4-03 王都アリオンイラー
4-03 王都アリオンイラー
新車での旅は快適だった。
恐るべし古代魔法王国という感じだ。
これが地球のような文明ならそれほど驚いたりはしないのだが、この魔法文明、ある部分では確実に地球の文明を追い抜いていた。
そうでないところもほぼ同等。
例えば水道の蛇口。
デザインはともかく構造はほぼ同じ。フレキシブルアームで自由に伸びるのは便利だな。使用者が前に立つとその人の余剰魔力で起動する。
すると魔法陣が展開して直流なのかシャワーなのか温水なのか冷水なのか指定してやれば水が出てくる。
水はどうやらこの拡張空間の奥に溜められるようになっていて、池や川に取水ユニットを放り込むと環境に影響がないレベルで水を取り込んでくれる。しかもフィルタリング機能で完璧な浄水になる。
主動力は魔石で人間が起動キーになっていて人間が離れると自動で止まる。
お風呂もいい感じに便利になってる。温度設定をしてやると今汲んであるお湯を循環させ、完璧にゴミを取り除き、温めなおしてくれる。二十四時間風呂だ、だから温泉のように常にお湯がタパタパと流れていて、見た感じもいい。
お風呂とは別にシャワーというか体洗浄機が付いていてこれもまたすごい。
入ったときはびっくりした。四方から水のような物が吹きつけられ、おぼれる~かと思ったが呼吸に影響はない。そしてある程度吹き付けが終わるとするすると流れて行ってしまった。体に濡れたところなどまったくない。
あっ、ちなみに間違えて服を着たまま作動させてしまったんだけど、ふくもまったく濡れてないんだ。たぶんそういう物なんだろうな。
頭のフケもきれいさっぱり。
毛穴の汚れなどもきれいに除去されるので美容にもいいようだ。
お風呂はあくまでも楽しみに入り、体を洗うのは体洗浄器という感じになるのだろう。
掃除などもかなり魔法的になっている。
こういった世界の旅なので当然夜は見張りが必要なのだがそれも大した問題ではない。
外の騒音や振動が中にいるとまったく分からないので、夜見張りして寝不足でも昼間、中で安眠ができる。完璧な交代睡眠だ。
二十四時間戦えちゃう仕様だ。
しかも驚いたことに短時間強制回復睡眠装置みたいなものまであった。
二時間で一〇時間分の疲れが取れて目覚め超すっきりというあれだ。
こうなるとやっているのは魔法なのにSF映画の中にいるみたいであきれてものが言えない。
魔法王国、マジで舐めてました。さーせん。
思わず謝っちゃうよ。
そんな環境でくつろぎつつ数日、俺達は無事に王都についた。
峠道を抜けて南に二日ほど進むとそこが王都だ。
アリオンゼール王国の王都。名前はアリオンイラー。王都アリオンイラーというらしい。
山から離れるほど斜面はなだらかになり、王都あたりになるとほぼ平地と言っていい。
山から流れてきた川が王都の手前で湖になり、その南に王都が存在する。
高原の都、景観としてはスイスとかあっちの方が近いかもしれない。絶景である。
さてこの王都、かなり変わった形をしている。
城塞都市なのだ、ただし障壁は内側にある。
構造的には湖があって、王都があって、その下に迷宮の入り口があるという並びだ。
鳥が翼の先を伸ばして迷宮を取り囲むような形と言うと伝わるだろうか。
そしてその迷宮の周囲に城壁が作られている。
でっかい町の南側に直径三〇〇mほどの広場があり、その中央が迷宮の入り口なわけだ。
俺達は王都の案内板を見ながらへーほーと感心する。
その北、湖の近く山の手に王城がある。西洋風の瀟洒な城だ。敷地はかなり大きそう。一段高い盛り土の上に作られている。
その左右が貴族街。ここら辺も敷地にはかなり余裕を持たせて作られていて広々とした感じだ。
王城と貴族街の南が官公庁街があり、ここは高級な商店や高級ホテルなども並んでいる。
ここからは左右に翼を広げる感じで、二つに分かれ、まず高級住宅街があり、高級でない住宅街があり、簡素な住宅街と続く。
高級住宅街というのはお金持ちや騎士や公務士などのちょっと偉い人たちの住むエリアで、その下は一般の人の住むあたりだ。このあたりは冒険者が沢山いて迷宮に挑んだりしているそうで冒険者街とも言われているらしい。
中の迷宮を囲む障壁の出入り口は三つあって、うち二つがこの左右の冒険者街に一つずつあるようだ。常に多くの人が出はいりしている。
ここら辺は集合住宅などが多くて建物が密集しているのでロンドンの町並みなど思いだすな。
当然街自体にも門はあって俺達は西にある大門から王都に入り、高級住宅街と高級でない住宅街の間の道を進みいったん官公庁街に抜けてから北に転じて王城を目指す。
町の景観とか見た目の移り変わりとか中々見ごたえがあってよかった。
建物もしっかりしていて、この世界の建築技術は決して低くないということがわかる。
そして俺達の前に王城の立派な門が姿を現した。
◆・◆・◆
「とまーれー」
ちょっと芝居がかった韻を踏んだ口調で門の両側に立っている兵士が声を張り上げる。
右に三人、左に三人、計六人の兵士さん。
ただ着ているのは鎧ではなくこれまたイギリスの近衛兵、つまりお城の警備などをしている兵隊さんのような色鮮やかな軍服を着た人たちだ。
頭や左腕、両ひざから下に銀色の防具をつけていて、腰に斧、手に槍を持っている。
この斧は剣よりも短く取り回しがしやすく、しかも攻撃力があり必要に応じでぶん殴ることもできるので街中で使うのには良い武器なのだそうだ。
正式名称はロイヤルガード。通称アックスガードというらしい。
俺達は馬車を止め、全員で降りて兵士の前に、ここら辺は決まりだそうだ。
そして一人一人身分証を見せ。同時にクラリス様のくれた鑑札を見せる。
「失礼いたしました、確認しました。ご案内します。おい!」
書類を改めていた兵士が後ろに呼び掛けると門のすぐ後ろに作られた建屋から若い兵士が飛び出してきて、敬礼をする。
「こちらの方々を二番口にご案内しろ」
「はっ、こちらの方々を二番口にご案内いたします」
直立不動でいかにも兵隊さんっぽい。
「ご案内いたします」
そう言う若い兵士さんについて再び
二番口というのは下級貴族用の出入り口らしい。一瞬首をひねったが俺は下級貴族だったことを思いだした。
兵士の案内で庭を進む間チラリと馬のような騎獣に乗って走っていく人影が見えた。
同じ方向に行くようだなあ…なんて思っていたら正体はすぐにわかる。
入り口に着いた時にすでに迎えが出てきていて、しかも用事を把握していたからだ。
つまりあれはお知らせに走った兵士だったわけだな。
直ぐに
立派な玄関があって、立派な通路があってすでにわけわからん。
王宮の中は部屋もいっぱいあってそのうちの一つに通された。
ひょっとしたらこれ全部控室なんだろうか?
お茶など出されてもなかなかくつろげないのだが、神経が太いのかルトナとかエルメアさんとかフフルは平気なようだった。
シャイガさんは俺と同様に少し緊張している。
そしてすぐに謁見。
まあ相手は国王陛下ではなくお世継ぎの王女殿下なので国王様ほど忙しくはないのだろう。
謁見と言っても通されたのは小さめの部屋で椅子もテーブルもある。たぶん応接間の一つだろう。一応入る時に礼をし、クラリス様の前でひざまずいて挨拶をする。
「みんな無事の帰還を嬉しく思います。また、アウシールでは迷宮の異変解決に尽力してくれたようで嬉しく思いますよ」
さすが王族、とかおもったら。
「まあ固い話はここまでにしましょう、みんな待っていたんですよ、さあ、座って座って」
俺達の他は女性騎士さんが四人、みんな苦笑している。ちなみに通信の魔導具というのがあって迷宮都市のキハール伯爵から連絡は来ていたらしい。
あったことないのに情報網がすごい。
でまずはお土産を渡そう。
「まあこれってエルフワイン? めったに手に入らないのよ」
そもそも出回ることが少なく、万が一出回ると物凄い値段がつくことになるらしい。
ドワーフは麦から大量に作った酒を好んで飲むが、エルフは良い果実で味にこだわるので人間には、酒の味にこだわる人間にはそちらの方がありがたがられる。
「このお酒を貰ってこれたということはエルフとの取引はずいぶんうまく行ったみたいね。言ったとおりだったでしょう?」
そうそう、そう言えば大丈夫だから行けと言ったのもこの人だった。
それからシャイガさんが素材の状況、下準備の状況などを説明し、二日後から順次サイズを確認してブラの製作に入るという予定が組まれた。
シャイガさん高貴なご婦人のおっぱい見放題である。…気の毒に。
「ところで~」
といたずらっぽい顔でクラリス様が俺とルトナに微笑みかけた。
「二日後のその日はルトナちゃんもディアちゃんも一緒にきてくれる?」
?
「実は二人の事を娘のサリアに話したのよね~、そしたらすごく会いたがって、でも今日は迷宮見学で下に降りているの、ざんねんだわ~タイミングが合わなくて~」
さらに『?』
「ああ、迷宮見学というのはねこの国の貴族や王族の子供を8歳の誕生日に迷宮に連れて行って、迷宮の空気を感じてもらうという催しなのよ。迷宮で戦えないものはこの国で人の上に立つ資格はないのよ~。とはいっても女の子は形だけね。
実はおとといはそれで凄いパーティーをやったの。ルトナちゃん達も参加できるとよかったんだけど。ほんとうにざんねんなタイミングねえ~」
いえいえ参加できなくてよかったですよ?
そんな御大層なところ行ったら肩凝って死んじゃうよ。
まあ肩こりで人が死ぬとは思えないけど。
そんな時にノック音が響いた。
「いやだなにか緊急かしら…」
クラリス様の喋り方が締まったものになる。
「失礼いたします、殿下…実はサリア様が…葉化け蟲に刺されたと…今しがた連絡が…」
クラリス様の手からカップが落ちた。
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