ざめた。
うん、いい子だね。
「順を追って話しましょう」
この話の肝はメイヤ様の神社が向こうにあるということなのだ。
そしてメイヤ様の力を宿す人間が向こうに曲がりなりにもいるということなのだ。
それが凰華。
別に神官の家系とかではない。
若気の至りである。
つまりあの神社でいろいろなことをやり、長い時間、メイヤ様の力を深いレベルで受けていたのでその力をわずかなりとも宿すことに成功したということらしかった。
《メイヤ様は自分の神社でズッコンバッコンやりまくってたから性質がなじんでしまったと言っていたであります》
いいんだよ、そんな事言えないだろうが?
目の前にいるのが母親の昔の男で昔やりまくってたとか公開していい話じゃないよ。
これは内緒にします。
「あの?」
「ああゴメン。つまりね、君のお母さんに召喚魔法陣を描いてもらうわけさ、神社の床にね。もちろん向こうには魔法はないわけなんだけど、魔法陣を描けば少しずつメイヤ様の力を蓄積して2年ぐらいで起動に成功するって言うんだよね。
この時に血縁をたどって流歌君を向こうに引っ張れるらしいんだよ。
流歌君も神社の神域の中で育ったようなものだから多分うまくいくって」
流歌君のつばをのむ音が大きく響いた。
「流歌、帰んなさい、帰れるんだから…それに流歌が帰れば私のことをうちの親に伝えてもらうこともできるから…」
「そんな、翔子…」
二人はがっしりと抱き合った。
まだ話し終わってないんだけどな…
「そんでそのあとは流歌君の頑張りにかかっているわけさ」
「はい?」
ふっふっふっ、首を傾げているぜ。
《マスター、意地悪であります》
《イヤイヤ話の流れだよ。別に意地悪じゃない》
「たぶん時間との勝負になると思うんだけど、流歌君は向こうに帰った後しばらくは蓄えた魔力を使えると考えられる。
念のために魔石とかもっていくといいかもしれない。
そしたらできるだけ早くに翔子君の母親か、兄弟か引っ張ってきて、その人の血とか大量の髪の毛とか触媒にして今度は翔子君を召喚する。
これで二人とも向こうに帰れると思う」
おっ、二人ともプルプルプルプル震えている。
「いっ…」
「いゃったーーーーーーーーーっ」
うんうん、気持ちはわかる。
ただ問題もある。
首を傾げる二人に俺は告げる。
「向こうに帰るのには2年ぐらいかかる。
そしてその間に手に入れたあれやこれや。ひょっとしたら好きな人とかできるかもしれない。
それらは全て諦めないといけないというのがある」
2年というのは結構長い時間だ。
めぐりあわせが悪いとかでなければ、2年も生きて大切なものや人ができないということはまずないと思う。
「そして魔法陣を描けばあとは自動で力を溜めて発動するために、キャンセルはきかない」
二人は真剣な顔で黙り込んだ。
そうだね、こういうの真剣に考えられる人間でなければこんな提案は出来ないよ。
「でも別に今日明日に決めないといけないということじゃないから、少し考えて返事をおくれ。
後悔の無いように…」
「「・・・・・・」」
その後俺は二人を部屋に残して外に出た。
直に王都から専門の役人が着く。
そうすればサリアもお役御免だ。
あとはまたアウシールに帰ってのんびり…あっ、一回、帝国に行かないとだな。
これは艶さんとかから話を聞かないとだね。
さて、どうなる事やら…
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というわけで第七章はおしまいです。
次は第八章になります。
第八章からは更新速度がかなり落ちると思います。
限界なんです。ごめんなさい。
それにそろそろクライマックスですしね。
つたないながら…というか、だからこそちゃんと完結させるつもりでおります。
以降はちょっと気長にお付き合いください。
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