5-20 学園
5-20 学園
キハール魔法戦術学園は町の校外に設けられたかなり巨大な学園だ。
といってもあまり派手ではない。元々が武闘派の騎士達を鍛える学園だったために質実剛健な印象が強い。
むしろあとから作られた魔法研究塔とか、増設された学生の宿舎とかの方がずっと手が込んでいる。
但し敷地はなかなかに広大で、日本で言えば大学のキャンパスのような印象だ。
正門の後にはどこの宮殿だというような庭園が広がり、当然門には門番がいる。
「貴様ここを何処だと思っている」
「何処って学園だろ?」
変なことを言うヤツだねえ。なんてね。
まあ何処にでもいるわけだよ。自分がえらいわけでも無いのに大手に雇われているうちに錯覚してえらそうに振る舞うヤツ。
こいつは多分典型だろう。
中年の割と引き締まった体つきをした、だがどこか勘違いした派手なおっさんだ。
学園について一番最初にあったのがおっさんであるのは仕方がない。門番に美少女戦士とかはいないだろう。
門番というのはなかなかに大変な仕事なのだよ。それこそ雨にも負けず、風にもの負けずでさ、だからこういう仕事がおっさんに回ってくるのは仕方がないのだけど…
「もうちょっとちゃんと教育して欲しいな」
「なんだとー」
あっ、聞こえてた?
「まあいいや、ここにサリア王女がいるはずだから取り次ぎを頼む。ディアが来たと言えば分かるから」
「ふふふふふっ巫山戯るな! 貴様ごときが王女殿下様に取り次ぎだと…何をいっとるんだ。怪しいやつめ。そこへなおれ」
いきなりなヤツだ。カルシウムが足りてないのか? それとも心に潤いがないのか。
「隊長。落ち着いて下さい」
「そうです。いくら何でも徒人が王女殿下に面会を申し込むなどあり得ません」
そうそう。
ここは封建社会だからな、王族に面会を申し込むなんて平民にできることじゃない。
許されるとか許されないとか言う以前に住んでいる世界が全く違うというのがこの世界の人達の認識だ。
もしそんな事をやろうとするやつがいたら死を覚悟した直訴をしたいヤツぐらいだろう。
だけど面白いからもうちょっと突っつこう。
「落ち着きなさいよ。そこえなおれと言うが貴官にそんな権利は無いだろう? 貴官はただの門番なのだから」
学園の門番は受付嬢ならぬ受付おっさん? のようなもので、人が訪ねてきた時に取り次ぎとか、身元確認とか、取り締まりとかを行う権能は持っている。
だがその権利はあまり大きいものじゃない。というか三人や四人でなんの取り締まりができるか? と言う話だ。
そう言った取り締まりをする奴らは後にいてこちらを監視しているし、なにかあれば飛んでくる。
門番というのはそれまでの時間稼ぎのための存在でもある。
うーむ、考えてみたら結構過酷な仕事だな。
ちょっとおちょくろうとか考えて悪かったな。反省。
ちらりと見ると暴れる変に煌びやかおっさんを、部下の人二人が取りすがって押さえるというおもしろ場面になってしまっていた。
こちらの二人は俺がもしちゃんとした客だったらとか考えたのだろう。
ちょっと権威に弱そうな感じでこれはこれで問題がある。
今度進言しておこう。
そんな事考えている間に後から騎士の人が駆けつけてきてしまった。
うむむ、あまり怒らないでやって欲しいと言っておこう。
俺の格好が悪かったのだ。普通の格好だったから。
ごめんね。
◆・◆・◆
「しかし、閣下も御人が悪い」
そう言ったのは学園の騎士さんと一緒に出てきたキハール女伯爵閣下の執事さんだ。
キハール閣下はウチの両親の育成にも関わった、ウチのじじいの知り合いなので面識はばっちりなのだ。
当然この執事のマルトンさんとも面識がある。
しつじでまとん…微妙な名前の人だ。
「それで今日はどのようなご用でこちらに?」
「ああ、サリア様に頼まれていた武器ができたのでそれを渡そうと思ってね…実習とかもあるんでしょ? ここ」
「はい、サリア様も入学して半年になりますので、そろそろ迷宮の探索がカリキュラムに入って参ります。
とは申しましても最初は本当に初心者用。一階層のゴブリンや大鼠を討伐して、少し奥までというところでしょうか?
護衛も付きますし…
そうだ。ディア閣下はしばらくここにおいでですか?」
「そうそう、その話もあってキハール閣下にもお会いせねばならないところだったのですよ。ウチの姉がここにおりますので」
「はい、学園生の護衛など、いろいろお世話になっております。サリア様の護衛もお願いしてあります」
「それは何より、姉もなんと言いますか、じじいに似ているので学園の人が苦労しないか気になるところではあります」
「そのような」
とか言いながら否定はしなかったな。
「それで私も当分、というか活動の拠点をここに移すつもりなのでここに落ち着くことになるか…という感じですか」
「それはありがたい事です。いろいろお願いするようなこともあると思いますがその際は…」
「ええ、キハール閣下にお世話になっている恩返し、幾ばくなりとも恩を返せればと思います」
社交辞令半分というところだが、こういうスマートな会話は良い。
その後、マルトンさんと情報交換をしながらキハール閣下の執務室に向かう。
学園長は別にいるがこの学校の最終的な責任者はキハール閣下だ。
この学園内に執務室があっても別段おかしくはない。
だがそれはそれとしてマルトンさんの話で一番興味深かったのはやはり迷宮の話だろう。
迷宮変質のあと、一階が草原+森のフィールドになったのは知っていたが、結構探索が進んでいて二階層や三階層もあらかた詳細が分かったらしい。
二階層は湿原ステージ。
一階層にも湖があって、結構いい環境なのだが二階層は全域が湿原であったようだ。
湿原+ジャングルのステージ。かなり広い。
一階層が直径一〇キロほどの円形。
二階層が直径二〇キロぐらいの円形。
三階層は直径三〇キロほどの円形。
三階層は砂の海と森、しかも夜。だそうだ。ほんと迷宮って非常識。
四階層は洞窟迷路ステージだそうだ。この中央に『冥力石』が安置されているはずだが、ここは外に解放されていないので、見つかる心配はない。とメイヤ様に教えてもらった。
だからこれは良いとして、この四階は遺跡のような通路でできた迷路なのだそうだ。
基本はアンデットで罠などもたくさんあり、魔物からはよい魔石が手に入るので良いステージらしいのだが探索は難航しているのだとか。
つまりそれ以降は全くの手つかず。
人気は二階層と三階層だ。
こちらは素材も良いものが手に入る。
下層はそのうち調べに行ってみよう。
「この先がキハール様の執務室になります。現在お客様が来ておいででして…」
「そうなのか、ではお待ちするから気にしないでくれ」
「いえ、キハール様が是非御一緒にと…なんでも帝国の勇者一行だとかで、貴族も何名か参加しておりますよし、現在サリア様とマルディオン王太子殿下も同席いただいておりますので…」
「へー、ほー。帝国の勇者か…つまり異世界から…招かれし者と言う事か」
つまりタマタマ落っこちてきた運の悪いやつと言う事だな。時期的にはそういう時期だが…そうか、そろそろ出てくるか…迷惑だなあ…
「お顔が迷惑がっておりますよ」
「おっといけない。私の顔は素直なんだ」
「なにもちまして」
無駄話をしているウチに目的の部屋に付いた。
マルトンに先導されて中に入ると…
「アルフ様…どうしてこちらに?」
いきなりそんな声がかけられた。
誰だよアルフって。
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