7-11 獣人のおきて①
7-11 獣人のおきて①
翌日は一番に冒険者ギルドに向かう。
「王国軍が着くまでもうしばらくかかりますからそれまでは冒険者として迷宮に挑戦しましょう」
「「「「さんせー」」」」
さらなる情報収集だね。
「それに、この迷宮が冒険者に与える影響というのも見たいんですよね。
蟹は飛ぶように売れているみたいですし…」
「サリア自身は迷宮を残すことに賛成なのかな?」
「今は保留です。先日完成した起動要塞のおかげでやり様は出てきましたし、でも蟹だけではだめです。
冒険者の懐のために国自体を危うくすることはできません」
もっと国自体に大きな利益がないといけない。ということだね。
さすが王女様。よく考えている。
普段はおポンチ君だけどね。
いや、こういうのが有能な人間というのかもしれないな。
とりあえず軍隊などというものはそんなにフットワークが軽くない。
何をやるにしても時間がかかるものだ。
それでも予定はかなり早い。
一か月ぐらいしかかからない計算だ。
起動要塞が王都経由でここまでくる間に騎士や軍を積み込んでくるのだ。
移動コストが格段に低くなる。
「はい、それまでにできるだけ調べないといけません。迷宮の発生原因に関しても」
「直接乗り込むのが早道だよねー」
「「「「ねー」」」」
カニも食べたいしな。
■ ■ ■
まずやるべきは…
「獣魔登録だね」
「うーん、めんどい」
めんどいといってもやらないといけないのだ。
この世界の魔物は襲ってくるものばかりではなく使役されて家畜化しているものも多い。
たとえば実家にいる鎧牛とかだ。
ちなみにロム君は元気にしている。
現在はさすがに半引退状態で、牧場で暮らしていて仕事は子作りか?
なんか縁起のいい鎧牛だっていうので種牛として人気みたい。
地球みたいな管理はされていないんだが、バンバン子作りしているみたいだ。
群れのボスみたいな。
閑話休題。
さてそういうわけで人間に使われている魔物というのは結構いるわけで、そういうものも含めて魔物は冒険者ギルドなどに登録することになっている。
これは街中に危険な魔物を放つわけにはいかないということであり、同時に高価な魔物を保護するという意味でもある。
フェルトの時はシャイガさんが全部やってくれたので簡単だったが今度のグリンプルスディとオプションたちは自分で登録しないといけない。
「えっと、それでその魔物はどこにいますか?」
「大丈夫です、安全な場所に隔離してあります。
試験会場が決まればそこに連れていきますよ」
「そうですか、試験は外ということになると思いますが、えっと、後日ですかね。
とりあえず仮の登録証を発行しておきます」
試験というのは魔物がちゃんということを聞くかどうかの試験だ。
といってもあまり難しいものではない。
狂暴…はダメか。乱暴な魔物は町に入れなければいいわけで、町の外を歩くだけならたいしたもんだいはないからだ。
そして今はあちこちから冒険者が集まってきてギルドはてんやわんやであるらしい。
「すみませんねえ、もともとここの冒険者って雑用がメインだったもので、あまり規模が大きくないんですよね」
それを冒険者といっていいのかどうか難しいところだが、ここの冒険者の主な仕事は穀倉地帯の農作業の手伝いとか害獣駆除とかだそうな。
ほぼ日雇いの人足である。
「ディアちゃん?」
「ああ、大丈夫。随分落ち着いているから。問題ないよ。
町の外なら出しても大丈夫だしね」
「うん」
心配そうに見上げるルトナに俺はにっこり笑って帰す。
いまグリンプルスディたちは俺の中の別空間。
もともとは冥府の一部だが精霊たちが結構住み着いているので環境が整っているのだ。
ちなみに英霊の一部も常駐している。
欠片とはいってもイノシシたちが全力で駆けても何の問題もない程度には広いのだ。
「お嬢さん。美しいお嬢さん。よろしかったらわたくしとお茶でもいかがですか」
あっ、なんか空気読まない奴らがナンパしてきた。
勇者ちゃん達少し離れたところにいたからなあ…
■ ■ ■
「俺はそっちの嬢ちゃんの方がいいな。どうだ。俺の女にならんか?」
とルトナに声をかけてきたのは獣人の戦士だった。
頭に角があって先っちょだけふさふさの尻尾が揺れている。
牛だな。
「ふむ、確かに彼女も美しいね。だが獣人では人族の私の相手にはならないだろう」
そう言ったのは最初に声をかけてきた男だ。
金髪巻き毛でちょっとたれ目。白と金で出来た鎧でキラキラした男である。
彼らのうしろには女性が四人いるが…パーティーメンバーというより情婦?
「俺たちはナイナガウルというパーティーをやっている。結構有名なパーティーだぜ。
俺とこいつがパーティーリーダーさ。
俺がロータス・ガウル。そして」
「私がジュレミー・ナイナといいますお嬢さん」
そんな話をしているうちに女性陣がみんな俺のそばに集まってきた。
隠れているというわけではなく単に俺を中心においているだけだろう。
勇者ちゃんたちは迷惑そうで、クレオは楽しそうだ。たぶん斬り合いにならないかな? とか思ってそう。
「あんたも獣人なら強い男は興味あるだろ? 俺はこれでも500羅漢に入っているんだぜ。どうよ」
それを聞いたルトナはあっさり承諾の返事をした。
「いいわ、私に挑戦したいというのなら受けて立ちましょう」
「おっ、自分より強い男ならってやつか。へへっ、楽しみだぜ」
「改めて自己紹介。私は18羅漢の18席。ルトナ・ナガンです」
その言葉を聞いた途端男の顎がカクーンと落ちた。
「あっ、えっと…その…今日は調子が悪いから日を改めて…」
「何を寝ぼけたことを。500羅漢の挑戦は必ず受ける。それが私たちの義務です。
あっ、私が欲しかったら私に勝った後この人と戦わなくてはなりませんよ。
羅漢筆頭のディア・ナガンです」
「どもー」
軽い感じでご挨拶しておく。
男の顔は蒼白になっている。
羅漢というのはたぶん意味も分からずに地球から輸入された言葉なんだと思う。
ただそれが現在獣人の身分制度になっているのだ。
8獣王。その下に18羅漢。さらにその下に500羅漢。
羅漢というのは優れた戦闘者という意味で使われてるね。
そしてその中にいろいろルールがある。
18羅漢は下のものから挑戦されたら必ず受けないといけない。
ルトナの周りでそういうことが少なかったのはまだ叙せられてから日が浅いということと、いる場所がよくわからないということからだね。
まあ、挑戦権があるのが500羅漢だけだから。こんなもんだろう。
ちなみに序列変動のために『獣神大武祭』というのがあって、獣人の聖地で毎年行われている。
羅漢は2年に一回は参加しないといけないんだよね。
ルトナは今年初さんがだから必ず参加。
ちなみに俺は一昨年参加したよ。ジジイに無理やり引きずられて。羅漢襲名だからってさ。うん。迷惑な話さ。
でも獣人というのは話が速い。
面倒くさいのは抜きになる。
さあやろう、今やろう。ですぐに決闘になった。
ジュレミー君はついていけないみたいであっけにとられている。
「おほん。ではこれより18羅漢18席。ルトナ・ナガンと500羅漢所属。ロータス・ガウルの死合を始める」
《今、字がおかしくなかったでありますか?》
《いいんだよ。どうせこいつの運命はその程度だ》
結構腐臭が漂っているしね。
一緒にいる女の人を見ると問題行動をしているのは間違いない。
試合が終わったらサクっと狩っちゃってもいいレベルだ。
「はじめ」
ばきっ!
ぴゃー!
一瞬で終わりました。
ロータス君瀕死です。
「おい、こいつ本当に500羅漢か?」
俺は周囲にプレッシャーをまき散らしながら問いかける。
見物人の中から獣人が飛び出してきて平伏した。
「羅漢筆頭ディア様に申し上げます。某は先年500羅漢の栄誉を受けましたビヨトン・ラウラと申すもの。
少なくとも昨年この男が羅漢に任命されたという事実はありませなんだ」
「何だ騙りか」
俺の冷ややかな声を聴いてビヨトンさんは震え上がった。
一昨年祭りに参加したときに。俺ってばそれ以前の羅漢の名前は全部記憶してきたんだよね。その中にロータス・ガウルというのはなかった。そして去年羅漢になった新人でもない。ということは騙りということだ。
なるほど弱いわけだ。
「さて、じゃあ治してあげようかな~」
これで死なれるとまずいんだよね。
なおれ~なおれ~。
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