5-07 温泉回?

5-07 温泉回?



 温泉というと火山のイメージがあるが別に火山に限られたものではない。

 例えばどんな土地でも一〇〇〇mも掘れば温泉は出る。つまり圧力が高ければ地熱が発生するし、地熱があって水脈があれば温泉にはなるわけだ。


 なので山がある土地というのは温泉が出やすい。

 なぜなら地面の上に一〇〇〇m以上の土の塊が乗っているからだ。


 なにが言いたいかというとここには温泉があるのだ。


「ふえ~~~~~っ」


 しかも今は貸し切り状態だ。

 この宿は街長の准男爵殿が手配してくれたものなので、准男爵殿に気を使って宿の人が配慮してくれたものと思われる。

 とはいっても夜の少し遅めの時間なのでもともと入浴者は少なく、しかも貴族と入りたがるやつもあまりいないので、流れとしては自然なものではある。


 残念なのは露天ではないので月明かりが入り込むようなこともなく、浴室の壁に作られた燭台が唯一の明かりだということだろうか。

 俺は暗闇でもまったくもんだいなく物が見えるので平気だが、そうでないとちょっと危ないのではないかな?

 それに…


「うーん、やっぱり何か足りない」


 そんな気がする。


「すっ、すみません遅くなりました」


「え?」


 振り向いたらそこに美少女がいた。しかも全裸で。別にこういうものが足りなかったわけではないのだが…

 クレオル嬢だね。


 ひょっとして背中でも流そうとか思ってくれたのかな。

 にしても全裸はやり過ぎだな。


 何度も言うが俺は暗闇でも問題なく物が見える。

 なのでクレオル嬢も全部見える。


 彼女は本当にきれいな顔立ちをした娘さんだ。一〇人人がいたら九人は振り返るのではないだろうか? 切れ長の目がちょっときつめでとっつきにくい印象を与えるが話してみると表情が豊かで可愛い感じを受ける。


 細い首すじになだらかな肩。

 胸はちょっと控えめだが、細い腰とお尻に続く曲線は艶めかしく、張りのある太腿とすらりと長い足が魅力的だ。


 その彼女がろうそくの明かりに照らされ、陰影で彩られた様はほぼ芸術。

 手に取るように分かるからなお芸術。

 本当に眼福である。


「あー、クレオルさん?」


「はっ、はい、すぐに」


 なにがすぐにだか分からないが、クレオル嬢はあわてたようにトテトテと走り出す。


「あっ、落ち着いて、風呂場で走ったりしちゃだめですよ」


 危ないんだよ本気で~って言っている尻から『ひゃーっ』とか悲鳴が!


 場所は湯船に近い当たり、床が濡れている所で滑りやすい。そして彼女は全裸でこのままだと湯船の縁にもろに倒れ込みそうだ。

 湯船は岩でできていてそれなりにごつごつしている。


 このまま転んではたぶん怪我をする。まずい。俺はあわてて立ち上がり、彼女を受け止めた。

 直接触れ合う肌と肌。そのぬくもりにさすがにドキッとした。

 ドキッとして気が逸れて、ハッとしたときには俺も足を滑らせていた。


 それでも倒れ方がまずいと怪我をするのでこのまま彼女を湯船の方に引き込んでお湯に落ちる。

 俺達はもつれ合ったままお湯の中に落ちた。

 クレオル嬢パニック!


「ひあーっ」

「落ち着いて! あー、どこ握ってんの!」

「しがみ付かないで!」

「足を巻きつけないで!」

「あーっ」


 ◆・◆・◆


 おぼれている人間に正面から近づくとしがみ付かれて一緒に溺れるというのは本当だったな。うん。


 再確認したが女の子というのは本当にやわらかい存在ものだ。

 そしてその柔らかさは男にとって魅惑の柔らかさに他ならない。

 溺れる彼女を助けるためになんかすごくやわらかいものをものすごくしっかりと鷲掴みしてしまった。まだ手に感触が残っている。何処とはあえて言わないが…いい。


「うううっ、すみません…ご迷惑をおかけしました…」


 どうもこの子は見た目がものすごいクールビューティーなのにドジっ子で微妙に残念臭が漂っている。


「なぜあんなことになったのかな?」


「ううっ、昼間お借りする分は働いて返せばいいと言うお話でしたから…その…夜のお相手もしないといけないのかなって…

 どうせディア様が助けてくれ、いただけなかったら盗賊たちに本当に嬲り殺しにされていた身ですから…ディア様が望むならそれもありかなって…でも私経験なくって…怖くって…すみません、てんぱっちゃって…」


 あー、昼間の働くを『体で返す』と勘違いしたのか…

 これは俺の説明も足りなかったな…


 少し考えればそう言う発想が出て来るのは自然な流れだった。

 実の所お金のために体を売る女の子というのは珍しくはないのだ。


 例えばこの宿屋にも男の相手をする半娼婦、半従業員という女の人はたくさんいる。必要があれば好みの娘を送ります。というような話が宿の支配人からはあったのだ。そして娘さんたちもかなり期待に満ちた目でこちらを見ていた。


 連れがいるからと丁重にお断りしたのだが、それがかえって誤解を生んだのだろう。俺が風呂に入っているときに彼女がきたらいろいろ気をまわしてくれたらしい。


 この国で生きている娘さんたちが尻軽というわけではないのだが、お金が無くてやむにやまれぬという状況は間々あるようで、そういう時に若い娘さんなら自分の貞操をお金に換えるという選択肢をとる場合は多いようだ。

 そうしなければ首をくくるしかなければ他に選択肢などないのだろう。


 だがよくあること=軽い決断というわけではない。


 この国でも処女性は間違いなくステータスである。


 貴族や士族、商人でもそうだがある程度良い家柄を持つ男は相手の処女性を気にするものなのだ。

 血統を大事にするがゆえに。


 つまり処女であれば生まれてくる子供が自分の子供であるという保証になるからだな。


 逆に言うと処女を失うとある程度の家柄を持った男との婚姻などはかなわなくなるとまでは言わないが難しくはなる。

 それが不幸に直結するわけではないのだが、体を開くというのは間違いなく戻れない選択みちではあるのだ。

 つまりクレオル嬢はそれだけの覚悟をしてきたということになる。

 俺の失敗だね。


「えっとクレオルさん、言葉が足りなくてすまなかった。俺は普段は冒険者、そして商人としてお金を稼いでいるんだ。

 例えば旅の途中も狩りはしているし、商売になることはしているわけさ。クレオルさんはもともとは冒険者の御両親に仕込まれたと言っていたから、こまごました仕事はできるだろう?

 そう言う仕事をお任せして、その分給料を払おうかな? と考えたんだよ」


 解体作業を任せられる人を雇うというのは前々からあった発想だ。ただ俺はいろいろ規格外なので目立たないために簡単にそう言う決断もできなかった。

 だがどうせ連れていくのならその心配もするだけ無駄だ。

 よい人材が見つかってラッキーという感じだったのだ。


 クレオル嬢の顔がみるみる赤くなっていく。

 部屋には魔導灯がともっている。地球で言う所の電球のようなもので、電球を複数刺したシーリングライトのようなやつが輝いていて、クレオル嬢の顔もはっきり見える。

 よほど恥ずかしかったのだろうそれはもうまっかっか。


「きゅう…」


 とか言って目を回してしまった。


「やれやれ、風呂場といいここといい、本当に刺激的なお嬢さんだな」


 この娘をルトナに合わせてはいけない気がする。たぶんルトナはこの娘をハーレム要員として引きずり込もうとするに違いない。たぶんこういう娘はあの子の好みだからね。

 ルトナは本気で俺を中心にしたハーレムを作るつもりでいるのだ。

 そこの女主人がルトナの夢だから。


 まああまり普通のお嬢さん向きの夢ではないだろう。


 俺は明日の予定を組み立てながらクレオル嬢を彼女の部屋に送る。部屋のカギはかけられないがモース君を部屋に置いてきたから心配はあるまい。


「できれば雑事は午前中に済ませて昼頃には出発したいなあ」


 各ギルドの連中の働きに期待しよう。


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