7-12 獣王の魂
7-12 獣王の魂
「ふむ、デザインはこんな感じかな」
俺は左腕の魔導器の機能の一つ『デザイン』の魔法を起動させて戦車を設計する。
この魔法はデザインを調整するエディターであると同時に、組み込んだ魔法式がちゃんと機能するかのシミュレーターでもある。
戦車といってもキャタピラの付いたあれではない。
昔馬や猪が引いて戦場を駆け回った戦車である。
牽くのはイノシシの魔物グリンプルスディ。
搭乗するのはルトナである。
これに乗ってルトナが戦場をかける姿を想像する。
「・・・・・・きっと敵はみんなはねられたり引かれたりで大惨事だね」
まあ、戦車というのはそういうものだ。
デザインは曲線を多用したせいぜい二人乗りぐらいの本体で、車輪は二つ。
素材は木材で、これはエルフの所からもらった剪定するために切られた世界樹の枝を加工したものだ。
ただ車輪は金属の、もっと言ってしまえばオリハルコンで補強する。
両脇には前方に突き出した鋭い槍、さらに側面には折り畳み式のブレードをつける。
地上を走るときはたたんだままでおいて、なでるように敵を切り、グリンプルスディが風に乗ってかけるときには広げることで翼として機体を安定させるとともに叩き切るように敵を絶つ。
なかなかすごい。
このブレードは上側が膨らむようにしてある。
この戦車は魔道具なので、浮遊の術式を内蔵し、少し宙に浮くようにするのだが、翼が飛行機と同じような構造なので前進すれば気圧が変わって翼の周りに上昇気流が発生してより高く安定的に空をかけるだろう。
「えっとシミュレーション、シミュレーション…よし大丈夫だな。ブレードをもう少し大きくするか?」
後落ちないように腰を当てられるバーを設置して、これは遊園地の安全バーみたいなのでいいや。
後は全体に防御力場を発生させる魔方式を埋め込んで…
グリンプルスディを繋ぐ固定具にもそれをつけて…どうなるかな?
「おおー」
シミュレーションイメージは渦巻く風と力場で出来たすい星、しかも横に翼を広げたすい星だ。
前方にあるすべてを巻き込み粉砕し、翼で引き裂き、車輪で蹂躙する。
「かっこいい~」
ちょっと調子こいてこの時自重を忘れている俺だったりして。
■ ■ ■
「相変わらず~仲がいい~わねえ」
「ん?」
俺は声をかけてきたライラさんを不思議そうに見た。
「あら~、ルトナちゃんをみてたわけじゃないの~ね?」
「あははっ、すみません、ぼーっとしてました」
「ふう~ん」
じっと俺を見つめる黄金の瞳。
この日とちょっと苦手だ。
彼女は狐の獣人で、狐の獣人というのは獣人族の中では珍しく魔力の扱いが得意な人達だったりする。
シッポの数が魔力に応じで増えていくらしく、七本尻尾のライラさんはほぼ化け物だ。
実はエルメアさんのお母さん。
つまりルトナの本当のばあちゃんだったりするのだ。
ちなみに爺ちゃんは狼の獣人だ。
ルトナやエルメア母さんの尻尾が狼にあるまじく大きくふさふさなのはこの影響だろう。
でもハーフだから尻尾が増えたりはしないみたい。
でも結婚はしていないらしい。
夫婦というのは堅苦しくていやなんだって。
なので彼女をやっているらしい。
ちなみにエルメア母さんには兄とか弟とかもいるらしいが、どこで何をしているのかは知らんらしい。
「男はいいのよ~好きにやってれば~」
「オスは自立せんとな」
というのが二人の意見だ。
なのでエルメア母さんだけが位置を把握されている。
今はルトナもだな。
だったら俺は放っておいてほしいのだけど…
「でも~、ディア坊は興~味深い~し~」
あー、はい、さいですか。では仕方ないですね。
「でも仲良く~やっているみたいね~、それに~嫁も増えたみたい~」
「ええ、まあ、少しずつですね…俺はルトナ一人でも十分なんですけど」
「でも~あの子は狼の性質が強いから~群をほしがるのよね~。強い~雄のハーレム。それが昔っからの~あの子の夢だから~」
あの子というのはエルメア母さんのことだ。
ルトナはそれを受け継いだ感じだな。
洗脳されたともいうんだけどね。
シャイガとうさんが嫁一筋だからこっちにしわ寄せが来ちゃって。
「あはは~、でも腕をあげたわね~」
ルトナのことだ。
現在広い場所で爺さんと訓練の真っ最中。
現在俺たちは町の外に出ている。
いろいろメンバーの都合とかあるので魔動船をキャンピングカーにして、その周辺にいろいろ小物を出してちょっとした基地を作ったのだ。
従魔になったグリンブルスティ達にも走り回るところが必要だからね。街中では窮屈なんだよ。
その従魔たちも訓練に参加中。
ルトナの指示に従って爺さんに巧みに攻撃をかけている。
オプションの二匹も同様に参加している。
ルトナを本体としたオールレンジ攻撃だ。
うん、りっぱりっぱ。
「やっぱりルトナは獣王の器ですよね。爺さんが手加減しているといってもあれだけ戦えるんだから」
「そうね~、将来は獣王~よね。でも~ディアちゃんはそれでいいの? 十八羅漢の~筆頭でしょ?」
「一応そういうことになってますけど、俺は獣王挑戦者の試金石みたいなもんだと思ってますよ。
人間であるという以前に、俺には獣の魂がない」
謙遜ではない。
確かに俺の強さは魔法と英霊としての力に起因しているので悔しいが武術的なものではない。
たとえ獣王と戦えるぐらいに強くてもそれは違うものなのだ。
だから十八羅漢の筆頭をやっていても俺が獣王になることはない。
寧ろ俺の役目は俺のうしろに続く戦士たちの試金石、あるいは立ちはだかる障害であるのだと思う。
そして何より獣人種の上に立つものには獣の王の魂が必要だ。
誇り高い野生の魂だ。
残念だが俺はそれを持っていない。
「まあ、確かに~ね、人間だからダメというわけじゃ~ないけど、確かにディア坊にはないわね~」
ライラさんはちらりとサリアを見る。
あの子はたぶん獣の魂を持っている。
ルトナが狼ならサリアは百獣の王といった感じだ。
まあ、身分的に獣王にはならんと思うけど。
「いけ! グングニル。ミョルニル!」
おっ、ちびイノシシの名前が決まったみたいだ。
ルトナの指示で飛び出したちびイノシシがすい星のように尾を引きながら爺さんに突っ込んでいく。
すごいなルトナ。まるで北欧神話の神様のようだ。
「あの子の~二つ名はな~ににしようかしらねえ~」
■ ■ ■
「ちくしょう…なんでこんなことになったんだ…」
ジュレミー・ナイナはこそこそと隠れながら裏路地を進んでいる。
相棒であるロータス・ガウルが制裁として腕と足を破壊されたときに恐れをなして逃げだし、それ以来、宿屋にもとまらずにこそこそと隠れ暮らしていた。
ひとえにあんな目にあいたくない。というそれだけの理由で。
宿屋に直行し金はロータスのものも含めて回収したが女は捨ててきた。
逃げるのに女を連れていくのはいかにも浅はかだと思ったのだ。
実際彼が獣人の制裁の対象になることはないし、ギルドの連中は確かに彼を探しているがギルドの規約ではせいぜい降格ぐらいだろうが、そんなことは逃げ回っている本人にはわからない。
つかまったらどんな目にあわされるかわからない。それが彼にとっての真実だ。
常に恐怖に震え、世界を呪い、でもあの獣人たちのことは思い出したくもない。
ぐるぐるぐるぐる回る支離滅裂な意志。歪み。
「これって少しはマシなんじゃない?」
「そうだな、ここは思ったよりも牧歌的で平和だからな…」
「もうちょっと叩けばもう少しましになると思います」
後ろから聞こえてきた声にジュレミーは振り返った。
見たこともないやつらが立っていた。
一目でやばいと思った。だから踵を返して逃げ出して…気が付いたら一番の大男にぶつかっていた。
「あっ、いつの間に?」
「回り込んだんじゃねえよ、俺たちは動いてない」
?
頭の中が疑問でいっぱいになる。
「まあ、恨むんならドジなアーカイブのジジイを恨め」
「あらダメよ、もっと世界を恨んでもらわなくちゃいけないのに」
ジュレミーが気が付けば足元がぐるぐる回っている。
すぐにたっていられなくなった。
どさりと尻もちをつく。
そして三人が近づいてくる。
大男と子供とそしてやたら扇情的で露出の多い、エロイ体をした女。
その体が目に焼き付いた。
「くそー体さえ動けば絶対に姦ってやるのに…」
「あら、欲情しているわ。恐怖でも諦観でもないなんて、意外といい拾い物かもしれないわよ」
女の手が頭に伸びて、すぐにジュレミーの意識は闇に飲まれた…
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