第7章 ゼダンの迷宮
7-01 ゼダンの迷宮に行くってよ
第七章 ゼダンの迷宮
7-01 ゼダンの迷宮に行くってよ
「というわけなの。お願いねサリアちゃん」
「はい、お任せくださいおば様! あっ…」
キハール伯爵のお願いにサリアが元気よく返事をした。
最後の〝あっ〟は、他のメンバーの了解を得ずに承諾してしまったことに気が付いたからだろう。
「えっと…」
そして上目遣いにこちらをうかがうサリア。まあ、仕方がないかな。
「大丈夫ですよサリア。私たちは姉妹です。あなたがしなくてはならない仕事があるのならみんなで手伝います」
「あっ、ありがとうございますルトナ姉さま」
「そうですよ、迷宮でたくさんの魔物と戦うなんて面白そうじゃないですか。きっと切り甲斐のある魔物もいるに違いありません」
「えっと…ありがとうございますクレオ様…」
ちょっと微妙な返事だが、まあ仕方がない。
刀にキスしちゃうような子だしね。
ぶった切れる敵がいれば否やはないのだ。クレオには。
もちろんフフルに否やがあるはずもない。
この旅猫は基本的に旅に否やを言ったりはしない。
ルトナと俺を灯台かなんかと思っているようで、目印にして動き回っている。
さて、ちょっと情報を整理してみるか。
まずゼダンという南にある町で新しい迷宮が発生した。
迷宮というのは空間的に別の位相に展開するもので、ある日突然こちら側と行き来するための道が開くのだ。
つまり新しい迷宮が発生するというのは偶にあることなのだ。
問題となるのはその迷宮が世のため人のためになるかどうか。
そして国にとって一番重要なのは国のためになるかどうか。
「そうなのよねぇ~。私も国の重責についていなかったら冒険したい事案なんだけどね~」
とマチルダ・キハールはのたまった。
このおばちゃんは昔若いころ冒険者としてブイブイ言わせていただけあって冒険というのが大好きだったりする。
そして新しい迷宮というのはそこまで育つために力を蓄えているもので、変わった魔物がいたり、迷宮の起点になったお宝があったり、また魔力がたくさんかかわっているので良い魔石などがあったりと一攫千金の夢を満載していたりする。
その意味で冒険者にとって新迷宮というのはいいものなのだ。
ところが国という立場から見ると必ずしもいいことばかりではない。
今回はその典型だ。
このゼダンの町の周辺にはこの国一番の大穀倉地帯が広がっているのだ。
つまりこの迷宮はそのど真ん中にいきなり現れたりしたわけだ。
「魔物が出てくるから普通の農夫とか安心して仕事ができないし、しかも冒険者がほじゃいて周辺を荒らしまくる。
穀倉地帯なんだから人が歩きまわるだけでも迷惑なのに…」
冒険者というのは荒くれ物が多く属している仕事で、麦なんか引き倒して焚火をしたり、場所を作るのに切り倒したりとか平気でする奴もいる。
すでに我が物顔でキャンプ地を作っている馬鹿もいるんだとか。
なので国は、つまりクラリス様とかは早急にこの迷宮を討伐する方針を固めた。
そう、迷宮は討伐できるのだ。
普通は。
アウシールの迷宮は冥力石がコアになっていて、しかもそれは四層の深部に隠されているのでまず破壊できない作りになっている。
まあ、迷った魂をあの世に正しく送ることが目的の迷宮なのでなくなると俺も困るし、俺が管理しているから討伐はできないだろう。
それに役に立っているから討伐する意味もない。
王都にある迷宮はというとこれも役に立つ迷宮だ。
資源の確保に使われているし、その過程で騎士たちの経験値稼ぎに使われていて、しかも討伐が管理されているので魔物の氾濫などもない。
だから大事に使われているのだが、この手の迷宮は最深部にある核となっている何かを破壊することで沈黙させることができるのだ。
そして今回のような若い迷宮は大概難易度も低く討伐は不可能ではない。
討伐された迷宮はどうなるかって?
それは空間的なゆがみが解消されて小さくなり、ただの洞窟のようになるらしい。
俺もデータで見ただけで実際は見たことはないんだけどね。
その後地下施設として何かに使われたりして…
で、現在討伐を前提に戦力を集めているそうで、その総司令官にサリアが抜擢された。
本来なら王太子のマルディオン君が担うべき役目なんだけど、マルディオン君は現在帝国との折衝に当たっていて身動きが取れない。
国をしょっていくものとしてどちらも重要な仕事だからね、すでに始まっている方を優先させて、残りはサリアにということらしい。
「ん?」
しばらく考えに沈んでいたらみんなの目が俺に集中している…けど…
「あの、やっぱりだめですか?」
「何が?」
「いえ、ゼダンに一緒に行ってもらうの…」
ああ、そういう。
「いや、全然問題ないよ。すでに行くつもりで何が必要か考えていた」
「「「だ~~~っ」」」
そんなに緊張してたんかい!
「でもディアちゃん。必要なものって?」
「ん? ほら、流歌君とかだよ。放置もできないし、どうしようって」
「いっそのこと、連れてっちゃいなさい」
無茶を言い出したのはマチルダさんだ。
「いいんですか?」
帝国に見つかるといろいろめんどいような…いや、大丈夫か。暗殺部隊は殲滅したし、そんなことがあったのだ。大っぴらに変換要求はできないだろう。
せいぜい裏で暗殺か誘拐。
だったら置いていくより連れて行った方がいいような気もする。
「そういうことよ。あとは格好でどうとでもなるわ」
格好か…どんな格好をさせるのがいいかな…なんか夢が広がる。
となるとあとは移動手段か。
「お店の魔動車を借りる?」
「うーんそうだね…」
メンバーは俺、ルトナ、クレオ、サリア、フフル、フェルト、流歌、翔子…
荷物は俺の収納に入れるとして、まあ、このメンバーならどうにかなるか。
ちょっと実家の仕事が大丈夫か確認して…俺とかフフルとかは外を移動してもいいし、うん、これで行こう。
■ ■ ■
「ああ、だったらいいものがありますよ。この下にいっぱい魔動車、あるじゃないですか」
状況説明とお誘いに寄った迷宮の6階層で、勇者だゃんたちにそんなことを言われた。
探索して魔動車を見つけたらしい。魔動車売り場を見つけたらしい。
そういやまだ動くのがあったよな…
「じゃあ、何かいいのを探しに行きましょうか?」
「「「「「「おー」」」」」」」
勝手に盛り上がる人たち。
いやー、しかしここのを持ち出すのって…どうなんだろ…
悩む。
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