6-20 暗躍する謎の怪人(笑)

6-20 暗躍する謎の怪人(笑)



「いやーーーーっ、やめろーはなせばかー」


 女の子の悲鳴がこだまする。

 ちょっと威勢がいい。

 ここは迷宮の第一層。ゴブリンなんかが大量に生息するエリアだが…別にこの子はゴブリンに襲われているわけではない。


 小柄で可愛くて、そして素晴らしく胸の大きい女の子だった。


 それを襲っているのは明らかに人間。

 四人の男たちだ。


「俺達迷族につかまったのが運の尽きだとあきらめな」


 そう言いながら男が胸鎧を引きはがす。革製のものだ。手慣れたものでナイフを使って留め具を切り簡単に外す。ついでに切り裂かれた服から大きな胸がまろびでる。

 じつに立派なおっぱいだった。


「しばらくは飼ってやるよ。楽しもうぜ」


 両手を抑えている男が舌なめずりをする。


「心配すんな。少しすれば頭もパーになって嫌なことも忘れられっからよ」


「そうそう、それに頭がいかれても身体は使えるからな…生きていけるぜ」


 二人の男が両側から足を抱え込み、短パンを脱がせようとしながら力任せに開かせようとする。


 女の子は負けじと足を振り回して男たちをポカポカ蹴りまくっている。


「まあ、飲まず食わずだから一週間ぐらいか? それで終わりさ、へへへ…」


 じたばた暴れる女の子だったが男四人に対抗できるはずもなく徐々に露出が多くなっていく。

 常習者だな。腐敗臭もするしこいつらは狩っておこう。


 迷族というのは、迷宮で活動している盗賊のことだ。

 山でやれば山賊で、海でやれば海賊で、迷宮でやれば迷族…

 違和感すごいな。


 まあ、俺のやることは変わらない。

 一言でいうと狩りだ。

 ついでに女の子が助かったりするからいいのだ。


 俺はパンッと翼を翻して地上に降下する。


 俺が何をやっているかというとパトロールだったりする。


 悪人というかゆがみをため込んだ人間を狩るのも俺の仕事なのだが、外ではそういうことはしない。

 よほど世界に悪影響を与えるもの以外は基本無視だ。


 それでもまっとうに活動していると先日の暗殺部隊みたいに歪みが勝手にやってくるからそれは始末するんだけどね、積極的にパトロールまではしないのだ。


 だが迷宮だけは別。

 この迷宮の中には死者の魂をあの世に送る冥力石があるからあれの手入れの一環としてろくでなしの魂を狩って、石の力ではなく神杖で直接地獄に送り込む。

 それは意味のあることなのだ。


 地上をなめるように飛行し、少し通り過ぎたあたりで急停止。


「おわっ」

「何だ!」

「うおぉぉっ、グレンの首がなくなっている!」


 一人目の首を翼で切り落とした。

 そしてゆっくりと振り向く。


「ひいっ」

「化け物」

「ふふふっふにゃけやがって…」


 いや、ふにゃけてはいない。


 いつものタキシード怪人のスタイルだ。

 黒いタキシード、銀のガントレット、黒い帽子、白いシャツ、黒い水晶のようなのっぺりした顔。

 その顔の真ん中で熾火のような目がぼうと光る。


「たっ、たすけて」


 女の子の方は冷静なのか、はたまた迷族よりはましという判断なのか迷族たちの手が寄るんだ隙をついてはいだし、俺の足にしがみついてくる。

 立派なおっぱいがゆっさゆっさである。


 男というものは目の前できれいなおっぱいが揺れていればつい見てしまうもの。

 それは迷族たちも同じだった。

 そしてそれは結果として彼らに冷静さを取り戻させるきっかけになった。


「へっ、びっくりしたが人間じゃねえか」

「ああ、こんな風に武器を使う魔物なんざいないからな」

「化け物でないならぶった切ってしまえばいいんだ」


『ほう。途端に元気になったな』


 俺はあきれたようにつぶやく。今回はボイスチェンジャーの機能も取り入れたので機械的な、そして隠隠と響く声だ。

 その声を聴いて迷族はまた一瞬ビビったようすだったが、それを振り切るように剣を抜いてむかってくる。


 俺は領域神杖『無間獄』をくるりと回し、一歩を踏み出した。


 女の子がしがみついているが俺も達人といっていいぐらいの腕はある。その程度では動きを阻害されることはない。

 事実俺の足はするりと抜けて何の問題もなかった。


 オッパイの感触がちょっと惜しかったぐらいだ。


「ふえ?」


 つかんでいた足がいきなり無くなったせいで女の子が変な声を出してころんでいるけどそこはまあ仕方がないと…


 あれ? 突っ込んできた男が女の子に意識を取られてる。


 おおっ、そうか。つんのめったときに草地で押しつぶされた立派なお山に気を取られたか。

 男って本当に馬鹿だよね。


 これはと神杖を突き出して男の胸を小突く。

 軽く小突いただけだが杖の先端から不可視の力が波動のように広がった。


 男はそのまま後ろに倒れ、動かなくなった。


「な?」

「何が?」


『ふっふっふっふっ…魂を失ったのだよ…』


 それは事実だ。

 体から魂をはじき出したのだ。

 二人の魂は神杖に回収。地獄に直行だ。


 そして反響する機械音声のような声が不気味さを盛り上げる。

 

 それと同時に神杖に鎌の刃が生えた。


 効果的だった。


 生き残った二人の族のうち一人は立ちすくみ、一人は腰を抜かした。


 歩み寄る俺。

 一歩進めるたびにへたり込んだ男の顔が恐怖に歪んでいく。


「ひっ、ひぃっ…助け…たすけて…神様…」


 うっ、はーいとか返事をしてはダメだろうな…

 我慢だ、今はイメージづくりの時間だ。


 そのまま一閃。鎌が走り抜け、刈り取られるように男の魂がはぎ取られた。

 もし霊視能力の狩る人間がいたら鎌の先に貫かれ、縫い止められ、苦痛にあえぐ男が見えたことだろう。


 だが見えなかったとしても魂の苦鳴は空間を軋ませる。ちょっとだけ。

 背筋がぞわぞわして全身にぼわっと鳥肌が立つような空気感が素晴らしい。


「ひあぁぁぁぁぁっ!」


 最後の男は逃げ出した。

 全速力で、一心不乱に、何も見ることなく。


 だが逃げられない。


 周囲に立ち込める冥の霧「エレメンタルミスト」が感覚を狂わせる。


 自分で走って俺の前に戻ってきてしまう。


「ひいぃぃぃぃっ」


 再びの逃走。見事な回れ右。


 そして何かにぶち当たる。

 俺の魔法アトモスシールドを柱のようにあちらこちらに立ててみました。

 見えない何かにどんとぶつかりどちらに行っていいかわからない。


 恐怖と狂気の終わりなきワルツ。


『ふははははははっ』


 男はぱったりと倒れました。


 ありゃ?


 近づいて俺はとどめを…さすことをやめた。

 男の髪の毛は真っ白になっていて、その顔はしわがれた老人のように歪んでいたからだ。

 これだけの恐怖があればこの先…まあ、被害を出すようなことはないだろう。

 ひょっとしたら贖罪に走るかもしれない。もともと大した歪みじゃなかったしな。


 見逃してやろう。


 くるりと振り向くと女の子も目を回していた。


 ありゃりゃ。


 あおむけに倒れてる。

 オッパイ丸出しだ。

 しかもおもらししている。


「よほど怖かったんだね」

《マスターがでありますな》


 多分そうだと分かっていたよ。


 しかし放って置くわけにはいかない。


《どうするでありますか?》


 心配ご無用。そういうときのための変身ヒーローだ。


 一時間ほど後この町で活動する一位爵が一人の女の子を背負ってギルドの支部に現れた。

 彼は倒れていた女の子を保護したと、そう告げ、その場に男たちの死体があったことなどをギルドに告げて去っていったらしい。


 なんてね。


 毛布でくるんでおいたし、おもらしはクリーンの魔法できれいにしておいたから問題ないのだ。


 こういうことをしていれば黒衣の死神のうわさは徐々に広がっていくだろうし、そうなれば普通の自分と使い分けることで動きやすくなっていくだろう。

 やったね。


 ◆・◆・◆


「ディアちゃん、今日行政府の人が来て、先日の族のことでお城まで来てほしいって言伝を頼まれたよ」


「え? なんだろ」


 何かわかったかな。


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